星空写真のレタッチ

【トリセツ&天リフ:vol1】星空撮影キャンプとRAWデータ処理バイブル・キャンプで作るカレーよりも簡単な星空レタッチ

キャンプといえば星空、星空といえばキャンプ!

「トリセツ」コラボ企画です!

不肖・編集長山口が寄稿させていただいている「トリセツ」編集部ご一行様が、星空キャンプに行ってこられました!

「星空撮影キャンプ」なので星空を撮影するのがメインの目的。このとき撮影されたraw画像を、不肖・天リフ編集長がレタッチ現像(レタッチ)させていただきました。

エマーク編集長
エマーク編集長
ボクがレタッチするのとどう違うのかぜひ見せてください!
天リフ編集長
天リフ編集長
(・・ぷ、プ、ぷ、プレッシャー・・)

というわけで「星空撮影キャンプでの正しい星空レタッチ」について今回は語ります!

「俺らと星空撮影キャンプ」のあらまし

まずはこちらの動画をごらんになってください!10分ほどの短い動画ですが、キャンプと星空の楽しさが凝縮されています。

行き当たりばったり?で最高のロケーション。テントを設営した後、真っ赤な夕焼けが。星空の下での語らい。

キャンプ飯は極太ローストソーセージ入りカレー&ハヤシ。このまた美味しそうなこと!このシーンだけでもキャンプに行って良かった感、キャンプに行きたい感が満載

エマーク編集長
エマーク編集長
通常の3倍は旨いカレー!!
天リフ編集長
天リフ編集長
このソーセージ、ヤバすぎるでしょ^^

で、本題です。

星空キャンプでの、正しい星空画像のレタッチ

アウトドアと天体写真は、「マゾ系に振るとキリがない」という点ではよく似ています。楽しさの前提としてある程度の苦しさがあるのはどんなアクティビティでも仕方ないのですが、苦行そのものが目的になるのは本末転倒。

そこでライバルはカレーに設定しました。キャンプで作るカレーよりも簡単で、通常の3倍旨いカレーに負けないレタッチを目標にしてみました!

天リフ編集長
天リフ編集長
カレーは・・・強敵(とも)・・・

基本編・PhotoshopのCamera rawでレタッチ(現像)

現像の基本はPhotoshopの「Camera raw」です。これはめっちゃ強力。写真の現像はCamera rawに始まりCamera rawに終わる。まずはこの範囲で追い込んでみましょう。

天リフ編集長
天リフ編集長
「LightRoom Classic」でも同じことができます!

お題画像は「ギュイーン徳川さん・パナソニックS1+24-105mmF4」

お題画像はギュイーン徳川さん撮影の素材から。カメラはパナソニックのフルサイズミラーレス「DC-S1」(*)です。

(*)動画によると「めっちゃ良く写るけどめっちゃ売れてない」そうです^^;;

Camera rawで画像を開いたところ。何もいじらない「撮影時の設定ママ」です。このままではちょっと地味すぎですが「撮影時の設定ママ」では仕方ない(*)ですね^^;; なのでここからあの手この手で星空を強調していきます。

(*)アサヒカメラがなんと言おうと、日本国内のほとんどの場所では、相当強めのレタッチでないと星空の写真は成り立ちません。

ノイズレベルを確認する

撮影した画像はどこまで強調できるのでしょうか?ますぞれを確認してみましょう。

「元々写っていない」画像はどんなに強調してもノイズが増えるだけです。その頃合いを測るために、まずは強めに強調をかけてみます。

コントラスト・明瞭度・彩度の3つをMAXにしてみました。これによって画像が極端に明るくなったり暗くなったりすることがあるので、露光量を適当に動かして調整します。

まだ星空はメリハリ不足ですが、天の川が浮き出てきました!

等倍以上にして細かくチェックしてみましょう。

ノイズ的にはまだまだイケそうです。もっと強調をかけても大丈夫そう。この画像の撮影データは「F4 15秒 ISO25600」。ISO25600でこれかよ。正直これ、星空用途としてもトップクラスの低ノイズだと思います。

天リフ編集長
天リフ編集長
パナS1、ゴイスー。

赤道儀を使用していない固定撮影ですが、「焦点距離24mm、15秒」なので星の流れもほとんどありません(*)。

(*)星を流さないためには、一般に「500÷焦点距離(秒)」の露出時間が上限と言われています。それに照らせば上限は20秒。撮影対象のはくちょう座は天の赤道より北寄り(赤緯30°〜60°)なのでもう少し長くしてもよかったかもしれません。少々流れても等倍で見ない限りはほとんど目立ちません。

しかし、星の色はあまり出ていません。一般にISO感度を上げるほど、レンズの収差が少ないほど(*)、絶対的な露出時間が少ないほど、星の色は出にくくなります。この作例ではこの3つ全部にあてはまります。このまま彩度強調の範囲で色を出すしかありません。

(*)レンズに「色収差」が残っていると、星の回りを青や赤の「ハロ」が取り巻くので、なんとなく星の色が強調される結果になります。色ハロが大きいと逆に強調すると汚くなるので、なかなか微妙なところです。このレンズはかなり収差が少なく優秀です。

天リフ編集長
天リフ編集長
ソフトフィルターでわずかに滲ませれば、星の色が出しやすくなります!
パナのカメラは初期設定でカラーノイズ低減+20、輝度ノイズ低減0になっていました。なかなか適切な初期値だと思います。

天体写真のレタッチ(現像)では、ノイズ処理のような「ダメージ系処理(元の画像を不可逆に加工してしまうこと)」は極力後回しにするのがセオリーです。筆者の場合、シャープはまずかけません。ノイズ低減も最初にごく弱くかけて、あとは最後の仕上げに回します。

この画像の場合、色ノイズが浮きすぎないようにカラーノイズ低減は0にせず、弱く(+20)かけておくほうが良いでしょう(*)。

(*)色ノイズが浮きすぎると、カラーバランスを調整する際にやりにくくなります。

カラーバランスを調整する

次にカラーバランスを調整します。「撮影時の設定」では若干G(緑)に振れているので、色かぶりスライダーを少しマゼンタ側に振って、なるべく背景がニュートラルになるようにします(*)。

(*)この例ではヒストグラムの「山」をRGBで揃えました。「本来はシャドウ側の山の裾野」をRGBで一致させるべきなのですが、この例でいえばコントラストがRGBで一致していないので(Gのコントラストが低い)すそ野を揃えることができず、山を揃えることにしました。

背景をニュートラルにするのも星空写真のレタッチの基本です。最終画像は若干B(青)に振るのが好まれるようですが、その場合でもその処理は最後に回して、まずは極力ニュートラルになるようにする方がいいです(*)。

(*)理由は、ニュートラルにすることによって、彩度を上げて星の色を「絞り出す」こと可能になるからです。

現実には市街光の多い日本の空では、この段階で背景を完全にニュートラルにするのはほぼ不可能です。最終的な追い込みは後回しにして、この段階では「だいたいニュートラル」にするようにします。

周辺減光を補正する

解放近くで撮影することの多い星空の撮影では、四隅ほど暗くなる「周辺減光」が出てしまいます。星景写真の場合は少々周辺減光があっても表現の範囲内であることが多いのですが、強い強調をかけるほど問題になってきます。カラーバランス同様に、初期段階ではなるべくフラットに補正して、効果として生かしたいなら最後の仕上げで周辺を暗くするようにしたほうが処理しやすいと思います。

Camera rawの周辺減光補正は、撮影したレンズとカメラが「プロファイル補正」に対応していれば初期状態で補正されていますが、それでも普通はバッチリあっていることはほとんどありません。「手動」の補正でスライダーを調整して、なるべく平坦にしておきましょう。このとき「過補正」になると不自然に見えてしまいます。ほんの気持ち弱めにかけるようにしましょう(*)。

(*)いずれ後段階で再補正が必要になることが多いので、あまり神経質に追い込まなくても大丈夫です。

いったん強調をリセット

ここでいったんすべての強調パラメータをリセットします。結局「カラーバランス」「ノイズ処理」「周辺減光」の3つの要素を調整しただけの状態になりました。

「コントラスト」「明瞭度」「彩度」をMAXにしたのは、上記の3つの要素の調整をしやすくするためだったのです。

「MAX処理」はダメージ系の処理です。コントラストをMAXにするとハイライトとシャドウが失われますし、明瞭度MAXはノイズを増やしてしまい、彩度MAXは色飽和で大事な星の色情報が失われます。いずれMAXを越えるレタッチをするにしても、後戻りできる範囲で少しずつ強調するのが基本。

ここから方針が2つに分かれます。Camera rawだけで完結させて仕上げるのか、マスクを駆使してさらに強調するか、です。

Camera rawだけで追い込む

当初の目標「キャンプでカレーを作るよりも面倒でない」に沿って、まずCamera rawだけで追い込んでみました。

シャドウ+0とシャドウ+58の比較。星空にほとんど影響を与えず、風景が明るくなっているのがわかります。

ポイントは2つ。一つめはシャドウの持ち上げです。天の川が普通に見えるレベルの星空の撮影では、背景の風景のほうが圧倒的に露出不足になってしまいます。Camera rawの「シャドウ」スライダーを上げると、この背景がしっかり持ち上がってきます。

天リフ編集長
天リフ編集長
下手にマスクで処理するより、いい結果になることも多いです。この技は必須ですよ!
かすみの除去0とかすみの除去+49の比較。背景が押さえられ天の川がより明瞭になりました。その代わり背景のカラーバランスがシアンに寄ってしまいました。このへんはカラーバランスの再調整が必要かも。

もうひとつはかすみの除去。街灯りで照らされた空では、天の川がかき消され気味になってしまうのですが、かすみの除去を使えば「街灯りを減らす」のと同じような効果があります(*)。

(*)明瞭度にも同じような効果があるのですが、ハイライトにも影響が出てくるので、2つをうまく組み合わせて調整する方がいい結果が得られます。

コントラストはMAXのまま。彩度をMAXにすると背景の色が濃くなりすぎるので+65にとどめました。

あともう一つ、最近Camera rawに追加されたテクスチャも結構使えます。上げるのではなく下げるのです。テクスチャを下げることで、コントラストを極端に上げることでキツくなってしまったハイライト(明るい星と地上の木の葉のエッジ)を柔らかくしたり、ノイズを目立たなくする効果があります(ギンギン度が減少します)。

こちらが最終画像。星空をもっと強調したいとか、背景の色をもう少しニュートラル・均一にしたいとか(このへんは好みもあるので正解はありません)、いろいろ物足りないところはありますが、ある程度は満足できる仕上がりになりました。

ギュイーン徳川さんのご厚意でこの状態のrawファイルをそのままサーバにアップしています。ダウンロードしていろいろ試してみてくださいね!

応用編・マスクを駆使してレタッチ(現像)

次は「キャンプでカレーを作るよりも面倒になってもいいからもっと追い込む」ポリシーで処理してみましょう。基本方針は「星空と風景を別々に処理してマスクでつなぎあわせる」です。

地上風景を主眼に下処理する

星空を強調すると風景が破綻します。そうならないように、風景に合わせて軽いレタッチで処理してみます(*)。シャドーを持ち上げるのが主で、彩度は緑が飽和しないマイルドな範囲で、コントラストには手を付けません。

(*)星空と風景の明るさの度合によっては(街灯など極端なハイライトを含む場合など)、風景もPhotoshop側で処理することもあります。

星空をトーンカーブで強調

星空の強調の仕方はいろいろありますが、一番自由度が効くのはトーンカーブです(*)。基本は上の画像のように、①シャドウを裾野の下まで切り詰め、②ヒストグラムの山の部分を最大傾斜にし、③ハイライトは飽和しないように緩いカーブにすることです。

(*)トーンカーブは自由度が高い反面、ある程度慣れないと「訳がわからない」状態になるかもしれません。その点「レベル補正」なら基本は3つのスライダーで調整できるので、初めての方はレベル補正の方がとっつきやすいと思います。

だいぶ天の川が濃く出てきました。反面、風景は完全に黒つぶれしてしまいましたが、これは後でマスクで回避します。とりあえず気にせず進めます。

カラーバランスを細かく調整

次にカラーバランスを調整します。このとき、彩度レイヤーを追加し彩度を上げめにした状態で調整するとやりやすくなります。

一目、シャドウの青が強すぎです。また、星の色がなんとなくマゼンタ・黄色に偏っていて(*)、青のキラメキが足りません。ヒストグラムからも、G(緑)、B(青)のコントラストが不足していることがわかります。

(*)青いバックの白い輝点は黄色っぽく見えてしまうという視覚的な現象もあります。

方針としてはハイライトのBを上げ、シャドウのBを下げます。また、マゼンタっぽさを減らす意味でGを少し上げることにします。

カラーバランスの調整は一番難しいところです。このパラメータが最適なのかどうかは筆者にもよくわかりませんが、方針どおりに進めつつ、色が極端に転ばないように調整しました。(この画像では中間調のGがやや高すぎたようです。次項以降の画像では-2にしています)

天リフ編集長
天リフ編集長
カラーバランス、難しいですよね・・・私もまだまだ勉強不足です・・・

彩度を調整する

カラーバランス調整時点度の彩度は高すぎで大きな色むらが浮いていたため、彩度を再調整します。+20で若干マイルドな強調。

ちなみに彩度MAXにするとこんな感じ。ISOを上げた露出不足気味の画像を激しく強調するとこんな感じの大きな色むらが出てしまうのは仕方ありません。この色むらが浮きすぎない範囲にいかにとどめるかがポイントです。

天リフ編集長
天リフ編集長
「MAX処理」は画像処理の経験値を上げるためにはとても有効。最終画像はともかく、処理中はいろいろ試してみましょう!

マスクをかける

ここまでの一連の処理は、星空のことだけを考えたレタッチでした。なので、これらの調整が星空だけに有効になるようにマスクをかけます

マスクの作り方にはいろいろありますが、一番簡単なのは範囲選択ツールの「クイック選択ツール」を使用する方法です。なんとなくざっくりでもそこそこ使えるマスクになります。

この作例の場合は、森の中の樹木の境界線をどう描き撮るかがポイントになりますが、作例では「クイック選択ツール」でざっくり選択して、投げ縄ツールで細部を調整しました(*)。

(*)他にも「自動選択ツール」「輝度選択」も使えます。

作成したマスクは、一連のレイヤーをグループにし、そのグループに対するマスクにするのが便利です。こうすることで、グループ配下のレイヤーに全てそのマスクが有効になります。

「クイック選択」でマスクを作成すると、そのままだと境界が目立ってしまいます(*)。そのため若干ぼかして使用します。この作例では35pxほどぼかしました。

(*)輝度選択や自動選択ツールの場合ほうが境目が目立ちにくい場合もありますが、ケースバイケースです。

マスクをぼかすと、マスクの境界がグラデーションになってしまうため最終画像にどうしてもその「痕跡」が残ってしまいます(*)。いかにも「マスクで合成しました」っぽい画像にならないように、世界中の「フォトショ使い」は日夜頭をひねっているものと推察します^^;

(*)良くできたマスクほどぼかさずにすみます。逆に「思い切りぼかす」というアプローチもあります。

最終仕上げ

最終仕上げです。レイヤーを結合し、camera rawで色・輝度・コントラストなどを好みの仕上がりに微調整します。かすみの除去で天の川を強調し、シャドウを夜らしく少し下げ、彩度を少し上げました。カラーバランスも緑を少し落としています。その他、ノイズ除去、テクスチャ下げなどです。

最終画像大サイズ版。クリックで縮小なしの画像が開きます。動画の中で使用されている画像は、これに加えてさらに低高度部の赤かぶりをグラデーションマスクで補正しています。

まだ強調の余地はあるのですが、今回の解説はここまでとしておきます^^

他の作例のレタッチ

今回は時間の関係で全部の画像の詳細手順を説明できませんでしたが、「星空撮影キャンプ」の他のリザルトもご紹介しておきます。

エマーク編集長・FUJIFILM X-T3/LAOWA9mmF2.8 ZERO-D

カメラはフジX-T3。赤に強いフジの本領発揮です。レンズはラオワの超広角レンズ9mmF2.8です。

F2.8 ISO12800 15秒

 

基本的な処理は同じですが、周辺減光はあえて強く補正せず、レンズの個性を残しました。超広角で撮る場合は、周辺減光は残っていてもプラスの印象になる場合が多いです。

また、左側の緑・右側の青い人工光も、補正せずそのまま残しました。光害に負けずけなげに?流れる天の川の風流を感じてください^^

トリセツKYOHEIさん・FUJIFILM X-E3/XF23mmF2


こちらもフジ。X-E3です。フジ純正の単焦点レンズは明るくて高性能。F2の威力はどうでしょうか?

上下2フレームパノラマ合成 ISO6400 F2.0 上:40秒、下:20秒 上のコマは露出が長いため星が少し流れていますが、パノラマにすると縮小したのと同じ効果になり、流れがあまり目立たなくなります。

 

APS-CのX-E3で焦点距離23mmはフルサイズ換算35mm。地上の風景と星空の両方を入れるにはちょっと画角不足ですが、明るいレンズでたっぷり露出をかけているので天の川も星の色もよく描写されていますね。

この作例は2フレームの画像をPhotoshopの「PhotoMerge」機能を使用してパノラマ合成してみました。パノラマ合成は、焦点距離の長めのレンズでも広角に撮れる、結構使える手法です。

天リフ編集長
天リフ編集長
PhotoShopのPhotoMerge機能はかなり簡単に使えるので、こちらもぜひ一度お試しください!

まとめ

いかがでしたか?

星空のレタッチはこり出すと泥沼の苦行が待っていますが、あっさりサクサク仕上げることも可能です。手軽に気軽に撮るのなら、Camera raw(LightRoom Classic)だけでもじゅうぶん満足のいく作品を作ることができるでしょう。

まずはソフトの扱いに慣れることです。本格的な画像処理ソフトはけっこう敷居が高いのですが、慣れれば誰でもそれなりには使えるようになります。ぜひ、星空キャンプで素晴らしい傑作をものにしてくださいね!

 

 

ABOUT ME
編集部
天文リフレクションズ編集長です。