天体望遠鏡・双眼鏡

天体望遠鏡はココを見て選べ!連載(3)【1万円で買える天体望遠鏡】選び方

予算1万円で天体望遠鏡。今回は実際に購入した4台の天体望遠鏡のさらに詳細をレビューしつつ、天体望遠鏡を選ぶ上で大事な要素をつぶさに見ていきたいと思います。

とりあえず手っ取り早く製品選びをするなら前回の記事をごらんいただければ十分ですが、使う上で大事になってくることも今回は詳しく解説します。ちょっと小難しい内容も含んでいますが、こちらもぜひお読みいただけると嬉しいです。

はじめに

今回もちょっとだけ前置きがあります。天体望遠鏡についてある程度予備知識のある方は読み飛ばしていただいてかまいません。全くの初めての方に、ごく基本的なことをお話しします。

天体望遠鏡にとって大事なこと

天体望遠鏡は、「天体」というとても小さな対象を、大きく拡大して見るための道具です。そのために一番大事なことはまず「よく見えるか」です。

「良く見えるかどうか」を決める要素はとてもたくさんありますが、はじめて天体望遠鏡をデビューする場合には、いくつかの基本的な条件がクリアされていれば大丈夫です。

天体望遠鏡の使い方

もうひとつは、家電製品などと同じで、「使いやすいか」です。天体望遠鏡は乱暴にいえば「デジタル一眼カメラ」よりは簡単で、虫メガネよりは難しい道具です。お月様や明るい星を見るのであれば、「筒先を対象に向けてピントを合わせる」だけで、ほとんどの人が使えるはずなのです。

でも、これまで長い間「一部の人のためのだけの趣味の道具」として扱われていたため、「趣味の道具」としてのイメージが先行するばかりに変に難しくなったり、バランスが悪くなってしまっているところがまだ残っていたりします。

これは価格の安い製品ほど顕著で、悪い言い方をすれば「天体望遠鏡という夢のイメージの形だけをなぞった粗悪品」が残念ながら少数ですが市場にまだ生き残っています。ここには特に注意する必要があります。

天体望遠鏡の選び方

では「よく見えて使いやすい」製品を選ぶにはどうすればいいのでしょうか。前回の記事では編集部で実際に購入し使用した4つの製品を比較しました。この4つの中で何を選べばいいかは、いろいろな条件付きではありますが、天リフ編集部としての見解を書いています。一つの参考意見としていただければ幸いです。

さらに本稿では、より応用が効く天体望遠鏡の選び方のための知識を、できるだけ事例を元に詳しく書くことにしました。以下に書いたことを読んでいただくことで、より柔軟で一般的な「天体望遠鏡選び」の助けになることを願ってやみません。

よく見えるか

本題に戻ります。
天体望遠鏡にとって一番大事なことは「よく見えるか」でした。

これについては、今回レビューした4つの望遠鏡のどれも、普通によく見えました。専門家目線で見ると、どうみてもオモチャのようにしか見えないのですが、どころがどっこい、月のクレーターも、木星の4大衛星と2本の縞も、土星の輪も、ちゃんと見ることができました。

もちろん、もっと値段の高い高級機と比較すると、劣るのは仕方がありません。でも、この価格帯の製品でここまでしっかり見えるなら十分ではないでしょうか。

ただし、4台を並べて比較すると、やはり違いがあります。それを一つずつ見ていきましょう。

対物レンズの光学性能

対物レンズとは

宇宙と科学のわくわくする不思議
http://nankonanko.com/2018/02/05/宇宙にある天体はどうやって観測するのか-天体/ 
屈折望遠鏡の模式図。左側のレンズが「対物レンズ」です。

対物レンズ(または鏡)とは、対象の光を集めて「像」を作るためのものです。対物レンズの光学性能は大きく3つの要素で決まります。

情報のインプット量を決める「口径」

一つはどれだけ対象の光を多く集められるかです。これはたった一つ、望遠鏡の先端にあるレンズの大きさ=口径だけで決まります。

今回レビューした機材は口径50mm。この画像の「口径76mm」のさらに2/3の大きさですが、肉眼の7mmの50倍の光を集めることができます。

口径が大きいほど、より多くの光(=情報)を集められるため、より暗い対象でも見ることができ、対象の細かな部分を見ることができます。性能の根本を決めるのが口径なのです。

↑このことを大変わかりやすく模式的に解説した動画があるのでリンクを貼っておきます。(LensKing’s TVより)

今回レビューした機種はどれも「口径50mm」なので、この条件は同一です。口径50mmぶんの光(=情報)のインプット以上のアウトプットを眼に届けることは不可能。これが性能の一つの限界になります。

像がきちんと結ぶかどうかを決める「収差」

口径分の光のインプットは、レンズを通って像を結びます。このとき、さまざまな理由で対象と同じ像にはならず、ぼけたり滲んだりずれたり変形したりしてしまいます。これを光学用語で収差と呼んでいます。この収差をいかに少なくするかが、対物レンズの光学性能を決める二つ目の要素になります。

Wikipedia 色収差
https://ja.wikipedia.org/wiki/色収差
典型的な2枚構成のアクロマートレンズの例。

収差の大小はレンズの設計で決まるのですが、普及品の天体望遠鏡で一般に使用されている「アクロマートレンズ(*)」と呼ばれるものでは、同じ焦点距離であれば収差による性能差はほとんどありません。理論的に最良の設計がほぼ完成されているからです。

(*)2枚の異なる材質のレンズを組み合わせた対物レンズ。今回のテスト対象には含まれていませんでしたが、対物レンズが1枚きりの「単レンズ」である製品もまだ市場にあるかもしれません。これははっきり粗悪品であり、買ってはいけない望遠鏡です。

設計どおりに製造されているか

3つめの要素は、きっちりと作られているかどうか。天体望遠鏡の対物レンズは、とても高精度に製造し組み立てる必要があります。普及品の天体望遠鏡の光学性能の差(*)は、ほとんどこれによって決まるといっても過言ではありません。

(*)あくまで「同一口径なら」の前提です。

光学製品の精度は、製造の技術・完成した製品のチェック方法や体制、どこまでを不良品としてハネるかの検品基準などによって決まってきます。最近では製造技術がめざましく向上したため根本的にダメな製品はほとんどなくなりましたが、品質のばらつきと検品基準にはまだ差があるようです(*)。

(*)その意味で今回のレビューでは、品質のばらつきによる差ついては考慮できていないことをご注意ください。

品質のばらつきについては、メーカーの「信用」や「評判」で判断するしかありません。そのため「日本製(だから高品質)である」ことを売りにしている製品もあります。

「日本製は素晴らしい、海外製品は低品質だ」とひとくくりにする時代ではもはやないのですが、逆にそんな厳しい時代だからこそ、人件費の高い日本でやっていけている会社は確かな品質を持っていると判断してもいいのかもしれません。

内面反射防止処理

今回レビューした4つの製品は、対物レンズの光学性能という意味ではどれも合格点をクリアしていました(*)。

(*)逆にこの価格帯の商品の場合、架台の安定度に限界があるため、限界近い光学性能の差があらわになりにくいともいえます。

でも、特に月を見たときの「クリアさ」についてははっきりとした違いが見られました。これは主に「内面反射防止処理」の違いによるものです。内面反射処理とは、対象からやってきた光が鏡筒の内側などで乱反射して、その光が見ている対象に重なってしまうのを防止するためのものです。

内面反射処理による違い

上の写真は望遠鏡を空に向けて鏡筒の後から覗いた状態の比較。理想的には対物レンズ以外の部分は暗黒でなければなりません。

ところが、実際にはいろんな場所で反射した余計な光が眼にとびこんでしまうことがわかります。この差が、明るい対象(お月様や昼間の風景など)を見たときの「くっきり感(=コントラスト)」に大きな影響を与えます。

天体望遠鏡をはじめあらゆる光学製品では、このような内面反射をできるだけ少なくするための処理を光の通り道すべてにほどこさなくてはなりません。これを順番に見ていきましょう。

フードの内側

まずは先端のレンズフード。目につく場所ですが、フードの内側からの反射光は直接眼には届かないので、どちらかというと優先度は高くありません。しかし、高いレベルの性能を求める場合は重要になります。

今回のレビュー機ではビクセンとスコープテックの製品はつや消し塗装がされていました。

鏡筒の内側

スタパーオーナー八ヶ岳日記 遮光環について
http://star-party.jp/wp/?p=2082

遮光環というのは、屈折望遠鏡の鏡筒の中に入っているドーナツ状の絞りのようなリングのことです。

鏡筒内面の反射光は、レンズフードの内面反射と異なり眼に直接光が入り込むため、対策の有無が見え方を大きく左右します。ここで大事なのは「遮光環」と呼ばれるリングの設置。つや消し塗装だけでは、斜めに入った光の反射は十分抑えられないのです。

外からは見えにくいのですが、ここを手抜きするのは大きなマイナスポイント。今回のレビュー機では、ビクセンの製品の遮光環がやや不十分で、大きな内面反射がみられました。

接眼レンズ側

鏡筒本体だけでなく、接眼レンズ側(「天頂ミラー(プリズム)」を含む)の遮光も重要です。

上の画像は、レビュー機の天頂プリズム(ミラー)の内面反射。接眼レンズを差し込むのと反対側の内筒で反射があると眼の中にその光が射し込んでコントラストを低下させてしまいます。ビクセンの製品のみつや消し塗装がされていませんでした。

ビクセンとスコープテックのアイピース(低倍率側)の比較。外見だけを見るとどう見てもビクセンの製品の方が立派で良く見えるように思えるのですが、覗いてみるとスコープテックの方がコントラストよく見えます。その理由は遮光環。

このクラスの製品はコストダウンのためにある程度つや消し塗装などの対策を省略するのは仕方ないのですが、上の2つについていえば、アイピース内側の遮光環の有無が決定的な違いになっています。

コーティング(反射防止被膜)

これまでコーティングと呼ばれるレンズ表面の反射防止処理については全く言及していませんでした。簡単にいうと、レンズの表面で光が反射するのを抑えるためのごくごく薄い膜のことです。メガネやカメラレンズが青や緑色に反射して見えるのがそれです。

対物レンズの表面反射の比較。コーティングされていたとしても1面のみでした。

コーティングによる反射防止処理はレンズ枚数の多いカメラレンズなどでは極めて重要なのですが、レンズ枚数の少ない天体望遠鏡(*)ではカメラレンズほど大きな問題にはならないため、コストダウンの対象になりやすいものです。

(*)天体望遠鏡の場合、対物レンズ2枚+接眼レンズ2枚の計4枚が最小構成になります。一方で、最近のカメラレンズでは10枚、20枚はざらで反射防止処理をしないと光の大半が途中の反射で失われてしまいます。

アイピースのコーティング。ビクセン以外はすべてコーティングなしに見えました。

今回のレビュー機では、対物レンズも接眼レンズも主にコーティングなしか、一部の面のみの単層コーティングでした。これはより高価な製品と比較してはっきり差が出る部分ですが、むしろ「内面反射処理」や「架台の安定度」を優先すべきで、取捨選択としては正しい判断だといえます。

接眼レンズ(アイピース)

接眼レンズ(アイピース)は、対物レンズで作られた対象の「像」を拡大して見るための小さなレンズです。

接眼レンズは天体望遠鏡の性能を大きく左右する重要なパーツで、高級品になると一つ10万円をこえるようなものもあるくらいなのですが、今回レビューした製品に付属する接眼レンズは最も安価な部類。それでも見かけによらずそれなりに健闘しているという印象でした。

接眼レンズの光学性能の評価基準はさまざまなのですが、低価格の天体望遠鏡では「倍率の組み合わせのバランス」と「視野の広さ」の2つを意識しておけばいいでしょう。

倍率とその組み合わせ

天体望遠鏡で対象がどのくらい大きく見えるかを倍率といいますが、これは接眼レンズの「焦点距離」で決まります(*)。

(*)倍率=対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離

目的と対象に合わせて接眼レンズを細かく使い分けるのが理想なのですが、1万円の製品に接眼レンズをそう何本も付属させるわけにもいきません。そこでバランスのいい焦点距離(倍率)の選択が重要になります。

今回レビューした4つの機種の場合、2個〜3個の接眼レンズが付属し、交換して倍率を変えられるようになっています。

解像度に差が出ているのは主に手ぶれとピント不良によるものです。この画像では結像性能の差は評価できないとご理解下さい。

上の写真は、それらの全ての組み合わせを実写したもの。円の広さが接眼レンズの視野の大きさを表しています。

結論からいうと、2本構成ならビクセンとスコープテックがよいバランス。スコープテックの最高倍率75倍は低めですが、架台の安定度とのバランスを考慮するとよい選択だといえます。

一方レイメイ藤井は低倍率側が高めなのがちょっと使いにくいところ。ミードのみアイピースが3本、これはまあ妥当な組み合わせ(*)でしょう。

(*)公称値通り150倍とするとこれは高すぎですが、実際には100倍くらいのように見えます。

導入のためにも重要な「低倍率」

天体望遠鏡では、低倍率側もとても重要です。

左の画像は倍率30倍でのスマホ実写画像。右の画像はこれをPhotoshopで2倍に拡大し、明るさを1/4にしたものです。

天体望遠鏡は倍率が低いほど像が明るく見えます(*)。

上の画像は倍率30倍と60倍の明るさの違いを比較したもの。理論的には倍率を2倍にすると、対象の明るさ(面積当たりの光の量)は1/4になってしまいます。

月のような明るい対象はともかく、土星のように暗めの惑星の場合、倍率を上げすぎると暗くなってよく見えません。また、アンドロメダ銀河のような「大きく広がった暗い天体」を見る場合も、低倍率で見る方がよく見えます。

対象が視野の外に逃げてしまうと、リカバリがけっこう難儀です・・・

もうひとつ大事なのは、低倍率の方が視野が広くなること。天体望遠鏡で一番難しいのは、対象を視野の中にまず入れることなのですが、倍率が高いとなかなか視野の中に入ってくれません。

はじめて天体望遠鏡を使う場合は、少なくとも40倍以下の倍率が使えるものを選びたいものです。

倍率の高すぎは良くない

もっと大きく見たいのは人情。
でも、天体望遠鏡の倍率は高ければいいというものではありません(*)。上の画像はそのことを模式的に表したもの。倍率をいくら大きくしても光学的な限界を超えたものは見えません(*1)し、像が暗くぼやけてしまいます。

さらに、今回レビューした低価格機では架台の安定度に限界があるため、あまり高い倍率だと微動装置がないと対象を追いかける(*2)のにかなり苦労します。

(*1)一般に対物レンズの直径の2倍まで(今回のレビュー対象は50mmなので100倍まで)といわれていますが、高性能な望遠鏡の場合、対象によっては4倍くらいまでは倍率を上げる意味はあります。

(*2)天体は地球の自転とともに動いているため、対象を視野に入れても時間が経つにつれてどんどん動いて視野から逃げてしまいます。ざっくり言って、150倍の場合は中央にある対象は最大で30秒で視野から外れてしまいます。

見かけ視野の広さは大きなポイント

接眼レンズの見かけ視野の広さも重要です。もちろん、視野が広い方が対象の導入や追尾が楽になります。
上の画像を見ると、製品によって視野の広さがずいぶん違うことがおわかりになると思います。

この差の原因は、接眼レンズのタイプによるもの。ミードとレイメイ藤井に付属する接眼レンズは「H(ハイゲンス)型」と呼ばれる2枚レンズ構成の最もシンプルなもので、設計の制約上見かけ視野をあまり広く取ることができません。

一方、ビクセンとスコープテックの製品は(*)「K(ケルナー)型」と呼ばれる3枚レンズ構成のもので、より広い視野を確保することができます。

(*)スコープテックの高倍率側の接眼レンズは「F 8mm」と表記されており、ケルナー型ではないいうです。が、視野はじゅうぶん広く、優れたものが使用されていると考えられます。

架台の安定性

光学性能は関係ないのですが架台が安定していないとよく見えません。ちょっと触ったり風が吹いたりするだけでユラユラゆれてしまい、対象をしっかり見ることができなくなるためです。

また、ピントを合わせようとつまみを回すだけでユラユラゆれてしまいます。そのため、少しピント位置を変えて振動が収まるのを待ち、ピントが合っているか確認しながらまた少しピント位置を変える、という使い方が必要になります。

上の動画は、テストした4機種の架台の安定度を比較するために、鏡筒を指でトンとたたいたときの振動とその収束状況を動画にしたもの(*)。違いはご覧になった通りとしか言いようがありません。

(*)条件を同一にするため、接眼レンズは同じもの(スコープテックK20mm)を使用し、三脚の高さをスコープテックに合わせました。スマートフォンは別のカメラ三脚に固定し、望遠鏡本体とは接さないようにしています。

架台は重くて工作精度が高いほど安定するのですが、そもそも小型でありコストもかけられないこのクラスの製品では、架台の安定性が一番の弱点になってしまうのは仕方ありません。それは評価機種の中では一番安定していたビクセンの製品でも変わりません。

三脚を最大に伸ばしたところ。

今回比較した4機種の中で安定度の順に並べるとビクセン、スコープテック、レイメイ藤井、ミードの順になります(*)。

(*)こちらは三脚を目一杯に伸ばした状態での比較です。高さを同一にすると、レイメイ藤井とスコープテックは逆転します。

見るからに大きいビクセンと小さいミードの違いは見てのとおりです。スコープテックとレイメイ藤井の差は三脚。また、スコープテックのものはホームセンターで売っているような太めの丸パイプ1本を普通の蝶ネジで止めただけなのですが、ぱっと見にはより本格的に見える三段伸縮のレイメイ藤井よりも安定しています。

使いやすいか

よく見えることと同じくらい大事なことが「子供でもちゃんと使いこなせるか」です。

天体望遠鏡はスマホやゲーム機ほど使う側にやさしい機器ではありません。使う側の身に立って比較してみました。

「光学」ファインダー

子供が天体望遠鏡の絵を書くとき、必ずといっていいほど書き込まれるのが「ファインダー」です。天体望遠鏡を天体望遠鏡たらしめる、ひとつのシンボルなのかもしれません。

「ファインダー」の目的は対象を導入すること。倍率が高く視野の狭い天体望遠鏡では、対象を視野内に入れるのが困難なため、倍率の低い(視野の広い)別の小さな望遠鏡で対象を導入します。そのためには、ファインダーと本体が正確に同じ方向を向くように調整する必要があるのです。

ミード・レイメイ藤井のファインダー。3つのネジで調整するのですが、物理的に3点では円筒を固定することができず、調整にはかなり熟練が必要ですぐ狂ってしまいます。しかも、これは当方の責任ですが、ごちゃごちゃ調整するうちにネジ穴をなめてしまいました・・・

しかし。
このクラスの天体望遠鏡で要求されるコストダウン圧力が、このファインダーをほとんど使えないものにしてしまっています。

ミードとレイメイ藤井の場合、このファインダーの調整にかなり難儀します。物理的に円筒を3つのネジで固定できるわけがないのです。かなりの根気と試行錯誤が必要です。
しかも、苦労して調整してもすこし触れるだけで狂ってしまいます。

このため、この2製品の場合「毎回ファインダーを調整する」ことが必須になります。特に最低倍率の高いレイメイ藤井の場合さらに難易度が上がります。このマイナスを重視すれば、この2つは「買ってはいけないカテゴリ」になりかねません。

ビクセンのファインダー調整部

その点、ビクセンのファインダーの機械部分はよく工夫されています。3つの固定ネジのひとつはバネ式になっていて常に筒を押すようになっていて、2本のネジの調整だけで済みます。また、支持部が筒とぴったり嵌るようになっていて、3点固定ですが狂いにくくなっています。

ファインダー像の比較。スマホで撮影。

しっかりファインダーを調整したとしても、望遠鏡としての見え具合はどれもよくありません。対物レンズは単レンズ。色滲み、ぼやけが大きく、明るい星以外は満足に見ることができません。導入用と割り切る必要があります。

「のぞき穴」ファインダー

スコープテック・ラプトル50にはファインダーがありません。その代わり、穴の空いた小さな金具が取り付けられているだけです。さらにホームページを見ると「これが最大の特徴」と言わんばかりのことが書かれています。

スコープテックの「のぞき穴ファインダー」

最初はその効果には半信半疑でした。こんなもので本当に星を視野内に導入できるのかと・・・

「覗き穴ファインダー」とその際の導入状態(30倍)の比較。どちらもスマホで撮影。

しかし、実際に使ってみて、またファインダー付きの他の機種と比較してみて確信しました。これは使えると。上左の写真のように、2つの覗き穴と対象が同心円になるようにすることで、気持ちよく対象が視野の中に入ってくれました(*)。

(*)周囲の明るい市街地の場合、覗き穴は夜でも視認できます。空の暗い場所では枠が見えにくいかもしれません。そのために枠には蓄光塗料が塗ってあり、使用前に光を照射して使うようになっています。

しかもよほど金具をねじ曲げない限りは調整が不要。さっと取りだしてすぐ使える。これはとても大きなことです。低価格の天体望遠鏡では覗き穴ファインダーがベストである。これは好みやケースバイケースの問題ではなく、断言できると思います。

フリーストップ架台

ビクセンのスペースアイ600以外は「フリーストップ式」の架台を採用しています。これは「クランプ」という動きを固定する機構を持たず、手で筒を持って自由に動かせるものです(*)。

(*)正確には一部締め込み可能なネジを備えている(ミードの垂直、レイメイ藤井の水平・垂直)のですが、これは動作の「硬さ」を調整するためのものといえるでしょう。

フリーストップ式のメリットはなんといっても「直感的」であること。「筒を持って望みの方向に向ける」それだけです。クランプ+微動方式の場合は「クランプがどこにあるか」「微動ハンドルがどこにあるか」を都合4カ所意識しなければならず、サクサク動かすには慣れが必要になります(*)。

(*)ビクセン社の上位機種「ポルタ」では、クランプなしでのフリーストップと微動動作が実現されていて、それが評価の高い理由の一つでもあります。

問題はその動きがどれだけスムーズであるかです。意図したところで止まってくれないと、対象をなかなか中心に持ってくることができません。

この動きが一番スムーズだったのはスコープテックでした。最高倍率が低めになっていることもすることも使い勝手に貢献しています。

それでも、やはりある程度のギクシャク感は否めません。高倍率で視野の中心に入れるのはそれなりの慣れと根気が必要です。この価格帯では仕方ないといえるでしょう。

微動装置

ビクセン製品にだけ「微動装置」が付いています。高倍率で見るときや、スマホを装着して撮影する場合はこの微動装置は大いに重宝します。

反面、ビクセン社のポルタなどの上位機種と比較すると、安定度もスムーズさも若干見劣りします。微動装置の回転が堅く、アタリが一定ではありません。アタリの悪い方向では本来の方向にすぐに動いてくれなかったり、思った位置でなかなか止まってくれず、ある程度「だましだましうまく使う」必要があります(*)。

(*)量販店の店頭で別の個体を触ってみましたが、評価機よりはスムーズなものもありました。個体によってバラツキがあるのかもしれません。

微動装置が付いているとはいえ、過度に期待しない方がよいでしょう。スムーズで気持ちの良い微動装置が欲しいのなら、ビクセン製なら上位機種のポルタIIやミニポルタを選ぶ方がよいと思います。

アマゾンで買った1000円のスマホアダプタを使用。この方法で撮影が可能なのは4機種の中ではビクセンスペースアイ600のみでした。他の製品では鏡筒がおじぎします。

ただし、スマホを付けて月や惑星を撮影するときはクランプ固定と微動装置のありがたみを痛感します。スマホとはいっても、このクラスの架台にとってはけっこうな重量物。クランプをしっかり締められるこの製品なら、鏡筒がお辞儀したりたわんだりすることなく撮影ができます。

三脚の高さ

三脚を一番伸ばしたところ。三脚を伸ばすことのできないスコープテックが一番低いです。

三脚はある程度の高さがないと、小さな子供が使用する場合は問題なくても、大人の場合は姿勢がやや苦しくなります。本格的に大人も楽しみたいのであれば低すぎる三脚はあまりオススメできません。

その反面、三脚を伸ばすと揺れやすくなるため、対象の導入やピント合わせに苦労します。ビクセンの三脚は目一杯伸ばしてもそこそこ安定しているのですが、ミード・レイメイ藤井は三脚が細くて揺れやすいので、できれば伸ばさずに使いたいところです。

組立のしやすさ

組立が一番簡単だったのはビクセン。三脚が組み立てられた状態でケースに入っているのが大きいです。他は似たり寄ったりですが、ネジの取付が小さくて老眼ではちょっと辛い以外は、普通に大丈夫だと思います。

詳細は上の開封動画をごらんください。

ビクセンの工夫。フードが一体式になっていてなくしたり付け忘れることがありません。また、鏡筒をネジ1個でワンタッチで脱着(*)できます。

(*)台形の金具(この製品はプラですが)を、台形の溝(アリミゾと呼ばれています)にネジで押しつけて固着する方式。ビクセンが元祖で、事実上世界標準の規格の一つになっています。

収納・持ち運びのしやすさ

三脚プレート

三脚の「開き止め」の上には、接眼レンズを差し込むことのできる「プレート」がスコープテック以外には付属しています。ただし、ミードの場合は穴が小さく(24.5mm規格の接眼レンズ用のため)付属のアイピースは差し込むことができません。

スコープテックには三脚プレートが付属しないので、1個とはいえ残りの接眼レンズの置き場所には若干困ります(でっぱりの上に置くこともできるのですが・・・うっかり落としてしましました・・・軽いプラなんで問題なかったですが・・・)。

接眼レンズのケース

 

使わないときには接眼レンズはホコリなどがつかないように密封容器にしまっておきたいもの。スコープテック以外は、上の画像のような接眼レンズのケースが付属します。

出し入れがけっこう面倒なので、100均で自分に合った手頃なケースを買ってくるのもアリでしょう。

「収納」はどうすればいいの?

使わないときに天体望遠鏡はどうしまっておくのがいいか?
なかなか難しい問題ですが、スペースが許せば上の写真のような組み立て状態で部屋の隅にでも置いておくのが一番です。見たいときにサッと取り出せます。

それが無理なら、三脚を畳んで筒を縦にして立てかけるか、さらに筒を外すかです。その点スコープテックは三脚に取り付けるプレートがないので、簡単に畳んで部屋の隅にでも立てかけておくことができて便利です。(怪我の功名ともいえますが・・)

使う側の身に立っているか

家電、自動車、不動産・・お父さんお母さんはこれまでいろいろな商品選びをされてきたことでしょう。その中で「売らんがためのスペック」と「使ってみてありがたみを感じるスペック」や、「許せない手抜き」と「仕方ないと感じるコストダウン」の違いを感じたことがあるのではないでしょうか。

天体望遠鏡もそれと同じです。

バローレンズ

上・レイメイ藤井、下・ミード

ミードとレイメイ藤井には「バローレンズ」という倍率を2倍にするものが付属していてさらに高い倍率が使用できるのですが、これはこのクラスの望遠鏡にとっては実用上のメリットはあまりありません。

実際に200倍(300倍)で試してみたのですが、対象の導入と追尾があまりに困難で挫折してしまいました。時折運良く導入できることもあるのですが、ピントを合わせている間に視野外に逃げてしまいます。

おもちゃと割り切れば、地上の観察には使えるかもしれません。レイメイ藤井にはさらに「地上用正立レンズ」というものが付いてきます。このへんは、店頭で製品を売るためのセールストークとしての仕様なのでしょうか。

取説とガイドブック

左からビクセン、ミード、スコープテック、レイメイ藤井。

ガイドブックが充実しているのはビクセンとスコープテック
読むだけでも楽しく、これだけで薄い図鑑一冊分くらいの価値はあります。

また、ミードにはプラネタリウムソフトが、ビクセンには星座早見盤が付属します。また、ビクセンには4つの製品の中では唯一持ち運び用の収納ケースが付属しています。

レイメイ藤井に付属する「星どこナビ」。鏡筒にスマホを取付け、専用アプリとGPSで目的の対象に向けられるというもの。

専用アプリは購入者でなくてもダウンロードして使用できます。鏡筒の太さにあったこのバンドに相当するものを手に入れれば、どのメーカーの天体望遠鏡でもたぶん使用できるでしょう。

実際に試してみましたが、マンションのベランダではスマホの方位磁石がかなり狂ってしまいました。ここさえ注意すればかなり使えそうです。

梱包

スコープテック以外は化粧箱に入っています。子供がプレゼントとして受け取ったときには化粧箱はアピールするでしょう。箱が欲しくて天体望遠鏡を買うわけではありませんが、この評価は人それぞれ。

カッコよさとコストダウン

みかけのカッコよさをどこまで優先するのか。カッコを付けても見えなければ元も子もありません。この評価も・・・人それぞれ。

鏡筒のロゴ。スコープテックはシール、他の3社は塗装です。また、ミードの青は同社の上位製品と共通のメタリック塗装で通常の青塗装のレイメイとはひと味違います。

左・ビクセン、中央・ミード、右・スコープテック。

接眼部。スコープテックのみメッキなしのプラ。他はメッキ有りのプラ。プラのメッキがカッコいいと考えるか、子供だましの無駄なコストと考えるのか、これも人それぞれでしょう。

まとめ・1万円の天体望遠鏡を使いこなす

いかがでしたか?!

「予算1万円」でも、それに見合った楽しみ方が十分できる製品であることを今回のレビューでは確信しました。一家に一台、天体望遠鏡はいかがでしょうか!

ただ、繰り返しになりますが、このクラスの製品は最も安い部類の製品です。いろいろなところに上級機と比較すると弱いところがあるのは仕方ありません。それを前提としてうまく使う必要があります。

また、「1万円の天体望遠鏡」に力不足を感じるようになったら、次のステップ(「予算4万円コース」「予算10万円コース」、etc)もぜひ体験していただきたいなと思っています。今後その観点の記事も予定していますのでお楽しみに!


  • 本記事は特定の会社様のスポンサードなしで、天文リフレクションズ編集部が自身で購入した機材に対して独自の判断でレビューするものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • レビュー対象の機材の選定は慎重に行ったつもりですが、これらが市場で販売されている全てではありません。対象機材以外にも優れた製品がある可能性があることをご承知ください。
  • 掲載した天体写真は、できるだけ今回ご紹介した望遠鏡で実際に見た姿に近くなるよう加工していますが、個人差・気象条件・機材の差などでこの通りに見えない場合もあることをご承知ください。
  • レビューアーは残念ながら50台半ばのおっさんです。幼少期のお子様との年齢差などの要因で、インプレッション結果は若干異なる可能性があります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • かわいいフリー素材集「いらすとや」の画像を使用しています。
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