ひさびさの更新、「最強!赤道儀伝説」。古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていきます!第4回はSky-Watcherの「 Star Adventurer GTiマウント」です。

オートガイドに始まった赤道儀のIT化。自動導入は常識となり、Plate Solvingを活用した完全自動撮影など、利便性がますます高まっています。さらには「波動ギア赤道儀」も低価格化してきました。でも・・お高いんでしょ?円安の進行もあって、怒濤の物価高の波は天文界にも押し寄せてきました。

そんな中で「庶民の味方」Sky-Watcher社が意欲的な赤道儀を出してきました。軽量コンパクトでありながら、機能は全部入り。そして価格はなんと99,000円(希望小売価格)。時折開催されるセール時には、三脚セットで74,800円になる場合もありました(*)。



(*)サイトロンジャパンの直営店であるアストロ&バードショップ シュミットでは、現在平常時は20%OFFで販売されていますが、セール時は33%OFFに設定される場合もありました。

シュミット・Star Adventurer GTiマウント
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天リフ編集部ではこの Star Adventurer GTiマウントをお借りし、徹底的に使い込んでみました。その結果、この製品は低価格小型赤道儀のまさに決定版ともいえる優れた製品だと確信しました。単に安いというだけではなく、小型赤道儀に必要とされる利便性がしっかり作り込まれています。最初の1台にも、ベテランのサブ機としても、全方位的に活用できることでしょう。

毎度のことながら鬼長い記事ですが、じっくりごらんください!

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この記事の内容株式会社サイトロンジャパン特別協賛!(*)
自動導入対応、最安。実売価格7万円台の小型赤道儀 Star Adventurer GTiマウントは、コンパクトな筐体にWiFi搭載。最新の機能がオールインワンで使用できる、初心者からベテランまで広く活用できるエントリ価格の高機能マウント!外観・使用事例からささまざまなTipsまで、徹底解説します!

(*)特別協賛とは、本記事のサムネイルおよび記事中にスポンサー様の特別広告枠を掲載することにより対価をいただく形です。記事そのものの編集ポリシーは通常の天リフ記事と同等です。

シュミット・Star Adventurer GTiマウント三脚セット
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目次

Star Adventurer GTi 最強!伝説・その1

最強!お手軽ディープスカイ撮影

撮影風景。ガイド用カメラにFMA-180を搭載していますが、オートガイドは使用しませんでした。

Star Adventurer GTiマウントの最大搭載重量は5kg。屈折望遠鏡なら口径8cm〜10cmクラスまでなら搭載できます。上の構成は口径76mmのタカハシFC-76DCUを搭載したところ。カメラ・鏡筒バンドなど一式で約5kg強。

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 α7S(天体改造) ISO12800 30秒1枚 Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾 西オーストラリアWaddi bush resortにて

南半球・オーストラリアで撮影したηカリーナ星雲。焦点距離は約600mm、30秒露光の1枚撮りです。正直いって架台の限界をやや超えた構成なので、これ以上の長時間露光や風が吹き出すと厳しいですが(*)、なんとか点像を保ってくれました。お手軽なセットアップでもこれくらいの天体写真を撮ることができるのです。

(*)30秒露光の歩留まりは60〜70%くらいでした。180枚歯なのでピリオディックエラーの周期は8分。後述しますが、サインカーブを描く±30秒角の誤差の場合、30秒露光では最大16秒角、最小2.3秒角となります。

最強!モザイク星野の自動撮影

FMA180(初代)EOS 6D(SEO-SP4) ISO5000 4*4モザイク 各パネル2分2枚 総露光64分 Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾 ASIAIRのモザイク機能で放置撮影。 フラットあり、ダークなし DSSでスタック

自動導入が使える赤道儀には大きなメリットがあります。ASIAIRやステラショットのような撮像ツールを使用することで、さまざまな撮影を自動化できるのです。

上の作例は焦点距離180mmのコンパクトなアストログラフ「FMA180(初代*)」を使用し、4×4=16枚のモザイク撮影。このような多パネルのモザイク撮影を手動でやると相当に大変ですが、自動撮影なら構図を指定してスタートするだけ。

(*)現在は終売。新型の「FMA180 Pro」に置き換わっています。青ハロが減少しさらに高性能になったようです。

画像処理はまあ大変ですが(^^;)、カメラレンズの1枚構図とは比較にならないほど高精細なリザルトが得られます。ASIAIRのようなツールの出現で、このような撮影が劇的に楽になりました。

上の動画は作例撮影中のショット。最初の数コマの撮影でガイド状況(*)とモザイク撮影の挙動を確認した後は、撮影は全てStar Adventurer GTiマウントとASIAIRにお任せしてその場を離れました。結果はご覧のとおりバッチリでした!

(*)この時はガイドカメラがなかったのでオートガイドなしの恒星時追尾でした。ピリオディックエラーが±30秒角のサインカーブを描く場合、1パネル2分の露光時間では追尾誤差は最大30秒角、最小9秒角程度になります。焦点距離180mmとはいえ、さすがに2分は長すぎたようで、ガイドの歩留まりは50%でした。

最強!皆既日食海外遠征

タカハシFC-76DCU エクステンダーx1.7  α7SIII 動画より切り出し  Star Adventurer GTiマウント 西オーストラリアエクスマウスにて

2023年4月20日のオーストラリア皆既日食にStar Adventurer GTiマウントを持ち込みました。上の画像はライブ配信の動画から切り出したものですが、日食の一部始終を安定して収録することができました。

海外遠征では機材をできるかぎり軽量化したいもの。Star Adventurer GTiマウントの本体重量は2.6kg。上の画像は旅行用キャリアケースとStar Adventurer GTiマウントのサイズ比較。このサイズ、ほとんどポータブル赤道儀です。価格が跳ね上がることを受け入れられるなら海外遠征の決定版は「波動ギア赤道儀」かもしれませんが、実売7万円台のStar Adventurer GTiマウントでも十分な戦闘力があります。

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Star Adventurer GTiの特徴

二軸駆動、自動導入対応

本体はカラー印刷された化粧箱に入っています。このことからも、よりローエンド層のユーザーを意識していることが伺えます。

Star Adventurer GTiマウントの特徴をひと言で表現すると「全部入りの低価格な小型赤道儀」です。二軸駆動・自動導入対応でWiFi内蔵、極軸望遠鏡搭載。1クラス・2クラス上の赤道儀と〇×表レベルで比較しても「ない機能」はほぼありません。

もちろん「小型赤道儀」なので、搭載重量は最大5kgと限られますが、赤道儀として最新の機能がほぼ全部入った製品です。

小型軽量、低価格

本体のみの実測重量は2602gでした。プラパーツとアルミニウム合金が合理的に使い分けられており「無駄に重い要素がない」印象。

Star Adventurer GTiマウントの本体重量(ウェイト、ウェイトシャフト含まず)は実測2.6kg。自動導入可能な赤道儀としては最軽量クラスの軽さです。


付属のウェイトシャフトとウェイトの合計重量は実測2.9kg弱。これらを全部合わせると合計実測5.5kgとなりそれなりの重さになります。それでも軽量であることには変わりありません。「三脚セット」に付属の三脚は重量2.6kg。その場合の一式の総重量は8.1kgとなります。

極軸望遠鏡を標準装備

「全部入り」のStar Adventurer GTiマウントは、もちろん極軸望遠鏡も標準装備。上の画像は赤緯体側からみたところ。先端には小さなプラキャップが付いています。極軸望遠鏡は明視野照明が付いていて、SynScapアプリから光量調整が可能です。

Star Adventurer GTiマウントに限った話ではありませんが、赤緯軸の回転位置によっては上の画像の下のように極軸望遠鏡の視野を隠してしまうので、極軸望遠鏡のレンズが全て見えるような位置に赤緯軸を回転させてから極軸合わせを行います。

極軸望遠鏡の接眼部側から見たところ。極軸合わせのためのパターン(上画像右)はSky-Watcher社の他の製品にも採用されている、北半球では二重円、南半球でははちぶんぎ座の4つの星を使用するものです。この4つの星は「はちぶんぎの台形」ではないことに注意する必要があります。詳細はこちらの記事を参照ください。

極軸望遠鏡の視野角は8.5度、口径は目測ですが10mm強程度と小さなものです。北極星は問題なく見えますが、光害地や南半球では辛い場合ががあるかもしれません(*)。

(*)筆者がオーストラリアで使用したときは、潔く?ASIAIRのPolar Align機能を使用しました。

Wifi制御

左)電池カバーには「WiFi」のマークが。右)SKy-Watcher社共通のコントロールアプリ「SynScan Pro」の トップ画面

従来、Sky-Watcher社の赤道儀は有線型の「SynScanハンドコントーロラ」が標準付属でしたが、ここ数年コントローラが付属しないWiFi接続オンリーの「Wモデル」が中心になってきました。操作性にも優れ低価格化にもなるスマホ制御が今後主流になることでしょう。

本体上部に集約されたスイッチとケーブル端子。左上からオートガイド端子、ハンドコントローラ端子(8ピン)、USB-B端子、電源端子、LEDインジケーター、カメラのシャッターコントロール用のSNAP端子、電源スイッチ。さらにその下の丸いネジが電池カバー固定用ネジ。

そのせいか、Star Adventurer GTiマウントもハンドコントローラは付属せず、WiFi接続でスマホ・タブレット・PCからのアプリ経由で制御することが標準になっています。有線型のハンドコントローラのコネクタも備えているので、すでにハンドコントローラをお持ちの方(*)はそのまま接続して使用することもできますが、まあ普通は使う機会は少ないでしょう。

(*)経緯台モデルに付属している8ピン-6ピンケーブルでは使用することができません。

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合理的な各部の設計

左)2枚の扇形のフォーク部が赤経体を左右から挟み込む形になっています。フォーク部は適度に肉抜きされた薄手のもので、軽量化と剛性を両立させています。右)高度微動で極軸を合わせた後は緑色の大きなダイヤルを締め込んでガッチリ固定することができます。その下の小さな長いネジは水平微動。

ずばり「無駄に重い要素がない」のがStar Adventurer GTiマウントの美点。Star Adventurer GTiマウントは、高度水平微動部・赤経体・赤緯体が一体のものとして設計されています。各部も金属である必要がない本体カバーの一部、赤緯クラッチ(*)などにはプラパーツが使用されていて、軽量化に貢献しています。

(*)赤緯軸・赤経軸を固定する機構は一般には「クランプ」と呼ばれますが、Star Adventurer GTiマウントの取説では「クラッチ」と表記されています。本記事ではその表記に従っています。

Star Adventurer GTiマウントは、赤道儀の各部をユニット化して何通りもの運用方式を実現できる(ないしはパーツの追加で拡張していける)いわゆる「システム赤道儀」とは設計思想が異なります。赤道儀の全てが一体化された状態を前提としてデザインすることで、使いやすさと軽量化、そして剛性を両立させることができたのでしょう。

最近の赤道儀はCNC工作機器による「削り出し」で製造された製品が増えてきましたが、Star Adventurer GTiマウントは主にダイキャスト(金属素材を「型」に流し込む製法)製。「削り出し」と「ダイキャスト」は一長一短がありますが、赤経体を支持する高度方位微動を備えたフォーク部は、まさに「ダイキャスト」ならでは。「ダイキャスト」は複雑な形状を量産するのに向いているのです。

使いやすい高度方位微動

左)赤経体を支えるフォークには緯度目盛が付いています。右)赤経体の高度微動部。高度微動の大きなハンドルの右には水準器が。

特によくできているのが極軸合わせのための高度・水平微動部。高度・水平とも非常にスムーズに調整することができ、中型赤道儀を含め筆者がこれまで使用した中でベスト級の使いやすさでした。エントリクラスの製品でこのレベルを実現したことには、正直いって賞賛しかありません(*)。

(*)極軸の高度微動は片押し式の「上げる動きは微動できても、下げる動きが苦手」な製品が多いのですが、本製品はタンジェントスクリュー式で、低緯度・高緯度状態であっても上げるのも下げるのもスムーズ。水平微動も架台の重心が偏っていない(後述)ため、搭載限界の機材を載せた場合でもスムーズでした。

ウェイト軸のオフセット・高緯度70度〜低緯度0度まで対応

左)ウェイトシャフトをオフセットした状態。右)ウェイトシャフトを伝統的?スタイルで装着した状態。北緯32度の設定ですが、ウェイトシャフトが高度微動のハンドルにわずかだけ干渉します。

さらに画期的な工夫が凝らされています。ウェイトシャフトを赤緯軸に対して「上反り」にオフセットすることができるのです。上の画像の左がその状態ですが、ウェイトがより上側にズレるため、低緯度地域でも三脚や架台と干渉することがなくなります。

実は、上の画像右のように、中緯度地域であってもウェイトと架台が干渉することがあります。これは赤緯軸が赤経体に限界まで近接した設計になっているから。これまでの赤道儀は、赤緯軸がもう少し天の極側に「突き出た」位置にあるのが普通なのですが、Star Adventurer GTiマウントではもうこれ以上は近づけられない!ほど赤経体に寄せられているのです。

赤緯軸の架頭と赤経軸の距離も限界近くまで近づけられていて、これらの設計の効果で中緯度地域では重心が三脚のほぼ真上になる結果となり、架台の安定性に貢献しています。

左)緯度0度(赤道)仕様。この緯度でまともに使えるエントリ向け赤道儀はこれまであったのでしょうか。右)緯度70度仕様。北緯64度のアイスランドやカナダ・フェアバンクスでも余裕。

これらの工夫の結果、ほぼどんな緯度の場所でも使えるのが「Adventurer(冒険家)」の名に恥じない仕様。赤道直下でも極地に近い高緯度地域でも使えるのは素晴らしい。オーロラ撮影や2026年のアイスランド日食用の赤道儀にいかがでしょうか?^^

太ネジ対応、柔軟な三脚運用

Star Adventurer GTiマウントの底部。3/8インチの太ネジ対応。

Star Adventurer GTiマウントは中型・大型のカメラ三脚と同じ太ネジ(3/8インチ)対応。65mm径程度以上のフラットな取付部(*)と太ネジを持つ三脚であれば、専用三脚以外でも使用することができます。

(*)取付部の径が小さいとマウント底部の外周と接することができず不安定になります。また、付属の取説では「最低でも15kg程度の荷重に耐えられる三脚を使用すること」とあります。

筆者はパイプ径が40mm、重量約2.3kgの2段カーボン三脚を主に使用しました。三脚はブレを最小にするためにも、しっかりしたものを選ぶのがよいでしょう。

一つ注意があります。架台底部のネジ穴に、太ネジ仕様のネジ穴を細ネジ仕様に変換するアダプタを介して細ネジを使用するのは、止めた方がよいでしょう(*)。特に、このようなアダプタのうち「ストッパー付き」と呼ばれるタイプ(上画像右下)は、Star Adventurer GTiマウントの太ネジ穴にこのアダプタを装着しても先端部が飛び出してしまう(上画像右上)ため、安定して装着することができません。そればかりか、アダプタやネジ穴を破損して外せなくなる危険があります。絶対止めておきましょう。

(*)付属の取説にも「太ネジが標準装備されていない小型の三脚は使用しないでください」とあります。

なお、出っ張りがない「ストレートタイプ」と呼ばれるタイプなら装着可能と思われますが、耐荷重的にあまりオススメできるものではないと個人的には感じています(*)。

(*)この嵌合部には架台2.6kgと搭載物・ウェイトで10kgを越える重量が載ることになります。

コスパに優れた専用三脚

純正三脚セットに付属する三脚。https://www.syumitto.jp/SHOP/SW1240020482.html

こちらは純正の三脚セット付属の三脚。三脚部の重量が2.6kg、同社のEQ5赤道儀付属の三脚よりも一回り細いパイプ径ですが、ハーフピラー(重量0.6kg)も付属し、かなり安価な設定となっているので(*)、手ごろな三脚をお持ち出ない方はこちらも有力な選択肢かもしれません。

(*)希望小売価格ベースで、マウント単体のみの価格+13,475円です(2023/5/末現在)。セールではマウント単体のみの販売と価格が逆転する現象も起きていました。

シュミット・Star Adventurer GTiマウント三脚セット
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ただし、ハーフピラーは天頂付近を向けた際の三脚への干渉の心配が少なくなるなどのメリットがある反面、重心が高くなり風や振動の影響を受けやすくなるデメリットもあります。ケースバイケースで使い分けるのが吉です。

収納がしやすい「角形」の形状

サイズ感が分かりやすいようにむき出しの状態で撮影しています。実際にはプチプチでびっしりくるんでからケースに収納しました。

Star Adventurer GTiマウントは「角形」を基調にしたデザインで収納・運搬の際に収まりがいいのもグッド。2023.4.20の皆既日食遠征では、上の画像のようにアルミ製のケースに収納して運搬しました。

 

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Star Adventurer GTi 最強!伝説・その2

最強!ライトウェイト電視観望

ASI294MCは非冷却タイプ。この構成であれば簡単に設置し、居室からWiFi接続してリモートで操作することができます。

上のシステムは、Star Adventurer GTiマウントに、焦点距離250mmの「RedCat 51」と天体用CMOSカメラASI294MCを搭載したもの。換算焦点距離は500mm。M42やM8、M31のような大きめの天体を電視観望で狙う想定です。

小型の鏡筒でもじゅうぶん楽しめる「電視観望」ですが、これまで「小さい鏡筒」にはは多くの選択肢がある一方で、それに見合った小型軽量な架台の選択肢が少ないのが現状でした。その点、Star Adventurer GTiマウントは自動導入が可能で、小センサーのCMOSカメラを使用した換算焦点距離の長いシステムでも容易に対象が導入できます。同じSky-Watcher社の「AZ-GTiマウント」と並んで、電視観望向けの架台だといえます。

いて座のオメガ星雲M17。RedCat51 ASI294MC(非冷却) 10秒50枚ライブスタック ダーク、バイアス、フラット適用 StarAdventurer GTiマウント L-eXtremeフィルター 福岡市内自宅ベランダにて

上の画像は筆者の自宅のベランダからこのシステムで電視観望したもの。総露光時間は500秒、8分強。機材の展開・設置も簡単で、セットアップが終われば自室のデスクから全ての操作が可能。これって「自宅リモート」かも^^

こぎつね座の亜鈴状星雲M27。RedCat51 ASI294MC(非冷却) 10秒53枚ライブスタック ダーク、バイアス、フラット適用 StarAdventurer GTiマウント L-eXtremeフィルター 福岡市内自宅ベランダにて 画面拡大

光害地で電視観望を行う場合は、光害カットフィルターが効果的です。上の例ではOptolongの「L-eXtreme」フィルターを使用しました。このフィルターは光害カット・星雲強調の効果が非常に高い、半値幅の狭いデュアルバンドパスフィルターですが、光量が大幅に低下するため短い露光時間ではPlate Solvingによる導入が失敗することもあります。もう少し半値幅の広い「Quad BPフィルター」もより手ごろな価格でオススメです。

ライブスタックによる電視観望の場合、1コマの露光時間を短く(10秒程度)設定することで、追尾エラーについてはほぼ心配がなくなります。上の画像の場合、換算焦点距離は500mmでさらにトリミングしてほぼ等倍程度になっていますが、星像はほぼ円を保っています。

画質を考えるともう少し1コマ当たりの露光時間は長くしたいところですが、無理に長くするよりも短秒露光・多数枚ライブスタックにする方が、失敗が少なくストレスなく楽しめるのではないかと思います。

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最強!電視+眼視観望

西オーストラリアで。空の暗い環境では、8cmクラスの小型望遠鏡でも、散開星団を中心に美しい星空を堪能することができます。不案内な南半球では自動導入が大活躍。

眼視観望をもっと手軽に楽しんでほしい、という思いが筆者にはあります。一方で、眼視観望の弱点は「知らない天体は導入できない」ことと、形に残る記録が残らないこと。それを解決するための実験的なセットアップを、Star Adventurer GTiマウントで試してみました。

このコンセプトは別の形で改めてご紹介したいと思いますので、本記事では触りだけ。必要なものは自動導入可能な赤道儀、眼視観望用の鏡筒、電視用の小型望遠鏡とCMOSカメラ、そしてASIAIRです。

ηカリーナ星雲の近くにある散開星団、NGC3532。メイン鏡筒の76mm屈折望遠鏡で天体を眺めながら、同架したFMA180+SI294MCで30秒の短秒露光で撮影。対象の画像と眼視の記憶をセットで記録できます。アノテーションをかけておけば、対象名も同時に残ります。

Star Adventurer GTiマウントのアプリSynScanProは、基本機能は押さえてはいるものの、星図機能がないなど眼視観望のお供としては若干物足りないところがあります。そこで、ファインダー兼撮影鏡筒としてFMA180とASIAIRを同架。眼視で眺めながら30秒の短秒撮影をしたものが上の画像。ライブスタックを使ってもいいのですが、プレビュー画面で撮影する方が逆に簡単。Plate Solveで導入することも、見たい場所に移動することも可能。アノテーションで対象名を画像に描き込むこともできます。

結果は大成功。不案内な南半球の星空でしたが、散開星団を中心にたっぷりと楽しむことができました。一つ大事なポイントはメイン鏡筒とファインダー兼撮影鏡筒の光軸を合わせることですが、低倍率だったこともあり、微調整なしのパーツ精度頼みでなんとかなりました(*)。

(*)0,5度程度の精度であれば、実は目分量でも光軸は出せるものだという印象も受けました。これがただの幸運だったのかは今後の検証課題です^^

この手法は別にStar Adventurer GTiマウントでなくてもトライできるのですが、荷物の制限の多い海外遠征でこういう遊びが実現できたのは、Star Adventurer GTiマウントの軽量さと「全部入り」の利便性ならではだと感じています。

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Star Adventurer GTiの使いこなしTips

スマホ・タブレット・PCのいずれかが必須

Star Adventurer GTiマウントを使用するためには、この3つと、それぞれの環境用のアプリ「SynScan(Pro)」が必須になります(*)。これがないと、電源を投入できてもそれ以上架台を動かすこともできません。もはや当たり前に近いことではあるのですが、特に初心者の方は、このことをしっかり認識しておく必要があります。

(*)「SynScanハンドコントローラ」があれば不要になりますが、付属していませんし単体で購入するとけっこうなお値段になります。操作性の意味でもあえて新規購入までして使うものでもありません。なお、SynScanとSynScanProの二種類がありますが「SynScanPro」が推奨です。

なおSynScanアプリのPC版はWindows版だけで、Mac版はありません。ただしApple Silicon搭載のMacの場合はiPadOS版を使用することができます。

イナバウワーの限界


Star Adventurer GTiマウントは、いわゆる「イナバウアー状態(子午線を大幅に超えた状態)」が、物理的に制限されています。上の画像は可動域の限界から限界までのアニメーションですが、南中を越えた東西に20度弱ほど動作しますが、そこから先は架台が物理的に回転しない構造になっています。

さらに注意があります。追尾ON状態状態のまま放置して南中を過ぎ、物理的限界まで達しても架台は回転しようとし続けます。実際には赤経軸が空転(*)するだけなのですが、空転を始めると架台の物理的な位置とコントローラが認識する位置はズレ続けて行きます。この動作はSynScanアプリから手動で赤経軸を回転させても同じです。

(*)このため赤経軸の「クラッチ」をあまり強く締めすぎるのはよくありません。本機の赤経軸を止める機構は、完全に固定するための「クランプ」ではなく、一定の空転の余地を残す意味での「クラッチ」なのです。

これは気を付けないと困ったことになります。南中を過ぎて物理限界に達する前に、マニュアルで停止・反転操作を行わなくてはなりません(*)。うっかり物理限界を越えてしまうと、追尾が停止してしまうだけでなく、アライメントがずれてしまう結果になるからです。これはアプリ側で子午線越えの限界を認識して追尾・赤経軸の回転・追尾動作をストップさせて欲しいものです。

(*)フリッピングモードを「オート」にしておけば、子午線を越えた状態で再度同じ対象を自動導入する際には子午線反転が行われます。

筆者は主にASIAIRで使用しましたが、この場合はASIAIR側の「Auto Medirian Flip(自動子午線反転)をONにしておけば自動的に反転してくれるのでこの問題は解決するのですが、この仕様には「そういうものだという割り切り」が必要です。

実はまだ細かい話があるのですが、こちらは後節の「Star Adventurer GTiに望むこと」にまとめました。

注意すべきアプリの設定

Star Adventurer GTiのコントローラアプリ「SynScan Pro」には、さまざまな設定があります。そのほとんどは初期値のままで使用しても問題ないのですが、いくつか注意すべき設定があります。

ひとつ重要なところをご紹介しておきましょう。「設定」の「高度制限」です。この設定は、望遠鏡を天頂付近や地平線以下に向けた際に、鏡筒と架台・三脚が干渉することを防ぐための設定なのですが、地平線下の設定は初期値の0度で良いとしても、天頂付近の初期値「75度」は若干厳しめです。天頂付近の対象を自動導入しようとしてもなぜかできない!場合は、こちらの設定を確認してみてください。

ただし「90度」に設定して制限を完全に解除した場合は、三脚と鏡筒の干渉による事故は自己責任です(*)。くれぐれもご注意ください。

(*)この意味でも、前項の子午線越えの物理制限同様に、赤緯・赤経のクラッチを「ガチ締め」しないことは重要です。ある程度クラッチに空転の余裕を残しておくことで、万一の破損の危険を減らすことができるでしょう。同時に、赤緯軸・赤経軸ともにバランスをしっかり取って、強く締め込まなくても鏡筒が安定して保持されるようにしておきましょう。

電源

エネループ8本と電池ボックスの重量は242g。72WhのUSB-PD12V対応モバイルバッテリと12Vトリガケーブルの重量は394g。

Star Adventurer GTiマウントへの給電方法は大きく2通り。付属の単三電池ボックス2個を使用するか、9.0〜12.6Vまでの直流電源を外部からプラグで接続するかです。どちらを選ぶかは用途次第でしょう。軽量化を重視するなら単三電池に分がありますし、12V電源が他と共有できるのなら外部給電の方が楽です。

筆者は上の画像の右のUSB-PD12V対応モバイルバッテリと12Vトリガケーブルで使用しました(*)。これなら比較的小型のバッテリでも問題なく使えます。

(*)USB-PD(Power Delivery)規格の普及で、天文系に多い12Vの給電がとても便利になりました。しかし、USB-PD規格では12V対応は必須とされていいないため、Ankar社製品など12Vに対応していない製品では9Vしか給電されないことになります。Star Adventurer GTiマウントは9Vでも動作するので問題ないはずですが。

なお、12Vの電源は2A以上の電流が必要となります。USB-Aの5Vを12Vに変換する安価な昇圧ケーブルなどでは出力不足になる可能性が高いことにご注意ください。

左)電池ボックスカバーを取り外したところ。筆者はモバイルバッテリを主に使用していたので、電池ボックスは取り外していました。右)電池ボックスを取付けたところ。取付といっても、落とし込むだけです。

付属の電池ボックスは本体のカバーを外すと現れます。このプラ製カバーの嵌合(寸法?)があまりよくありません。電池ボックスを入れた状態ではカバーがきっちりはまりにくかったり、電池ボックスがジャマして極軸望遠鏡の黒いカバーが中途半端にしか閉まらなかったりすることがありました。単三電池運用は初心者ほど利用頻度が高いでしょうから、このあたりの使い勝手は改善してほしいものです。

本件についてサイトロンジャパン様に問い合わせたところ、実は、電池ボックスに電池を入れたまま収納すると液漏れによって回路を破損する危険があるため、電池ボックスに電池を入れた状態では極軸望遠鏡のカバーはあえて閉まらないような設計になっている、とのことでした。

極軸望遠鏡のカバー(右)は、2つの爪で本体カバーに装着するのですが、電池ボックスに電池を入れた状態では、カバーの爪が刺さらないようになっています。これは液漏れによる回路破損を防ぐための配慮であるとのことです。

極軸合わせ

真ん中に飛びでているのが明視野照明の赤色LED。4つのネジで固定されているカバーは実はプラ製。

前述の通り、Star Adventurer GTiマウントの極軸望遠鏡は口径が小さい上に明視野照明のLEDによる遮蔽もあり、あまり星が明るく見えません。北極星が使える北半球ならともかく、5等星頼みの南半球では難度が大幅にアップします。電子的な極軸合わせの手段(ASIAIRやSharpCapなど)を使うことを圧倒的にオススメします。

電子極望を使う際に一つ課題があります。多くのユーザーに使われている「Pole Master」を取り付ける方法が、にわかには思いつかないこと。赤緯体はやや複雑な形状をしたプラカバーで覆われており、自作するのもどうしたものかという感じです。

このあたりは、きっとどこかのパーツ工房が対応してくれることでしょう。と書こうとしたらすでに発売されていました。

http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2023/05/post-ba804e.html
K-ASTEC BLOG Star Adventurer GTi用ビクセン規格アリミゾの発売について
http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2023/05/post-ba804e.html

K-ASTECが最近推している「サイドにも汎用ネジ穴を設けたアリガタ」のStar Adventurer GTiマウント専用版です。このサイド部にPoleMasterのアダプタを装着可能。詳細はリンク先でごらんください。

WiFiに自分だとわかる名前をつけておく

アプリ「SynScan(Pro)」を使うためには、Star Adventurer GTiマウントとアプリをWiFiで接続する必要があります。接続方法は付属の「SynScanPro日本語操作マニュアル」をご参照ください。自宅のベランダなど、自分しかいない環境でしか使用されない方は、このマニュアルの通りで特に何も考えなくてOKです。

ところが、遠征などでSky-Watcher製品を使用している他の方がいるような場所に出かける場合、強く推奨しておきたいことがあります。WiFiのネットワーク名に分かりやすい名前をつけておくこと。端末のWiFi設定を開くと「SynScan_XXXX」というネットワークが現れますが、この中に複数のSky-Watcher製品が存在する場合、どれが自分の架台なのかわからなくなることがあるからです。

同時に、出荷状態ではパスワードなしに設定されているため、WiFiのパスワードを設定しておきましょう。これは悪意による問題を防ぐ意味よりも、うっかり他人の架台に接続して・されてしまうことを防ぐためです。WiFi接続の天文機材が普及した今となっては、この設定変更は必須のマナーといえるかもしれません。

WiFiのSSIDとパスワードの変更は、「設定」「SynScanWifi」の画面から行います。「Modify Access Point」のチェックをONにし、SSIDを変更しパスワードを設定します。「セキュリティ」の選択は、まあどれでもいいのですが「WPA2 PSK」がより安全とされている暗号化方式になります。

ステーションモードの活用

「ステーションモード」とは、Star Adventurer GTiマウントと端末を「直接」接続するのではなく、別のWiFiネットワーク経由で接続する方法です。

「ステーションモード」の概念は、知らない人にはとても分かりにくいのですが、何ぞや?という方に使用するメリットは何かを簡単にご説明しておきます。

  1. 端末をStar Adventurer GTiマウントに接続した状態でも、インターネットにアクセスができる。アクセスポイントモードで接続すると、4Gスマホであってもインターネット接続が使用できない場合があります。
  2. Star Adventurer GTiマウントがより遠くにある場合でも接続可能になることがある。直接接続するアクセスポイントモードでは、ベランダと書斎など距離が離れると通信できないこともありますが、別のWiFiネットワーク(例えば家庭内に設置したWiFiルーター)を経由することで、到達距離がざっくり最大2倍になります。メッシュネットワークが導入されていれば、さらに到達距離が長くなります。
  3. 別のWiFiデバイス(ASIAIRなど)と接続する場合にケーブル接続を減らすことができる。ステーションモードにしておけば、ASIAIRとStar Adventurer GTiマウントをUSBケーブルで接続する必要がなくなり、ケーブルを1本減らせます。

なかなかすっきりした説明が難しいのですが、、、ステーションモードの活用はStar Adventurer GTiマウントに限った話ではないので、別の形でいずれ解説したいと思います。

南半球での使用



左)設定の「観測地」アイコン 中)通常は「位置情報を使用する」になっていて、最後に取得された位置情報が入っています。 右)位置情報を手動で変更する際は「位置情報を使用する」をOFFにして、緯度経度の値を入力します。

赤道儀を南半球で使用する場合、追尾の回転方向を北半球と「逆」にしなければなりません。1軸駆動のポータブル赤道儀では「北半球モード・南半球モード」の切替が必要になるのですが、Star Adventurer GTiマウントは、SynScanアプリを起動している端末が観測地の緯度経度を認識してさえいれば、自動で切り替えてくれます。

ただし、GPS非搭載の端末でインターネット通信環境に移動後に一度も接続していない場合など、観測地の緯度経度が正しく認識されていない場合がありますので「設定」の「観測地」の画面から現在の緯度経度を確認して、正しくない場合は修正が必要です。

南半球での極軸合わせについては、前項の「極軸望遠鏡」で触れたとおり、ただでさえ難しい南天の極軸合わせですので、かなりの高難度です。海外遠征の際は電子的な極軸合わせの手段を用意することをオススメします。

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Star Adventurer GTiの追尾精度

Star Adventurer GTiマウントの追尾精度を検証してみました。まずは画像をごらんください。この画像は、そもそもStar Adventurer GTiマウントではかなり無理目の「焦点距離590mm」で撮影していることをまずはじめにお断りしておきます。

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 焦点距離590mm EOS6D(SEO-SP4) Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾(オートガイド無し) 30秒露光を20枚比較明合成 赤緯側は各コマ4ピクセルずつ南北にシフト ASIAIRのPolar Align機能で極軸合わせ ほぼ無風、望遠鏡の向きは天の赤道付近、東側地平高度約35度

この検証の目的と意味するもの

このような検証画像を、メーカー様に協賛いただいた記事に、あえて掲載する意図をはじめに明確にしておきます。追尾誤差の大きな赤道儀を即、悪い製品であると断じることは間違っています。赤道儀には、価格帯や重量などによって異なる想定用途とコンセプトがあります。今回の検証では(*)、使用した個体のピリオディックエラーは約±30秒角であるという結果となりましたが、この数字だけで製品の良し悪しを即断することはユーザーにとって正しいことではありません。

(*)数少ない特定の条件下のみの検証であり、厳密に検証するためには望遠鏡の向きや風速、ウォームホイルのどの位置にウォームギアが接しているか、機材のたわみの影響の測定など、もっと数多くのデータをサンプリングしなければなりません。さらに、個体差まで評価しない限り製品の総合的な「期待できる精度」は明らかにはなりません。

筆者が声を大にして言いたいことは、この個体でこの記事に掲載したようなリザルトが撮れた、という事実です。赤道儀を含めて、全ての機材で大事なことは目的に応じた「使いよう」なのです。

オートガイドなしでの実写画像の評価(焦点距離590mmの場合)

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 焦点距離590mm EOS6D(SEO-SP4) Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾(オートガイドなし) 30秒露光を20枚比較明合成 赤緯側は各コマ4ピクセルずつ南北にシフト ASIAIRのPolar Align機能で極軸合わせ ほぼ無風、望遠鏡の向きは天の赤道付近、東側地平高度約35度

検証画像について説明します。この画像は焦点距離590mmの鏡筒で、30秒露光で20枚連続撮影し、比較明合成したものです。隣り合うコマは南北方向に4ピクセルづつずらしています。20個の星像は、ピリオディックエラーに応じて東西にずれていきます。一つ一つの星像は、追尾誤差がなければ点像になりますが、30秒の露光時間中の誤差に応じて流れた像になり、ピリオディックエラーの1周期分である8分周期のサインカーブを描きます。

山と山の間は約65秒角となりました。ピリオディックエラーはざっくり±30秒角ということになります。一つ一つの星像を見てみると、サインカーブの山と谷の付近ではほぼ点像になる一方で、裾野では明らかに線状になっています。歩留まりは4/16〜8/16といったところでしょうか(*)。

(*)点像のコマがあるだけでも筆者的には「おっ!」でした。そもそも焦点距離590mmは本製品の想定用途を明らかにオーバーしています(販売店様にも「いや、それは無茶というものです・・・」と言われました^^; 

高精度を謳う赤道儀では、ピリオディックエラーが±3秒角を下回る製品もあります(ただし価格は100万円を超えることもあります)。それと比較すると、Star Adventurer GTiマウントのピリオディックエラーは大きいというのは事実ですが、まず前提として10倍以上の価格差を考慮するべきでしょう。

誤差の最大値は小さくありませんが、一つ注目すべきことがあります。ピリオディックエラーのカーブがキレイなサインカーブを描いていること。ピリオディックエラーは主にウォームギアの偏芯によって起きると一般には言われていますが(*)、評価した個体では「それ以外の短周期の誤差」は少ないといえます。

(*)このため、誤差曲線はウォームギア一回転分(Star Adventurer GTiマウントの場合8分間)を1周期とするカーブを描きます。他の部分(減速ギアやウォームホイルの偏芯)の誤差が大きくなると、様々な周波数成分が乗ることになり、誤差曲線はより「ギザギザ(小周期の誤差)」になることがあります。

オートガイドの効果(焦点距離590mmの場合)

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 焦点距離590mm EOS6D(SEO-SP4) Star Adventurer GTiマウント 30秒露光を20枚比較明合成 赤緯側は各コマ4ピクセルずつ南北にシフト ASIAIRのPolar Align機能で極軸合わせ ほぼ無風、望遠鏡の向きは赤緯-24度付近、東側地平高度約25度 ガイド間隔2秒 aggressiveness 50%-50%

「オートガイド」の効果についても見てみましょう。上の画像は同じ30秒露光・20枚の比較明合成です。まず、オートガイドなしの場合ですが、誤差の山谷の値は20%ほど先の検証画像より少なくなっています(*)。そのためか、星像の流れの歩留まりも13/16程度と大幅に良くなっています。この程度であれば普通に問題なく撮影可能な範囲でしょう。

(*1)対象の赤緯が-24度(M8付近)。その分の寄与は10%程度なので、何らかの別の理由で10%ほど良くなっていることになります。

オートガイドありにすると、ピリオディックエラーが大幅に改善している(修正されている)ことが一目瞭然です。歩留まりは100%に近いといってよいでしょう。ただし、オートガイドを行っても周期的な誤差が完全にゼロになっているわけではないことには注目しておくべきでしょう。オートガイドのaggressiveness(積極性:誤差の何%分の補正信号を送るか)を50%に下げているのが理由かもしれませんし、架台が補正信号通りに(機械的な)補正動作を行えなかったからかもしれません。

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 焦点距離590mm EOS6D(SEO-SP4) Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾(オートガイド無し) 60秒露光を10枚比較明合成 赤緯側は各コマ8ピクセルずつ南北にシフト ASIAIRのPolar Align機能で極軸合わせ ほぼ無風、望遠鏡の向きは天の赤道付近、東側地平高度約35度 ガイド間隔2秒 aggressiveness 80%-80%

60秒露光ではどうでしょうか。30秒露光の検証画像と対象が異なるため、きちんとした比較にはならないのですが(誠に恐縮です・・)、傾向として見ていただければと思います。オートガイド無しの場合の歩留まりは4/8程度。オートガイドの歩留まりも4/8程度でしょうか。60秒露光にするとオートガイドをしても点像率の歩留まりに差がほとんどないことに注目です。オートガイドをしているとはいえ、補正信号と架台の反応のギャップが、60秒露光では限界に達してきているのかもしれません。

オートガイドにも限界がある(焦点距離590mmの場合)

タカハシFC-76DCU マルチフラットナーx1.04 焦点距離590mm EOS6D(SEO-SP4) Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾(オートガイド無し) 120秒露光を5枚比較明合成 赤緯側は各コマ16ピクセルずつ南北にシフト ASIAIRのPolar Align機能で極軸合わせ ほぼ無風、望遠鏡の向きは天の赤道付近、東側地平高度約35度 ガイド間隔2秒 aggressiveness 80%-80%

さらに120秒露光。左のオートガイドなしでは星像は全て完全に伸びて線になってしまいました。60秒露光では半分くらいは「だいたい点」だったのに対して、露出時間が倍違うだけで圧倒的にリザルトに差があります。これは逆に、星が流れてしまった場合は露光時間を半分にしてみるだけでも大きな改善が見込める、という実戦的ノウハウであるともいえます。

右のオートガイドありの場合、甘く見ると全部使えるともいえるし、厳しく見ると全部ダメ、的な微妙な感じです。これはもう赤道儀の限界越えといってよいかと思います。たとえオートガイドを行っても、ガイドしきれない限界がある。当たり前ではありますが、機材選びをする上での重要なポイントだといえるでしょう。今回のケースではその限界は「焦点距離600mmで1〜2分露光」あたりにあった(*)と推測できます。

(*)オートガイドのパラメータにはチューニングの余地があります。今回の結果より良い結果になることもあるでしょうし、悪い結果になることもあります。あくまで一つの検証例であることを繰り返しておきます。

実写画像/焦点距離180mm・オートガイドなし

FMA180(初代)EOS 6D ISO5000 2分露光 Star Adventurer GTiマウント恒星時追尾 最終作例ではDSSの機能でスコア上位50%を使用する設定でコンポジットし、半分は捨てています。

もうひとつ例を見てみましょう。前項の「天の川4×4モザイク」の作例の素材画像です。この撮影では、オートガイドなしで露光時間は2分で4コマづつ撮影しました。上の画像はあるパネルの4コマの等倍拡大画像です。1枚目と4枚目はほぼ点像ですが、2枚目と3枚目は少し流れています。

撮影の際は、「600mmで30秒露光できたのだから、180mmなら2分でも問題もないだろう」と思ってこの設定にしたのですが、思いのほか追尾精度の要求レベルは高かったようです。これはFMA180の光学系が優秀で星像径が小さかった(=より高い追尾精度が共有される)こともあるのでしょう。

このリザルトから振り返ると、1コマの露光時間を60秒ないしは90秒に止めておけば、全コマ使えるものになったことでしょう。または、オートガイドを行えば、2分露光でも全コマ使えたと推測します。どうせモザイクするのですから細かいことは気にせず、このままで全コマ使う戦略もアリだったとかもしれません。

この検証でいえることは2つです。一つは焦点距離200mmクラスであれば、適切な露光時間を選べばStar Adventurer GTiマウントはほぼ十分な追尾精度が得られることです。ただし、オートガイドのあり・なしで、それぞれ適切な最大露光時間は異なってきます。二つめは現場で実写画像をチェックすることの重要性です。その場できちんと拡大画像を確認し、流れない露光時間に設定を変更すべきでした。

ガイドの暴れと1軸オートガイド

ガイドが暴れた例。特にオートガイド開始直後では、このように累積した補正信号が一気に架台を過補正してしまうことがあります。

今回使用した範囲では、Star Adventurer GTiマウントでのオートガイドでは「ガイドの暴れ」は時折発生したものの(*)、苦しめられるほどではありませんでした。上の画像はガイドが暴れたケースの一つですが、赤緯軸の補正信号が延々と出ているにもかかわらず架台が反応しない状態が続き、一気に反対側に動いて逆方向の大きな補正信号が出た例です。

(*)「暴れ」が「振動」を始めると対処なしなのですが、そのようなケースは発生しませんでした。

筆者の数少ない経験では、ウォームギア・ホイル式の赤道儀では、ピリオディックエラーの大きさとガイドの暴れの発生率には一定の相関があるように思えます。これは「オートガイドは銀の弾丸ではない」ことを意味します。赤道儀のポテンシャルを超える追尾精度は、オートガイドを持ってしても実現できない、ということです。

特に、赤緯軸のオートガイドは慎重に考える必要があります。よく言われる「赤緯が暴れるときはオートガイドを切ってしまう(一軸ガイドにする)」のは実戦的に有効な対処法です。何よりも「赤緯軸に余計なガイド信号を発生させない」ためにも極軸を正確に合わせることが一番重要だと思います。

赤道儀は使いようである

1コマに最低でも10分以上の露光時間が必要だったフィルムや冷却CCDとは異なり、CMOSセンサーでは数秒から数分程度の短時間露光であっても、多数枚のスタックによって十分に高画質の天体写真を撮影できるようになりました。

そんな時代においては、追尾誤差は露光時間を適切に短くすることでカバーできます。追尾精度だけに関していえば「短秒露光は七難隠す」なのです(*)。

(*)ピリオディックエラーの周期と露光時間、追尾誤差の関係については、記事末の「補足」にまとめています。

一昔前なら「ピリオディックエラー±30秒角」は大きな声では言えないような精度でした。しかし、ツボを外さなければ、この精度でもいろんな天体写真にチャレンジができます。もちろん、より高価なより精度のよい(より高価でより重い)赤道儀を選んで天体撮影をするのもアリで、少ない苦労で別な幸せが手に入ります。

どんな目的で、どんな赤道儀を選ぶか。それは貴方がお決めになることです。

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どんなユーザーに向いているか

天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

最初の1台目の赤道儀として・AZ-GTiかStar Adventurer GTiか

初心者が最初に手にする赤道儀は何がいいのか。ご予算10万円コースでは、これまでSky-Watcher社の「EQ5GOTO」「EQM35Pro」「EQ3GOTO」の3つの製品がありました。

Star Adventurer GTiは、ずばりこれらの3つに代わる新たな選択肢です。人気の「AZ-GTi」の上位機種(*)と考えてもよいと思います。初めて天体望遠鏡を手にする人・天体写真や電視観望を始めてみたいエントリ層にとって、EQシリーズよりもずっとコンパクトで使いやすく、AZ-GTiよりもさらに用途の広い機材となります。ライブスタックの電視観望であれば赤道儀は必ずしも必要ありませんが、本格的な天体写真をやりたいのであればStar Adventurer GTiがオススメです。

(*)「AZ-GTi」の登場は画期的でした。経緯台マウントでありながら自動追尾・導入が可能、発売当時4万円を切る価格設定で、ライブスタックによる電視観望の定番架台のポジションを一気に獲得(開拓)しました。

ベテランのサブ機として

日本市場では、AZ-GTiは初心者よりもむしろベテランが「面白いサブ機」として飛びついた印象がありましたが、Star Adventurer GTiもそれに近いところがあります。AZ-GTiのような「ちょっと変わった面白さ」はないのですが、搭載重量と追尾精度を割り切れば、保守本道のドイツ式赤道儀としてこれほどコンパクトで使いでのある製品はありません。

ASIAIRのようなデバイスと組み合わせれば、メインの鏡筒の運用中に焦点距離の短い機材で星野写真を放置撮影することもできますし、小型の鏡筒を搭載して星空観賞(眼視)するもよし。2台目の赤道儀としても大いにオススメできます。

ポイントは背伸びし過ぎないこと。焦点距離は長くても300mm程度に止めた方が幸せになれるでしょう。逆に、あの手この手で「限界にチャレンジ」してみるのも一興かもしれません。

2軸ポータブル赤道儀として

Star Adventurer GTiのウェイト・シャフトを含まない本体重量は2.6kg。ナノトラッカーやポラリエに代表される小型のポータブル赤道儀よりはずっと大きく重いものの、こちらには「2軸駆動」「自動導入」という武器があります。価格的にも、小型のポータブル赤道儀をオプションパーツでドイツ式赤道儀化するくらいなら、Star Adventurer GTiを素で使う方が安上がりでしょう。ある意味、Star Adventurer GTiこそ現代に要求される機能要件を全て満たした「ポータブル赤道儀」といえるかもしれません(*)。

(*)その意味では、用途的な位置づけではZWO社の「AM3赤道儀」と重なります。ただし価格差は3倍ほどにもなります。

Star Adventurer GTiに望むこと

取説とアプリの使い勝手

日本語取扱説明書は表紙込みで32ページ。

Star Adventurer GTiマウントには、総代理店のサイトロンジャパンによる日本語の取扱説明書が付属します。読みやすく整理されたマニュアルですが、ある程度知識のある人に向けた必要最小限ものになっています(*)。

(*)その意味では全部目を通すことができる分量の取説であることには好感が持てます。本製品の取説にはしっかり目を通しておきましょう。

「マニュアルがどうあるべきか」についての議論は本記事の範囲ではありませんので省略しますが、少なくとも「全く初めての人がこれだけを読めば使いこなせる」というものではありません。このことは、他社を含めほとんどの天文機材にいえることですが、天文機材を使いこなすには、有形無形のノウハウが必要になってくるのが現状です。

その意味では、専用のコントローラアプリである「SynScan Pro」の操作性をさらに改善する方が優先度が高いかもしれません。上の画像はアプリのトップ画面とその1階層下の「設定」「ユーティリティ」の画面ですが、ある機能がこのどちらにあるのか迷いやすいところがあります。

たとえば、追尾の「なし」「恒星時」「月時」「太陽時」の切替は、「設定」ではなく「ユーティリティ」の中にあります。極軸合わせの際の北極星の位置表示と明視野照明の明るさ調整も「設定」ではなく「ユーティリティ」「アドバンスド」の「極軸望遠鏡」の中です。初心者がよく使うであろう「おすすめ(天体)」のリストはトップメニューではなく「ユーティリティ」の中にあります。

ハードウェア製品と異なり、ソフトウェアであるアプリの改善は比較的自由度が高いもの。今後も継続的に使い勝手が改善されることを望むものです。

子午線越えに関するアプリの挙動の改善

前項で触れたとおり、Star Adventurer GTiマウントは子午線越えに物理的な制限が設けられています。東側の天体を向いているとき(テレスコープウエストの状態)、南中を越えて約20度(*)、西側の天体を向いているとき(テレスコープイーストの状態)では南中前の約20度以上には望遠鏡を動かすことができません。

(*)「約20度」は筆者の目分量です。

これは一つの設計思想なので問題ではないのですが、アプリがそれを意識した動作をしてくれないことにもどかしさを感じるのです。例えばアプリに「南中前後の動作制限」のような設定があって、その制限を越える場合には追尾をストップさせたり、制限を越えたアプリからの手動動作をできなくする、などの設定が可能になれば、より初心者でも安心して使用できるのではないかと思います。

ギアの機械精度の向上

低価格で使いやすい、バランスの取れたStar Adventurer GTiマウントですが、やはり追尾精度がもう一段階アップしてくれれば・・という思いはあります。使用した個体の実測のピリオディックエラーは約±30秒角。この数字だけを見ると決して「高精度な赤道儀」というわけではありません。

しかし、実売7万円台という価格が実現されたことにまず大きな価値がある、というのが筆者の感想。高精度化することで高価格化するくらいなら、今のままで値ごろな価格を維持してほしいとも思ってしまいます。

とはいえ・・・エンジニアリングの挑戦として(*)・・・この価格でさらなる高精度化が実現するなら、もう大歓迎以外の何ものでもありません。1ユーザーのワガママとして・・ひと言書かせていただきました^^;;;

(*)使用した個体のピリオディックエラーはとてもキレイなサインカーブを描きました。つまり、様々な誤差が累積した結果ではなく、主たる誤差の発生原因はおそらく一箇所。そこに何らかの改良が加えられるのなら・・・・

アルカスイスプレートの取り付け

赤緯架頭はビクセン規格のアリガタです。アルカスイス互換のプレートを装着するには一工夫が必要です。筆者は上の画像のように、RedCat51付属のビクセン・アルカスイス両用のアリガタと、アスカスイスの「両クランプ」を使用して変換しました。

標準の架頭は4つの六角ネジで固定されているのですが、これを換装してM6/8の35mm間隔ネジ穴にできるパーツがあると(*)汎用性が高まりそうです。

(*)どこかのパーツ工房がすでに製品化しているかもしれませんし、時間の問題でどこかが製品化することでしょう。逆にそういう棲み分けの方が全体最適かもしれませんね。

自動導入時の動作音

自動導入の際の「ジャージャー」というギアの動作音(*)が少し大きめです。寝静まった深夜のベランダでは少し気になるかもしれません。「静音化してほしい」と言うのは簡単ですが、実際に実現するには総合的な機械設計・製造の変更が必要になるでしょうから、これはこういうものだと割り切って使うしかありません。

(*)最近の赤道儀が妙に?静かになっただけで、取り立ててヤカマシイというものではないことは申し添えておきます。

自動導入時の速度を下げて静音化できる設定があるとよいのですが、Sky-Watcher社共通の架台制御アプリ「SynScan」にはその設定がないようでした。近くで人が寝ているような場所で天体観測をするのは日本人だけなのかもしれませんが・・・^^;;;

その一方で、恒星時追尾している状態ではほとんど無音です。静かな場所で耳を近づけて、ようやくかすかな動作音が聞こえる程度です。

高級感?

本機の外観は、前述の通り白を基調とした角の取れた方形のなかなかカッチョイイデザインで、個人的には大変気に入っています。塗装も価格の割には上質だと思います。ただし、個々のパーツを見ると微妙に高級感に欠けるところもあります。例えば、プラ製の電池カバー・赤経クラッチを締める際の感触、一点止めのアリガタ固定ネジなどです。クラッチを緩めた時の動作のスムーズさについても、あまり「気持ちいい」とはいえません。

しかし、実用性という観点では十分です。赤道儀は実用品なのか、工芸品なのか。高級感を求めるなら、別の選択肢を検討したほうがいいでしょう。

「これってスカイメモSと同じだよね」という「風評」

http://skywatcher.com/product/star-adventurer/

「Star Adventurer GTi」とケンコー・トキナー社が販売している「スカイメモS」にはいくつかの類似性があります。まず明らかな事実として、両製品を製造・販売するSky-Watcher社のグローバルでの製品名が同じ「Star Adventurer 」という名前を冠していること。「スカイメモS」はケンコー・トキナー社が「Star Adventurer 」を日本で展開する際のブランド名です。

外観上も似たところがあります。赤経体は兄弟のように似ていますし、「スカイメモS」の赤経クランプと「Star Adventurer GTi」の赤緯クラッチの形状も似ています。極軸望遠鏡も共通かもしれません。

しかし、赤経ウォームホイルの歯数は「Star Adventurer GTi」が180なのに対して「スカイメモS」は144です。「スカイメモS」の別売の高度方位微動装置は「Star Adventurer GTi」のそれとは全く異なりますし、「スカイメモS」にはオートガイド端子はあるもののUSB端子もハンドコントローラ端子もありません。そもそも2軸駆動・自動導入ができるのも「Star Adventurer GTi」だけです。ここまで違う以上は「似て非なるもの」といってよでしょう。

天文機材だけの話ではないのですが、趣味の分野では「この製品は実はあの会社のあの製品と同じだ」という詮索がされがちです。実際同じ会社のOEMであったり、同じ工場で生産された製品であることもありますが、なんとなく?見かけが似ているだけで実は全くの別物であることも少なくありません(*)。

(*)古くはライカコピーの国産レンジファインダーカメラがそうでした。ビクセンのGP赤道儀コピーの海外製品もその類です。

外観が少し似ているからといって「これはあれと同じだ(から良いはずだ・悪いはずだ)」と短絡的に判断すると、機材選びを誤ってしまうことにもなりかねません。

「Star Adventurer GTi」はSky-Watcher社が「Star Adventurer 」をさらに改良した明らかな別製品である、という認識で間違いないかと思います。

まとめ

西オーストラリア遠征で。持参した架台はStar Adventurer GTiマウント一つ。これで日食の撮影・星野写真・眼視観望・直焦点のディープスカイと多方面的に大活躍。すっかりお気に入りに。

いかがでしたか?

Star Adventurer GTiマウントは、今の時代に待ち望まれていた「低価格でありながら広い用途に対応できる小型赤道儀」の決定版ではないでしょうか。超高精度でもなければ重量機材が搭載できるわけでもありませんが、用途さえ誤らなければ貴方の天文ライフをより楽しく豊かにしてくれることでしょう。そして、なんといってもお財布にも優しい^^ご家庭内の平和を乱す危険性も少なくなります。

初心者の入門機にも最適。将来ステップアップした際にもStar Adventurer GTiマウントはサブ機として活躍してくれるはずです。自分が天文趣味に復帰した10年前にこの製品が存在していたら、間違いなく最初の1台にチョイスしていたのではないでしょうか(*)。良い時代になったものだとつくづく思います。

(*)まあ順序が変わっただけで、結局イロイロ買っていたでしょうが(大汗

「最強の赤道儀」が天文ファンを熱くする!それではまた次回お会いしましょう。

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補足)ピリオディックエラーの周期と露光時間、追尾誤差の関係

「短秒露光は(追尾誤差の)七難隠す」。露光時間と追尾誤差の関係について整理してみました。

追尾誤差モデル

追尾誤差が周期Tのサインカーブを描く架台を仮定します。誤差のピークは±Pe秒角。実際の赤道儀には様々な周期の誤差が含まれますが、単純化して考えてみます。

Star Adventurer GTiマウントと同じウォームギア180枚の赤道儀について考えてみましょう。ウォームギア一回転の周期Tは8分(480秒)。ピリオディックエラーは±30秒角のサインカーブを描くものと仮定します。

露光時間8分=480秒の場合

この架台で周期Tと同じ8分の露光を行った場合、どうなるでしょうか。追尾誤差の2つの山を含むため、星の流れは2Pe=60秒角となります。つまり、誤差がめいっぱい効いてくることになります。60秒角という流れは、天の赤道の4秒間の露光時間に相当します。焦点距離50mmのレンズではセンサー上で約0.15mmになります。ノータッチでガイドするには厳しめにみて50mmレンズ、緩めにみて100mmレンズまででしょう。

露光時間4分=240秒の場合

露光時間を半分の4分にしてみましょう。誤差が最小になるのは上の画像のような誤差のピークが露光時間の真ん中になる場合で、1Pe=30秒角。

一方で、誤差のピークで始まりピークで終わる4分間では、最大誤差は8分露光と同じ2Pe=60秒角。露光時間を半分にしても、よい場合は誤差は半分になりますが、わるい場合は8分露光と同じ。まだ露光時間を短縮したほどには追尾誤差軽減の効果は少なくなっています。

露光時間=120秒の場合

さらに半分の2分露光の場合。上の図のように、誤差の山が露光の先頭か末端にある場合、誤差は1Pe=30秒角。

誤差の山が露光の中間にある場合は、最大誤差は(1-sin(45°)Pe=0.29Pe≒9秒角となります。一方で、その次の2分間の露光では誤差は最大になり2sin(45°)Pe=1.42Pe=42秒角。運が良ければ歩留まり100%で200mmをなんとかガイドできるが(センサー上のずれは約0.03mm)、運が悪いと200mmでの歩留まりは50%になるということです。この値は、FMA180で2分露光した作例の感覚値ともほぼ一致していますね。

露光時間=60秒の場合

露光時間をさらに半分の60秒に。上の画像の露光シーケンスでは、誤差は順に0.71Pe、0.29Pe、0.29Pe、0.71Pe….=21秒角、10秒角、10秒角、21秒角…となります。かなり誤差が小さくなってきましたね。最大誤差の1/6〜1/3にまで少なくなりました。厳しめ(センサ上の流れ量0.015mm)で歩留まり100%を求めるなら焦点距離は150mm、歩留まり50%でよいなら300mm、緩め(センサ上の流れ量0.03mm)の基準なら同300mm、600mmとなります。

しかし、位相が30秒分ずれるだけで、ずいぶん様子が変わります。上の露光シーケンスでは、誤差は順に0.54Pe,0.08Pe,0.54Pe,0.77Pe ,,, =16秒角、2.4秒角,16秒角、23秒角…となります。最大誤差は少し大きくなりますが、歩留まりは若干良くなりました。

この結果を見ると、露光時間を1分にすることで無理すれば600mmでも撮れなくはない、ということがいえそうです。

露光時間=30秒の場合

露光時間を30秒にすると、ますます誤差は小さくなります。位相のズレによって微妙に値は異なりますが、誤差は最大でも0.39Pe(12秒角)、最小ではなんと0.04Pe(1.2秒角)。これなら厳しめ(センサ上の流れ量0.015mm)で歩留まり100%としても250mmが、歩留まり50%なら600mmでもガイドできることになります。これも、590mmで撮影した作例の感覚値とほぼ一致しています。

露光時間=15秒の場合

画像はもう省略しますが、ここから先は露光時間を短くするするほど誤差はリニアに小さくなっていきます。厳しめ(センサ上の流れ量0.015mm)で歩留まり100%としても600mmをガイドすることが可能でしょう。ただし、風やシャッターショックによる振動が大きく効いてくるため、架台の絶対的な剛性の限界が現れてくるでしょう。

いずれにせよ、数秒〜15秒程度の短時間露光であれば、架台の追尾精度は問題なくなってくるということです。このことは、ドブソニアン経緯台でラッキーイメージング撮影(電視観望)されている方の事例からも明らかでしょう。

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  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2023年5月)のものです。
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https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/05/b7c278b27154fae3ea7e3286de9edcdc-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/05/b7c278b27154fae3ea7e3286de9edcdc-150x150.jpg編集部マウントマウント最強赤道儀伝説Sky-Watcherひさびさの更新、「最強!赤道儀伝説」。古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていきます!第4回はSky-Watcherの「 Star Adventurer GTiマウント」です。 オートガイドに始まった赤道儀のIT化。自動導入は常識となり、Plate Solvingを活用した完全自動撮影など、利便性がますます高まっています。さらには「波動ギア赤道儀」も低価格化してきました。でも・・お高いんでしょ?円安の進行もあって、怒濤の物価高の波は天文界にも押し寄せてきました。 そんな中で「庶民の味方」Sky-Watcher社が意欲的な赤道儀を出してきました。軽量コンパクトでありながら、機能は全部入り。そして価格はなんと99,000円(希望小売価格)。時折開催されるセール時には、三脚セットで74,800円になる場合もありました(*)。 (*)サイトロンジャパンの直営店であるアストロ&バードショップ シュミットでは、現在平常時は20%OFFで販売されていますが、セール時は33%OFFに設定される場合もありました。 シュミット・Star Adventurer GTiマウント https://www.syumitto.jp/SHOP/SW1240020481.html 天リフ編集部ではこの Star Adventurer GTiマウントをお借りし、徹底的に使い込んでみました。その結果、この製品は低価格小型赤道儀のまさに決定版ともいえる優れた製品だと確信しました。単に安いというだけではなく、小型赤道儀に必要とされる利便性がしっかり作り込まれています。最初の1台にも、ベテランのサブ機としても、全方位的に活用できることでしょう。 毎度のことながら鬼長い記事ですが、じっくりごらんください! この記事の内容株式会社サイトロンジャパン特別協賛!(*) 自動導入対応、最安。実売価格7万円台の小型赤道儀 Star Adventurer GTiマウントは、コンパクトな筐体にWiFi搭載。最新の機能がオールインワンで使用できる、初心者からベテランまで広く活用できるエントリ価格の高機能マウント!外観・使用事例からささまざまなTipsまで、徹底解説します! (*)特別協賛とは、本記事のサムネイルおよび記事中にスポンサー様の特別広告枠を掲載することにより対価をいただく形です。記事そのものの編集ポリシーは通常の天リフ記事と同等です。 シュミット・Star Adventurer GTiマウント三脚セット https://www.syumitto.jp/SHOP/SW1240020482.html Star Adventurer GTi 最強!伝説・その1 最強!お手軽ディープスカイ撮影 Star Adventurer GTiマウントの最大搭載重量は5kg。屈折望遠鏡なら口径8cm〜10cmクラスまでなら搭載できます。上の構成は口径76mmのタカハシFC-76DCUを搭載したところ。カメラ・鏡筒バンドなど一式で約5kg強。 南半球・オーストラリアで撮影したηカリーナ星雲。焦点距離は約600mm、30秒露光の1枚撮りです。正直いって架台の限界をやや超えた構成なので、これ以上の長時間露光や風が吹き出すと厳しいですが(*)、なんとか点像を保ってくれました。お手軽なセットアップでもこれくらいの天体写真を撮ることができるのです。 (*)30秒露光の歩留まりは60〜70%くらいでした。180枚歯なのでピリオディックエラーの周期は8分。後述しますが、サインカーブを描く±30秒角の誤差の場合、30秒露光では最大16秒角、最小2.3秒角となります。 最強!モザイク星野の自動撮影 自動導入が使える赤道儀には大きなメリットがあります。ASIAIRやステラショットのような撮像ツールを使用することで、さまざまな撮影を自動化できるのです。 上の作例は焦点距離180mmのコンパクトなアストログラフ「FMA180(初代*)」を使用し、4×4=16枚のモザイク撮影。このような多パネルのモザイク撮影を手動でやると相当に大変ですが、自動撮影なら構図を指定してスタートするだけ。 (*)現在は終売。新型の「FMA180 Pro」に置き換わっています。青ハロが減少しさらに高性能になったようです。 画像処理はまあ大変ですが(^^;)、カメラレンズの1枚構図とは比較にならないほど高精細なリザルトが得られます。ASIAIRのようなツールの出現で、このような撮影が劇的に楽になりました。 上の動画は作例撮影中のショット。最初の数コマの撮影でガイド状況(*)とモザイク撮影の挙動を確認した後は、撮影は全てStar Adventurer GTiマウントとASIAIRにお任せしてその場を離れました。結果はご覧のとおりバッチリでした! (*)この時はガイドカメラがなかったのでオートガイドなしの恒星時追尾でした。ピリオディックエラーが±30秒角のサインカーブを描く場合、1パネル2分の露光時間では追尾誤差は最大30秒角、最小9秒角程度になります。焦点距離180mmとはいえ、さすがに2分は長すぎたようで、ガイドの歩留まりは50%でした。 最強!皆既日食海外遠征 2023年4月20日のオーストラリア皆既日食にStar Adventurer GTiマウントを持ち込みました。上の画像はライブ配信の動画から切り出したものですが、日食の一部始終を安定して収録することができました。 海外遠征では機材をできるかぎり軽量化したいもの。Star Adventurer GTiマウントの本体重量は2.6kg。上の画像は旅行用キャリアケースとStar Adventurer GTiマウントのサイズ比較。このサイズ、ほとんどポータブル赤道儀です。価格が跳ね上がることを受け入れられるなら海外遠征の決定版は「波動ギア赤道儀」かもしれませんが、実売7万円台のStar Adventurer GTiマウントでも十分な戦闘力があります。 Star Adventurer GTiの特徴 二軸駆動、自動導入対応 Star Adventurer GTiマウントの特徴をひと言で表現すると「全部入りの低価格な小型赤道儀」です。二軸駆動・自動導入対応でWiFi内蔵、極軸望遠鏡搭載。1クラス・2クラス上の赤道儀と〇×表レベルで比較しても「ない機能」はほぼありません。 もちろん「小型赤道儀」なので、搭載重量は最大5kgと限られますが、赤道儀として最新の機能がほぼ全部入った製品です。 小型軽量、低価格 Star Adventurer GTiマウントの本体重量(ウェイト、ウェイトシャフト含まず)は実測2.6kg。自動導入可能な赤道儀としては最軽量クラスの軽さです。 付属のウェイトシャフトとウェイトの合計重量は実測2.9kg弱。これらを全部合わせると合計実測5.5kgとなりそれなりの重さになります。それでも軽量であることには変わりありません。「三脚セット」に付属の三脚は重量2.6kg。その場合の一式の総重量は8.1kgとなります。 極軸望遠鏡を標準装備 「全部入り」のStar Adventurer GTiマウントは、もちろん極軸望遠鏡も標準装備。上の画像は赤緯体側からみたところ。先端には小さなプラキャップが付いています。極軸望遠鏡は明視野照明が付いていて、SynScapアプリから光量調整が可能です。 Star Adventurer GTiマウントに限った話ではありませんが、赤緯軸の回転位置によっては上の画像の下のように極軸望遠鏡の視野を隠してしまうので、極軸望遠鏡のレンズが全て見えるような位置に赤緯軸を回転させてから極軸合わせを行います。 極軸望遠鏡の接眼部側から見たところ。極軸合わせのためのパターン(上画像右)はSky-Watcher社の他の製品にも採用されている、北半球では二重円、南半球でははちぶんぎ座の4つの星を使用するものです。この4つの星は「はちぶんぎの台形」ではないことに注意する必要があります。詳細はこちらの記事を参照ください。 極軸望遠鏡の視野角は8.5度、口径は目測ですが10mm強程度と小さなものです。北極星は問題なく見えますが、光害地や南半球では辛い場合ががあるかもしれません(*)。 (*)筆者がオーストラリアで使用したときは、潔く?ASIAIRのPolar Align機能を使用しました。 Wifi制御 従来、Sky-Watcher社の赤道儀は有線型の「SynScanハンドコントーロラ」が標準付属でしたが、ここ数年コントローラが付属しないWiFi接続オンリーの「Wモデル」が中心になってきました。操作性にも優れ低価格化にもなるスマホ制御が今後主流になることでしょう。 そのせいか、Star Adventurer GTiマウントもハンドコントローラは付属せず、WiFi接続でスマホ・タブレット・PCからのアプリ経由で制御することが標準になっています。有線型のハンドコントローラのコネクタも備えているので、すでにハンドコントローラをお持ちの方(*)はそのまま接続して使用することもできますが、まあ普通は使う機会は少ないでしょう。 (*)経緯台モデルに付属している8ピン-6ピンケーブルでは使用することができません。 合理的な各部の設計 ずばり「無駄に重い要素がない」のがStar Adventurer GTiマウントの美点。Star Adventurer GTiマウントは、高度水平微動部・赤経体・赤緯体が一体のものとして設計されています。各部も金属である必要がない本体カバーの一部、赤緯クラッチ(*)などにはプラパーツが使用されていて、軽量化に貢献しています。 (*)赤緯軸・赤経軸を固定する機構は一般には「クランプ」と呼ばれますが、Star Adventurer...編集部発信のオリジナルコンテンツ