みなさんこんにちは!
昨年末から急に暗くなって、2008年以来の史上最暗レベルとなってしまったオリオン座の「元・一等星」ベテルギウス。ネットでは「もうすぐ超新星爆発(か?)」的な煽り記事をサイエンス系のメディアまでが流布し出す始末^^;;
ここで!冷静になってみましょう。宇宙の摂理と比べれば、人間の理解なんてちいさなちいさなチリのようなものです。本当に「まもなく」超新星爆発するかなんて、誰にもわかりません。
でも!大事なことは、実際に爆発が起きたときにあなたは何をすべきかです!
いったいどんな現象が見られるのか?見どころは何なのか?これはある程度科学的に予想できます。本記事では、そんな超レア激ヤバ現象「超新星爆発」のポイントをできるだけ具体的にご紹介したいと思います!
- 本記事の内容については編集部の一方的な予測であり、これに関する一切について、天リフ編集部では責任を取りかねることをご了承ください。
超新星爆発前の予備知識
まずは簡単にベテルギウスの超新星爆発についての予備知識をおさらいしておきましょう。
爆発前後に起きること
(1) ベテルギウスが超新星爆発とすると、どのように見えるのだろうか。超新星爆発のスタートは、中心核の重力崩壊だ。重力崩壊を始めてわずか数秒で中心核が潰れてしまう。この時、大量のニュートリノが放出される。この様子は、スーパーカミオカンデなどで検出されるに違いない。 pic.twitter.com/vAl9Ln3iOo
— Kouji Ohnishi 大西浩次 (@koujiohnishi) December 21, 2019
「爆発前」にベテルギウスに現れる「予兆」については誰にもわかりませんが、実際に爆発が起きるとどうなるかは、ある程度天文学的に予測がなされています。上のツイートは天文学者の大西浩次先生によるもので、最新の天文学が教える予測と考えて差し支えありません。
注目すべきポイントは、現在稼働している観測施設によって、爆発の瞬間がほぼ確実にキャッチされるということです。実際に1987年に10万光年以上離れた大マゼラン雲の「SN1987A」で起きた超新星爆発によるニュートリノが、日本のカミオカンデで検出されています。たった600光年しか離れていないベテルギウスなら確実にキャッチするでしょう(*)。
(*)SN1987Aでは24個のニュートリノが検出されたそうですが、単純計算すれば同じ観測装置で50万個ほど検出されるはず。検出器が振り切れて壊れないことを祈ります^^;;;
その後は間違いなく「ベテルギウス祭り」になるはずです。NHKのニュース速報が流れるかもしれませんし、Twitterでは即トレンド入りでしょう。Yahoo!のヘッドラインにも間違いなく出ます。知りたくなくても勝手に耳に入ってくるくらいの大騒ぎになるはずです。
人類絶滅のリスク
ごくごく小さい確率ですが、超新星爆発によって地球環境が致命的なダメージを受ける可能性があります。超新星爆発の際には、ベテルギウスの自転軸の「極」の方向に強烈なγ線のビームが放射されると考えられています。これが地球を直撃すると下手をするとアウトです。地球終了、人類終了です(*)。
(*)γ線は大気によって吸収されるので地表には届かないと推測されていますが、オゾン層が破壊されて地球が太陽からの有害な光線(紫外線など)にさらされる結果、生態系が激変して「大変なこと」になると言われています。「即死」ではないのがかなり悲惨なところですね・・・
しかし、精密な観測でベテルギウスの自転軸は太陽系の方向から20度ほど(*)それていることがわかっていて、「現在の知見で予測できない何か」がない限りは大丈夫でしょう。
(*)「20度は誤差の範囲」とか言わないで欲しいものですね^^;;;;
「明るすぎる」ベテルギウスに要注意!
現実的な注意として、ベテルギウスが予想どおり「半月くらいの明るさ」になった場合は、けっこう危険な存在になります。肉眼だけで見る場合は大きな問題はありませんが、長時間見続けない方が吉です。
危険な最大の理由は、ベテルギウスは「一定の大きさの円盤」に見える太陽や月と違って、ほとんど完全な点光源であること。ごく狭い範囲に全ての光が集中するため、ピンポイントで網膜を焼いてしまう可能性があります。
もうひとつ、爆発の初期段階では有害な紫外線が多く含まれる可能性が高いことも危険を増加させます。太陽よりもはるかに高温で輝くことが予測されるベテルギウスは青白く輝き、太陽よりもずっと紫外線の比率が高くなります。
このようなベテルギウスを凝視しつづけると、網膜に悪影響があっても不思議ではありません。用心のために紫外線カット効果のあるサングラスを着用することをオススメします(*)。
(*)メガネ着用の方の場合、たいていのメガネは紫外線カット効果があるためそれだけでもかなり効果があるはずです。
解像度1.8秒角の天体望遠鏡の場合、月(≒太陽)の百万分の1の面積に半月の明るさの比較が集中します。ベテルギウスがマイナス11.5等級の場合面積あたりの輝度が太陽とほぼ等しくなり、爆発直後は紫外線の比率も高く非常に危険と推測できます。
— 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) December 27, 2019
天体望遠鏡や双眼鏡を使用する場合はさらに注意が必要です。口径が大きいほど危険度が高まります。ベテルギウスが予想どおり「半月くらいの明るさ」になった場合、単位面積当たりの明るさは太陽とほぼ同じくらいになります。直視すると目が焼けます。かなり濃い目のフィルターを使用すべきだと推測します。大型の天体望遠鏡を所有している天文マニアの方や、一般向けに観望会を開催されるような場合、万全の注意を払うべきでしょう(*)。
(*1)実際のところ、具体的にどのくらいの濃さのフィルターを使用すべきか明確なガイドラインを出せないのが辛いところです。太陽用のND5(10万分の1に減光)フィルターでは暗すぎるかもしれませんが、誰も経験していない領域なので、ネットの最新情報をよく見て判断するしかないでしょう。
国際光器・アストロソーラーフィルター
http://kokusai-kohki.com/Baader/astrosolar.html
超新星爆発後数ヶ月の見どころガイド
それでは、無事?ベテルギウスが超新星爆発を起こし、有害なγ線のビームも受けなかった場合^^;;;の見どころについて解説していきます!
色に注目!半月並みに明るい、青白い(?)光のシャワー
ベテルギウスが超新星爆発を起こした場合、「半月くらいの明るさになる」と言われています(*)。星としてはもうびっくりするほど明るいのですが、とはいっても半月程度。ではその何がスゴイのでしょうか。
(*)その根拠は西暦1054年に出現した超新星。この星は金星よりも明るいマイナス6等級で、ベテルギウスよりも10倍遠いことがわかっています。この星と同じ明るさになるという仮定から、ベテルギウスはマイナス11等級(半月よりも明るく満月よりも暗い)まで明るくなると言われているのです。以降、本稿ではこの推定値を使用します。
誰も指摘していないのですが、もし爆発直後のベテルギウスの「表面」が高温で「青白い色」だとすると、人類はこれまで見たことのない風景を目にするはずです。見かけ上青白いように見える月夜の風景も実際は太陽と同じ色温度約6000度の色。爆発したベテルギウスが仮に色温度1万度だとすると(*)、ひたすら青い風景が眼前に広がるはずです。写真に撮るとこの色の差はさらに歴然になります。青々とした「インスタ映え星空風景」どころではない、本当に青い世界が広がるのです。
(*)筆者は単純に「爆発直後は高温のため青い色に、減光するにつれ温度が下がって赤くなる」と思っていましたが、ベテルギウスのような「II型超新星」は観測例が少なく、爆発直後の色についての具体的な言及(色指数の変化など)はほとんど見つけることができませんでした。「B-V=0.3〜0.8」という観測例もあり「青い」と断言することはできないかもしれません。ちなみに、超新星の爆発の中心部は超高温のため極めて青いはずなのですが、その光がそのまま外部に放出されるわけではなく、実際に目にする星の「表面」の温度次第になります。
超新星爆発からの時間経過にともなって、色がどのように変化していくかも注目です。太陽と同じようなの色なら面白くありませんが^^;; 明るさを保ったまま赤い色になったとすると、これまた「夕焼けのように赤いベテルギウス夜」が見られるかもしれません。
「ベテルギウス出(入)」「ベテルギウス焼け」「ベテルギウス彩雲」
「半月くらい明るい」ベテルギウスでは、太陽や月で見られる現象が、同じように見られるはずです。地平線の近くで光る場合には、夕焼けや朝焼けのように赤く空と風景を照らすはずです。
海面や地平線にベテルギウスが出没するときも見もの。「ダルマ太陽」のようにベテルギウスも2つに見えたり、ゆがんで見えたりするのでしょうか。水面のリフレクションもさぞ美しいことでしょう。薄い雲に覆われれば、彩雲だって見えるはず。北海道のような寒冷地では、「ベテルギウスダイヤモンドダスト」も見られるに違いありません。
ランドマークとの競演
富士山、羊蹄山、鳥海山、筑波山・・・「ダイヤモンドベテルギウス」を追いかけるのも面白そう。ベテルギウスは天の赤道近くにあるため、「ダイヤモンド○○」が見られる山なら、どこかで「ダイヤモンドベテルギウス」が見られるはずです。
スカイツリーや東京タワーのようなランドマークと重なるところにも注目。月や太陽と違って「大きさ」のない「点」なのですが、写真なら上の画像のように大きく広がって写るので「串刺し」を撮ることができるはずです。
月との競演
さらに、月と一緒に昇ってくる・沈んでゆくところにも注目。ベテルギウスは月と最大で10度程度にまで接近します。同じ明るさの半月ころに接近する日は今からでも特定できます。チャンスはずばり2020年3月31日。半月少し前の月とベテルギウスが接近します。
太陽とも月とも違う「点光源」のパワー
これも誰も言及していないのですが、マイナス11等級の「ベテルギウス明かり」は、色以外にも「月明かり」とは違ったところがあります。月が肉眼でもはっきりわかる「面積をもった円」であるのに対して、600光年彼方のベテルギウスはほぼ「大きさのない点」。これほどまでに明るい「点光源」を人類が目にするのは初めてのはずです。
光源が「点」だと何が違うの?と思われることでしょう。影のエッジが鋭くなるのです。大きさを持つ光源による影は、影までの距離が大きいほどぼやけて見えます。木の葉の影が柔らかいのはそのせい。
でも点光源の場合、いくら離れたとしても影のエッジはシャープなまま(*)。地面に映る自分の影も、無数の木の葉の影も、飛行機や鳥の影すらも、その形のままシャープに映るはず。ベテルギウスが低く傾いたときの長い影にも注目です。
(*)太陽や月ほどではありませんが、光の「回折」によってわずかにボケます。
ベテルギウスの科学
五藤テレスコープ・太陽スペクトル観測キット
http://gototelesco.co.jp/product_for_obs_pdf/solar_spectrum.pdf
さらに、光量がたっぷりあることを利用して、かなり分解能の高いスペクトルの観測が可能になるでしょう。上のリンクは五藤テレスコープ社の太陽用の観測装置ですが、半月くらい明るければ、この装置でもスペクトルを観察できるかもしれません。ベテルギウスの場合、水素の吸収線(ないしは輝線)が観測される「II型超新星」となることが予想されていますが、実際にはどんなスペクトルを見せてくれるのでしょうか。それは爆発後、時間とともにどのように変化していくのでしょうか。超新星というめったに見られない現象、アマチュアでも天文学に貢献する観測を行えるチャンスではないでしょうか。
完全な点光源であることを利用して「ヤングの実験」をやってみるのお面白いかも。ごく近い小さな穴(またはスリット)を空けた暗箱を作って投影すれば、光の干渉を確認できるかもしれません。ひょっとしたら、木の葉の影同士が干渉するのが見られるかも。このあたり、科学少年的にはいろいろ期待が持てますね!
減光が始まってから・爆発後数年間の見どころガイド
ベテルギウスのような「II型超新星」の場合、爆発後数ヶ月で減光が始まり、数年をかけて徐々に暗くなってゆきます。爆発後1年〜2年ぐらいの間は、残念ながら暗い天体を楽しむどころではない明るさで「冬の天体観測はお休み」状態ですが、せっかくなのでこの暗くなる過程の見どころにも注目してみましょう。
明るさと色の変化を楽しむ・冬のダイヤモンドの中の輝き
wikipediaによると、II型超新星は1年で3等級くらい減光するようです。この勘定だと2年後には金星よりも明るい-5等級、3年経ってもまだ木星並みの-2等級ということになります。見慣れた「冬のダイヤモンド」の中に燦然と輝くベテルギウス。2年後から3年後ぐらいの間は、天の川も見え始めて超ゴージャスな「冬のダイヤモンド」が眺められるはずです。
最後の「冬の大三角」を見とどけよう
3年後から4年後までの間は、ベテルギウスは-2等〜1等級。見慣れた「冬の大三角」が以前と同じように見られる最後のチャンス。さよなら、冬の大三角。もう見られなくなってしまうオリオン座の四角形とともに、精一杯の惜別の気持ちを送りましょう。
5年目には4等級と、オリオン座のキラ星たちの中に埋もれて、その存在感はほとんどなくなってしまいます。さよならベテルギウス。君のことは一生忘れないよ・・・・
「超新星残骸」を天体望遠鏡で見よう
6年目。肉眼ではもう見えなくなったベテルギウスの周辺には変化が見え始めるはずです。そう、超新星残骸が見え始めるのです。上の画像は1987年に大マゼラン雲に現れた超新星「SN 1987A」の30年後の姿。この時点で直径が1光年。
ベテルギウスはこのSN 1987Aよりも300倍ほど近いです。600光年先のベテルギウスがこの通りに見えるとすると、単純に計算して3年後でも36秒角ほど(木星よりやや小さいくらい)に見えることになります。これはアマチュアの天体望遠鏡でもじゅうぶん観察したり撮影することが可能な大きさです。
実際のところベテルギウスの超新星残骸がどんな風に見えるのかは誰にもわかりません。ただひとつ言えることはベテルギウスは天文学的には「めっちゃ近い」星なので、超新星残骸は10年と経たずに見え始める可能性が高い(*)ということです。
(*)本体がある程度まで暗くなれば、超新星残骸が確認できるようになると推測します。
これは人類史上初の天体イベントになるに違いありません。数日程度の短い時間間隔で写真撮影しても、超新星残骸が広がっていくさまを動画で捉えることが可能でしょう。いったいどんな形に、どんな色に見えるのでしょうか。
妄想力で楽しむ未来のベテルギウス(の残骸)
未来に残そう、ベテルギウスの記憶
ベテルギウスが超新星爆発すれば、世界中の多くの人によって、膨大な量の写真が撮影されるはずです。人類史上最も注目され記録され、そして人々の記憶に残る天体になることは間違いありません。ネット上では長い間盛り上がりが続くことでしょう。
たぐい稀な現象を見た者の使命として、その記録と記憶を将来の世代に残さなくてはなりません。というまでもなく、TV番組、映画、書籍、スペシャルサイト・・・様々な形で必然的に残されることでしょう。
超新星残骸の成長(〜100年)
仮に超新星SN 1987Aと同じペースで超新星残骸が膨張するとすれば、30年で6分角(月の直径の1/5、おうし座のカニ星雲よりやや小さいほど)にまで大きくなります。
30年なら筆者も含めまだ現実的に生きているはずの時間レンジです。そして年々大きく形を変えながら広がってゆくのです。おそらく世界のアマチュア天文家がその過程を「天文文化」が続く限り記録し続けてゆくことでしょう。
10万年後の星空に思いを馳せて
そして、何千年、何万年後もの先。どんどん広がってゆくベテルギウスの残骸は、「ほ座のガム星雲」のように大きく広がった超新星残骸となって多くの天文ファンを楽しませてくれるはずです。何万年か先には残骸の一部は太陽系にも到達するはずで(*)、太陽系内の探査機で残骸の物質を直接観測できるかもしれません。
(*)地球の場合、大気圏に守られて有害な形では到達しないという予測があるようですが、これも本当のことはわかりませんが^^;;;
ありがとう(*)、ベテルギウス!君のことは一生忘れないよ!
(*)超新星爆発のγ線に焼かれていない前提ですが^^;;;;まあそれ以前に、とうの昔に現在生きている人たちは寿命を迎えています^^;;;
まとめ
いかがでしたか?
「ベテルギウスが超新星爆発(するかも)!←イマココ」の先を、できるだけ科学的根拠を失わない範囲で予測してみました。この記事を書いてみて、心の底から「ベテルギウスの超新星爆発を生きている間に見てみたい!」と思いました!