ここ1年ほど、もっぱらダークなしで撮影してきました。理由はダークの撮影には結構な手間がかかることと、その効果自体に疑問があったからです。

それで困ったことは特になかったのですが、作業プロセスをパターン化して特に考えずに行うようになると意外な落とし穴にはまっていたことに気づかないもの。
そこで今回、これまでのやり方を再検証する意味で、これまでの方法(rawをtiff現像してからDSSでコンポジット)ではなく、ライト・ダーク・フラットを全てrawファイルのままDSSで処理する一般的な方法でやってみました。

前置きが長くなりましたが、今回も小石原で85mmで撮影したsh2-310が題材です。


左:Darkなし
右:Dark*30
共通データ:α7S SIGMA85mmF1.4Art F2.0 30sec*135 ISO12800
DSSでrawファイルをコンポジット average、σ=2.0クリップ
Rチャンネルのみ切り出し 20コマ単位でディザリング

まずはダーク有無の比較拡大画像。

左がダークなし、右がダークありです。
どちらも同じレベル補正とトーンカーブ補正のみで、ノイズ軽減はかけていません。
ダークなしの方が若干明るいのは、平均化されたダークの情報が乗っているからだと思われます。

違いがわかりますか?

 

違いがわかりやすいようにさらに拡大してみました。
緑の丸の部分が固定パターンノイズが現れた部分。
σクリップをかけているのですが一部残ったのでしょう。

 


左:Darkなし
右:Dark*30
共通データ:α7S SIGMA85mmF1.4Art F2.0 30sec*135 ISO12800
DSSでrawファイルをコンポジット average、σ=2.0クリップ
Bチャンネルのみ切り出し 20コマ単位でディザリング

こちらはBチャンネルのみの切り出し。
Hαナローなので、Bチャンネルは極端な露光不足になりますが、思い切り持ち上げてみたところ。

これはRチャンネルより違いがわかりやすいですね。
固定パターンノイズの影響がより多く出ています。

 

jpeg撮って出し画像のヒストグラム。
Bチャンネルはこれくらい左に寄っています。

ここまでのデータで判断するのは早計ではありますが、極端なアンダー撮影になればなるほど固定パターンノイズの影響を受けやすい、といえるのではないでしょうか。
逆に、ヒストグラムが右寄りになるくらいに露出を充分に与えれば、固定パターンノイズの影響は無視できるくらいに減るのかもしれません。

———

ここまでの処理プロセスで、重要なことが一つあります。
「ディザリング」と「σ(シグマ)クリップ」です。

「ディザリング」とは、固定パターンノイズの影響を平均化するため、コマ単位でほんの少しずらして撮影する方法です。私の機材はM-GENのように自動でディザできないので、20コマ単位で手動でディザリングしています。135コマの中で、7回位置をずらしたことになります。

「σクリップ」とは、コンポジットの際に、輝度分布が極端に外れたデータを捨ててしまう方法。飛行機や人工衛星の光跡を消すために有効な手法として知られています。

この2つを組み合わせることによって、固定パターンノイズの影響を最小にすることができます。

 

通常の加算平均が上段。下段はσ=2.0でシグマクリップをかけたもの。

この4つを比較すると興味深い結果が出てきます。
右下の赤丸の領域に注目してください。
ダークなしのシグマクリップなしの加算平均なので、固定パターンノイズの影響を一番大きく受けるケースに該当します。
他のコマには見られない、「いかにも星のように見えるノイズ」が出ていますね。ディザリングが不十分なため、固定パターンノイズが残ってしまったのでしょう。

左下のコマはシグマクリップによってこの「いかにも星のように見えるノイズ」はだいたい消えているのですが、一部消し残りができてしまい、キズのような白点が残ってしまっています。

ソニーのα7Sは、Canon機と比較して、輝度の低い星のような固定パターンノイズが多く出ます。「いかにも星のように見える」ため鑑賞目的では気がつかない事象ですが、カラーの場合は明確な色ノイズとして出てしまうかも知れません。

ひとつ気になるのが、シグマクリップの方が細かなノイズが多く見えること。なぜだろう??
この結果だけを見ると、一番結果のいいのは右上(ダークありでシグマクリップせず単純な加算平均したもの)。

新たな謎が増えてしまいました。
これが事実だとすると、シグマクリップは細かなノイズを増やす副作用があるものとして、注意深く使わなければいけなくなります。

 

左:ダークなし 30sec*1
右:ダークあり 30sec*1

最後にもう一つ。
コンポジットなしの1枚画像で、ダークの有無を比較しました。
この画像だけを見比べると、鑑賞目的での善し悪しに差異はないと言ってよいのではないでしょうか。
ただ、左の画像には例の位置に輝点ノイズが出ています。

長々と書いてきましたが、ここまでの検証で、「多数枚コンポジットでは、ディザリングすればダーク減算は不要」だという私のこれまでの考え方を変える事実は出てこなかった一方で、シグマクリップの重要性(と副作用)を新たに認識しました。
検証はやってみるものですね^^

——-

これまでダークなしで撮影してきたことは、自分の天体写真技術の上達に大きなプラスになったと思っています。

天体写真は、撮影から処理まで複雑な工程を積み重ねる必要があります。そのひとつひとつに充分習熟できていない中で、ダーク処理に必要なエネルギーを他のことに回すことができたのが一番の効果でした。

デジタルカメラで天体写真をこれから始めようとする、ないしは始めたばかりの初級者の方には、ダーク減算の処理は必須のものではなく最初から無理にやらなくても良い、くらいの認識のほうが良いのではないかと思います。
もっと割り切って「デジカメではダークは不要」という考え方もアリアリです。(天文ガイド常連のSBM巨匠はダークなしで素晴らしい作品を量産されています)

ちなみに、冷却CCDは縞状のアンプノイズなどで、ダークを引かないと話にならないという話を聞きました。
また、固定撮影1枚撮りの光跡撮影の場合は、輝点ノイズが星に埋もれてくれず目立つため、ダーク処理は必須に近い有効な手法です。

いやー、天体写真は至るところに地雷だらけですね^^;;

 

 

 

関連記事

Follow me!