みなさんこんにちは!好評連載の画像処理ワンポイント、前回はマニア向けのコテコテの内容でしたが、今回は初級者向けのシンプルで簡単なテーマです!

天体って、暗いくせに明るいところはメチャ明るいんですよねぇ〜。ちょっとうっかりすると、明るい星や星雲の中心部はすぐに「白飛び」しちゃいます。今回のテーマは「白飛びさせない=ハイライトを飛ばさない」ためのたった一つの注意点の解説です!

白飛びって何?



まず白飛びのサンプルを見てみましょう。対象はオリオン大星雲M42。同じ素材画像から処理したものですが、左は中心部が白く飛んでしまっています。一方で、右は白飛びが極力抑えられています。

(*)それでも中心部は飛んでしまっています。極端に輝度差があって元画像の時点で白飛びしている場合は「多段階露出」のような手法が必要になってくるのですが、今回はごく一般的な「レベル補正」「トーンカーブ」の範囲で処理していきます。

素材画像

2018/12/14 EOS6D(SEO-SP4) SIGMA105mmF1.4Art F2.0 60秒×15 ISO3200 SWAT310赤道儀 彗星付近を焦点距離200mm相当にトリミング

今回使用する素材画像。いま地球に絶賛接近中の「ウィルタネン彗星(46P)」です。

左がコンポジット直後のカラーバランスだけを調整した素材画像です。中央が、彗星の中心核付近が「白飛びしてしまった」ちょっと残念な画像。右が白飛びしないように処理した画像です。では早速素材画像を処理してみましょう。

明るさ・コントラストで強調する

コンポジット直後のカラーバランスだけの素材画像です。明るい彗星なのでしっかり写っていますが、この画像の中には淡く広がった「コマ」や細く長く伸びた尾が、実は含まれています。

まずは、一番の基本である「明るさ・コントラスト」で強調してみましょう。

「調整レイヤー」の「明るさ・コントラスト」で、コントラストを+100してみます。背景が締まって、彗星が強調されてきました。でもまだ足りない。もっといきます。


さらに調整レイヤーを重ねて、コントラスト+100、明るさ+50してみます。うーん。この時点で彗星の中心の核の付近は白飛びしてしまいました・・・

さらに強調。コントラスト+100、明るさ+80。ようやく彗星の細い尾が出てきました!でも、彗星本体は完全に白飛びしてしまいました。

結論からいって・・・「明るさ・コントラスト」だけによる強調では、白飛びを回避することができません(*)。悲しいけどこれ事実なんです・・・

(*)私見ですが、「明るさ・コントラスト」は、一通り画像処理が終わった後で、細かく仕上がりを調整するのに使用するのが良いと思います。

白飛びとは何なのか

ここで「白飛び」の正体について、ごく簡単に確認しておきましょう。

「白飛び」とは、画像の明るさがコンピュータで表現できる上限(R,G,Bそれぞれ輝度値255)に達してしまった状態(=飽和)のことです。上の画像は素材画像の彗星の中心核をPhotoshopの「情報」ウィンドウ(*)で調べてみたところ。輝度値はRGBともに255近くになってはいますが、飽和には至っていません。つまり、階調の情報は中心まで存在しているということ。

(*)「ウィンドウ」メニューの「情報」を選択して表示状態にしておくと、マウスカーソルを当てた位置の画像の輝度情報を参照することができます。

しかし、先の「明るさ・コントラスト」の例で強調した画像の輝度値を見てみると、中心付近ではRGBともにほぼ255に達してしまっています。上の画像では、マウスカーソル周辺の白い円盤がほとんど飽和してしまった領域。べったりと白くなってしまっているのです。

レベル補正で強調する

では、飽和させずに強調するにはどうすればいいのでしょうか。「明るさ・コントラスト」の次に簡単に使える「レベル補正」を使ってみましょう。「レベル補正」を使用すれば、飽和させずに強調することができます。



レベル調整の基本は、「シャドウスライダ(上の画像の左の丸)」と「ハイライトスライダ(上の画像の右の丸)」の2つ。この2つをマウスでスライドさせることで、画像の「真っ黒(ないしは真っ白)」になる「下限(ないしは上限)」の輝度値を調整できます。

まずシャドウスライダを上げて、下のレベルを切り詰めます。天体写真では、ヒストグラムの山の左側の裾野の縁まで上げるのが普通です(*)。

(*)背景の空の明かりが乗っているので、ヒストグラムの左の裾野には何も有効な情報が含まれていないため。

ここで大事なこと。ハイライトスライダを切り詰めすぎる(左にスライドさせる)と白飛びしてしまいます。レベル補正で失われた情報は、以降の処理で元に戻すことはできません。切り捨てた(切り詰めた)情報は二度と戻ってこないのです。

露出不足などの理由で一番明るい部分でも輝度値255に達してない画像では、ハイライトのレベル切り詰めには意味があるのですが、少なくともヒストグラムの山が真ん中より右にある場合は、ハイライトのレベル切り詰めは天体写真ではほとんど不要でしょう(*)。

(*)ハイライトのレベル切り詰めが必要なのかどうかは、元画像の一番明るい場所で「情報」ウィンドウを開いて輝度値を見て判断すればよいでしょう。

ハイライトを飛ばさずに強調するには、「中間調スライダ」を使用します。「ハイライトスライダ」を固定している限りは、白飛びすることはないのです(*)。

(*)あくまで理論的には、です。強調しすぎると「飽和していないもののほとんど真っ白」になってしまうことはあります。

できあがり。レベル補正の調整レイヤー1つだけでここまで強調できました。彗星の核もちゃんと飽和せず残っていますし、彗星のテール(尾)が浮かび上がってきました!

ここまで強調してくると背景のムラがだんだんと目立ってきますが、これをどうするかはまた別の機会に!

トーンカーブで強調する

トーンカーブを使用すれば、レベル補正だけでは難しかったハイライト側の微妙な階調の調整など、さらに柔軟な強調が可能になります。上の例はシャドウから中間調のトーンカーブを思い切り立てつつ(強調して)、ハイライト側を寝かせることで両立を図っています。

トーンカーブを使用する場合も、レベル調整同様に「ハイライト側を固定しておく」こと。それさえ気を付ければ、あとは何をやっても白飛びからは逃れることができます。

白飛びを恐れない

最後に一つ。「白飛びさせない」ことは重要な基本ですが、白飛びを恐れるあまりハイライトの輝度が不足してしまうのは本末転倒なことです。

上の画像は素材画像を「元気よく^^」強調したもの。彗星核は飛んでいますが、それはそれ。べったり大きく飛んでいなければいいのです。

こちらの画像はハイライトの輝度が不足している場合。ハイライトを不用意に飛ばしてしまうと大事な階調が失われますが、ハイライトのレベル切り詰めが不十分だと、なんとなく眠くて元気のない画像になってしまいます。

まとめ

天体写真の画像処理は「いかに破綻させずに強調するか」が鍵なのですが、ハイライト側の飛びによる破綻は比較的ケアしやすく、基本さえ押さえておけばたいていの場合は防止できます。

編集子もそうだったのですが、慣れないうちは「ついうっかり」画像処理の初期段階でハイライトを切り詰めすぎてしまい、破綻を引きずったまま後工程の処理で苦しむ(ないしはそれに気がつかない^^;;)ことがあります。レベル補正にせよトーンカーブにせよ、切り詰めすぎに注意しましょう^^

それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。次回またお会いしましょう! https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-150x150.jpg編集部画像処理ワンポイント画像処理みなさんこんにちは!好評連載の画像処理ワンポイント、前回はマニア向けのコテコテの内容でしたが、今回は初級者向けのシンプルで簡単なテーマです! 天体って、暗いくせに明るいところはメチャ明るいんですよねぇ〜。ちょっとうっかりすると、明るい星や星雲の中心部はすぐに「白飛び」しちゃいます。今回のテーマは「白飛びさせない=ハイライトを飛ばさない」ためのたった一つの注意点の解説です! 白飛びって何? まず白飛びのサンプルを見てみましょう。対象はオリオン大星雲M42。同じ素材画像から処理したものですが、左は中心部が白く飛んでしまっています。一方で、右は白飛びが極力抑えられています。 (*)それでも中心部は飛んでしまっています。極端に輝度差があって元画像の時点で白飛びしている場合は「多段階露出」のような手法が必要になってくるのですが、今回はごく一般的な「レベル補正」「トーンカーブ」の範囲で処理していきます。 素材画像 今回使用する素材画像。いま地球に絶賛接近中の「ウィルタネン彗星(46P)」です。 左がコンポジット直後のカラーバランスだけを調整した素材画像です。中央が、彗星の中心核付近が「白飛びしてしまった」ちょっと残念な画像。右が白飛びしないように処理した画像です。では早速素材画像を処理してみましょう。 明るさ・コントラストで強調する コンポジット直後のカラーバランスだけの素材画像です。明るい彗星なのでしっかり写っていますが、この画像の中には淡く広がった「コマ」や細く長く伸びた尾が、実は含まれています。 まずは、一番の基本である「明るさ・コントラスト」で強調してみましょう。 「調整レイヤー」の「明るさ・コントラスト」で、コントラストを+100してみます。背景が締まって、彗星が強調されてきました。でもまだ足りない。もっといきます。 さらに調整レイヤーを重ねて、コントラスト+100、明るさ+50してみます。うーん。この時点で彗星の中心の核の付近は白飛びしてしまいました・・・ さらに強調。コントラスト+100、明るさ+80。ようやく彗星の細い尾が出てきました!でも、彗星本体は完全に白飛びしてしまいました。 結論からいって・・・「明るさ・コントラスト」だけによる強調では、白飛びを回避することができません(*)。悲しいけどこれ事実なんです・・・ (*)私見ですが、「明るさ・コントラスト」は、一通り画像処理が終わった後で、細かく仕上がりを調整するのに使用するのが良いと思います。 白飛びとは何なのか ここで「白飛び」の正体について、ごく簡単に確認しておきましょう。 「白飛び」とは、画像の明るさがコンピュータで表現できる上限(R,G,Bそれぞれ輝度値255)に達してしまった状態(=飽和)のことです。上の画像は素材画像の彗星の中心核をPhotoshopの「情報」ウィンドウ(*)で調べてみたところ。輝度値はRGBともに255近くになってはいますが、飽和には至っていません。つまり、階調の情報は中心まで存在しているということ。 (*)「ウィンドウ」メニューの「情報」を選択して表示状態にしておくと、マウスカーソルを当てた位置の画像の輝度情報を参照することができます。 しかし、先の「明るさ・コントラスト」の例で強調した画像の輝度値を見てみると、中心付近ではRGBともにほぼ255に達してしまっています。上の画像では、マウスカーソル周辺の白い円盤がほとんど飽和してしまった領域。べったりと白くなってしまっているのです。 レベル補正で強調する では、飽和させずに強調するにはどうすればいいのでしょうか。「明るさ・コントラスト」の次に簡単に使える「レベル補正」を使ってみましょう。「レベル補正」を使用すれば、飽和させずに強調することができます。 レベル調整の基本は、「シャドウスライダ(上の画像の左の丸)」と「ハイライトスライダ(上の画像の右の丸)」の2つ。この2つをマウスでスライドさせることで、画像の「真っ黒(ないしは真っ白)」になる「下限(ないしは上限)」の輝度値を調整できます。 まずシャドウスライダを上げて、下のレベルを切り詰めます。天体写真では、ヒストグラムの山の左側の裾野の縁まで上げるのが普通です(*)。 (*)背景の空の明かりが乗っているので、ヒストグラムの左の裾野には何も有効な情報が含まれていないため。 ここで大事なこと。ハイライトスライダを切り詰めすぎる(左にスライドさせる)と白飛びしてしまいます。レベル補正で失われた情報は、以降の処理で元に戻すことはできません。切り捨てた(切り詰めた)情報は二度と戻ってこないのです。 露出不足などの理由で一番明るい部分でも輝度値255に達してない画像では、ハイライトのレベル切り詰めには意味があるのですが、少なくともヒストグラムの山が真ん中より右にある場合は、ハイライトのレベル切り詰めは天体写真ではほとんど不要でしょう(*)。 (*)ハイライトのレベル切り詰めが必要なのかどうかは、元画像の一番明るい場所で「情報」ウィンドウを開いて輝度値を見て判断すればよいでしょう。 ハイライトを飛ばさずに強調するには、「中間調スライダ」を使用します。「ハイライトスライダ」を固定している限りは、白飛びすることはないのです(*)。 (*)あくまで理論的には、です。強調しすぎると「飽和していないもののほとんど真っ白」になってしまうことはあります。 できあがり。レベル補正の調整レイヤー1つだけでここまで強調できました。彗星の核もちゃんと飽和せず残っていますし、彗星のテール(尾)が浮かび上がってきました! ここまで強調してくると背景のムラがだんだんと目立ってきますが、これをどうするかはまた別の機会に! トーンカーブで強調する トーンカーブを使用すれば、レベル補正だけでは難しかったハイライト側の微妙な階調の調整など、さらに柔軟な強調が可能になります。上の例はシャドウから中間調のトーンカーブを思い切り立てつつ(強調して)、ハイライト側を寝かせることで両立を図っています。 トーンカーブを使用する場合も、レベル調整同様に「ハイライト側を固定しておく」こと。それさえ気を付ければ、あとは何をやっても白飛びからは逃れることができます。 白飛びを恐れない 最後に一つ。「白飛びさせない」ことは重要な基本ですが、白飛びを恐れるあまりハイライトの輝度が不足してしまうのは本末転倒なことです。 上の画像は素材画像を「元気よく^^」強調したもの。彗星核は飛んでいますが、それはそれ。べったり大きく飛んでいなければいいのです。 こちらの画像はハイライトの輝度が不足している場合。ハイライトを不用意に飛ばしてしまうと大事な階調が失われますが、ハイライトのレベル切り詰めが不十分だと、なんとなく眠くて元気のない画像になってしまいます。 まとめ 天体写真の画像処理は「いかに破綻させずに強調するか」が鍵なのですが、ハイライト側の飛びによる破綻は比較的ケアしやすく、基本さえ押さえておけばたいていの場合は防止できます。 編集子もそうだったのですが、慣れないうちは「ついうっかり」画像処理の初期段階でハイライトを切り詰めすぎてしまい、破綻を引きずったまま後工程の処理で苦しむ(ないしはそれに気がつかない^^;;)ことがあります。レベル補正にせよトーンカーブにせよ、切り詰めすぎに注意しましょう^^ それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。次回またお会いしましょう!編集部発信のオリジナルコンテンツ