ビクセンからAXJ赤道儀のオプション製品「AXJエンコーダー」が発表されました。発売は12/6、価格は税別19万円です。

ビクセンHP・Vixen 天体望遠鏡 AXJエンコーダー
https://www.vixen.co.jp/product/37913_2/

エンコーダとは何ぞ?

エンコーダとはいってみれば「超精密な電子目盛環」「のようなもの」です。少し長くなりますが、新製品のリリース文よりの引用です。

「AXJエンコーダー」は、「AXJ赤道儀」のパフォーマンスを大幅に向上する高精度エンコーダーです。一般に天体ナビゲーションは、コントローラーの記憶する座標情報と赤道儀のモーター回転角を電気的に一致させ、さらに鏡筒の向きとモーター回転角の位置関係を機械的に一致させることで成立します。このため、天体ナビゲーション機能を使用中は鏡筒の向きとモーター回転角の機械的な位置関係を常に維持しなければならず、クランプをゆるめて鏡筒の向きを手で自由に設定することができません。そこで、機械的な関係である鏡筒の向き(赤道儀の回転角)とモーターの回転角を電気的に一致させることができれば、クランプをゆるめても鏡筒の向きとコントローラー座標との位置関係を維持できます。これを実現するのが「AXJエンコーダー」です。クランプをゆるめて鏡筒の向きを手で動かしてもコントローラーの座標情報とのリンクを保つため、コントローラーの星図画面を見ながら、手動による快適な天体導入を楽しむことができます。

天体望遠鏡の自動導入では、「いま望遠鏡がどこを向いているのか」が常に把握されていなければなりませんが、エンコーダなしの赤道儀の場合、アライメントされた対象の位置をもとに、モーターの回転量からどこを向いているのかを(*)常にコントローラが管理しています。

(*)ステッピングモータの場合、ステップ数とギア比から計算可能です。

しかし、これはアライメント時点での鏡筒と赤道儀の位置関係が固定されていることが前提になります。クランプを緩めて手で動かしてしまうと、その関係が崩れてしまいます。「エンコーダ」を使用することで、クランプフリー操作を行っても赤道儀の物理的な位置を常に把握することが可能になります。

エンコーダのメリット

エンコーダ装着のメリットの一つは、前述の通りの「クランプフリーにして動かしても、望遠鏡の自動導入システムが動作する」ことです。AXJ赤道儀にエンコーダを装着すれば、クランプフリーで望遠鏡を動かしても、スターブックテンの星図ないしは対象の印が追従して動くことになり、「スターブックテンの星図画面を見ながら手動で天体を導入できる」ようになります(*)。

(*)とはいえ、現状のスターブックテンの画面を実際に「見ながら」鏡筒を動かすのは至難の技な気がします。スターブックテンを鏡筒側に取り付けられるとよいのですが、太いシリアルケーブルなど物理的な形状が問題になりそうです。ステラナビをインストールしたWindowsタブレットを鏡筒に取り付けて同じような操作感を得ることは可能なのでしょうか?CP+2016で参考出品されていた「WiFi付きアドバンスユニット」に期待が・・・

 

エンコーダと赤道儀の全体図。エンコーダは本体に完全に内蔵されるため、ケーブル等はありません。外観にも影響はありません。このあたりのスマートな設計はさすがビクセン。

AXJ赤道儀の場合、もうひとつメリットがあります。それは、赤道儀の追尾精度がさらに高精度になること。AXJエンコーダの分解能は赤経側でなんと0.1秒角。これだけの分解能で回転状態を把握できれば、「赤道儀が正確に恒星時で回転しているかどうか」をエンコーダの信号によってチェックすることが可能になり、より高精度な追尾が実現するのでしょう。元々AXJ赤道儀はピリオディックエラーが公称±4秒角となっていますが、エンコーダを装着すると±0.5秒角となるそうです(*)。これは凄い。

(*)口径25cmの望遠鏡の最小星像の理論限界である「エアリーディスク」の直径は1.0秒角です。よほどシーイングの良い時でない限り、±0.5秒角の精度で追尾できれば星像が流れることはないでしょう。

自動導入だけを考えれば、AXJエンコーダよりもはるかに粗いエンコーダでも十分実用になるはず(*)。分解能0.1秒角というエンコーダを搭載した狙いは、ガイド精度の向上のためでしょう(**)。

(*)ぐぐってみると、分解能0.1°(6分角)のロータリーエンコーダーはモノタロウで1万円程度で販売されています。AXJエンコーダはこのクラスとは全くレベルの違う分解能です。

(**)ピリオディックモーションには関係ないはずの赤緯側のエンコーダの分解能もなんと0.2秒角。これは極軸が正確でない場合の赤緯側の動作も、エンコーダを使用して制御しているのでしょうか?(詳細は不明です)。

いろいろと想像だけは膨らみますが、赤道儀は最終的に正確に追尾できてなんぼ。さまざまな電子的・機械的・環境的要因が絡み合う赤道儀の追尾は、それほど単純なものではありません。AXJエンコーダの総合的な評価は、今後のユーザーレポートを待ちたいと思います。

下克上?AXD2との比較

あたらめてAXD2をしげしげと見るとAXJにはない「(アナログ)目盛環」が装備されていることに気がつきます。 https://www.vixen.co.jp/product/36941_6/

スペック通りの性能をAXJエンコーダが叩き出すとすると、AXDとの棲み分けが微妙になってきます。AXJの公称ピリオディックエラーは±2.8秒角以下。これだけを見るとAXJエンコーダで大差で逆転することになります。お値段はAXJ+エンコーダで89万円。98万円のAXD2より少し安い。「下克上」といってもよい状況。

一方で「搭載可能重量」はAXDが30kg、AXJが22kg。スペック的にはこの差は歴然ですが、総合的にどちらが良いのか?ユーザの用途次第ですが悩ましい選択ですね。

他機種への展開は??

スペック通りの性能を発揮するなら超画期的なAXJエンコーダですが、ビクセンの他機種に展開される可能性はどうでしょうか。現行のAXD2赤道儀の場合、機械構造上搭載する余地がなく搭載の予定はないことがすでにアナウンスされていますので、あるとすればAXD2の「後継機種」からでしょう。また、19万円という価格からみて、SXP2に搭載というのも価格的にバランスが悪そうです。

https://www.vixen.co.jp/product/39973_4/

「クランプフリーにしても自動導入が動作する」というメリットだけにフォーカスすると、むしろ搭載する意味があるのはAP赤道儀です。ポルタIIやAP赤道儀など、「直感的なフリーストップ」が大好きなビクセン製品ですが、フリーストップはエンコーダなしでは自動導入と両立しません。AP赤道儀にこそ、エンコーダの搭載を検討してほしいものです(*)。

(*)Sky-Watcherの4万円の自動導入経緯台AZ-GTiは、フリーストップを謳っている訳ではありませんが、エンコーダが搭載されています。分解能的にはAXJエンコーダとは桁違いに粗いものと推測しますが、分解能を欲張らず自動導入補助に徹すれば、安価に製品化が可能であることを示しています。

まとめ

まとめといいながら、私見を書きます^^

「フリーストップで鏡筒を振り回して、自動導入や電子的なナビゲーションを併用しつつ、あれこれ導入して星空を楽しむ」という使い方が、「現時点の」AXJ赤道儀になじむかどうかは正直わかりません^^;;

しかし、公称通りの追尾精度が実現すれば、オートガイドなしの赤道儀任せで済む焦点距離が1ランク長くなる可能性があります。20cmF10反射で2分ノーガイド、25cmF4反射で5分ノーガイド、500mmF5屈折で10分ノーガイド。このあたりが余裕でクリアできるのであれば、AXJ赤道儀は「手間を掛けずに天体写真を楽しむ」決定版になる可能性があると感じます。

高いか安いか、製品が売れるかどうかは市場が決めること。今後のAXJエンコーダのユーザーの評価に注目したいと思います。

なお、AXJエンコーダを使用するためにはスターブックテンのアップデートが必要だそうです。ご注意下さい!

 

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/img1.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/img1-150x150.jpg編集部新着天文機材ピックアップビクセンからAXJ赤道儀のオプション製品「AXJエンコーダー」が発表されました。発売は12/6、価格は税別19万円です。 ビクセンHP・Vixen 天体望遠鏡 AXJエンコーダー https://www.vixen.co.jp/product/37913_2/ エンコーダとは何ぞ? エンコーダとはいってみれば「超精密な電子目盛環」「のようなもの」です。少し長くなりますが、新製品のリリース文よりの引用です。 「AXJエンコーダー」は、「AXJ赤道儀」のパフォーマンスを大幅に向上する高精度エンコーダーです。一般に天体ナビゲーションは、コントローラーの記憶する座標情報と赤道儀のモーター回転角を電気的に一致させ、さらに鏡筒の向きとモーター回転角の位置関係を機械的に一致させることで成立します。このため、天体ナビゲーション機能を使用中は鏡筒の向きとモーター回転角の機械的な位置関係を常に維持しなければならず、クランプをゆるめて鏡筒の向きを手で自由に設定することができません。そこで、機械的な関係である鏡筒の向き(赤道儀の回転角)とモーターの回転角を電気的に一致させることができれば、クランプをゆるめても鏡筒の向きとコントローラー座標との位置関係を維持できます。これを実現するのが「AXJエンコーダー」です。クランプをゆるめて鏡筒の向きを手で動かしてもコントローラーの座標情報とのリンクを保つため、コントローラーの星図画面を見ながら、手動による快適な天体導入を楽しむことができます。 天体望遠鏡の自動導入では、「いま望遠鏡がどこを向いているのか」が常に把握されていなければなりませんが、エンコーダなしの赤道儀の場合、アライメントされた対象の位置をもとに、モーターの回転量からどこを向いているのかを(*)常にコントローラが管理しています。 (*)ステッピングモータの場合、ステップ数とギア比から計算可能です。 しかし、これはアライメント時点での鏡筒と赤道儀の位置関係が固定されていることが前提になります。クランプを緩めて手で動かしてしまうと、その関係が崩れてしまいます。「エンコーダ」を使用することで、クランプフリー操作を行っても赤道儀の物理的な位置を常に把握することが可能になります。 エンコーダのメリット エンコーダ装着のメリットの一つは、前述の通りの「クランプフリーにして動かしても、望遠鏡の自動導入システムが動作する」ことです。AXJ赤道儀にエンコーダを装着すれば、クランプフリーで望遠鏡を動かしても、スターブックテンの星図ないしは対象の印が追従して動くことになり、「スターブックテンの星図画面を見ながら手動で天体を導入できる」ようになります(*)。 (*)とはいえ、現状のスターブックテンの画面を実際に「見ながら」鏡筒を動かすのは至難の技な気がします。スターブックテンを鏡筒側に取り付けられるとよいのですが、太いシリアルケーブルなど物理的な形状が問題になりそうです。ステラナビをインストールしたWindowsタブレットを鏡筒に取り付けて同じような操作感を得ることは可能なのでしょうか?CP+2016で参考出品されていた「WiFi付きアドバンスユニット」に期待が・・・   AXJ赤道儀の場合、もうひとつメリットがあります。それは、赤道儀の追尾精度がさらに高精度になること。AXJエンコーダの分解能は赤経側でなんと0.1秒角。これだけの分解能で回転状態を把握できれば、「赤道儀が正確に恒星時で回転しているかどうか」をエンコーダの信号によってチェックすることが可能になり、より高精度な追尾が実現するのでしょう。元々AXJ赤道儀はピリオディックエラーが公称±4秒角となっていますが、エンコーダを装着すると±0.5秒角となるそうです(*)。これは凄い。 (*)口径25cmの望遠鏡の最小星像の理論限界である「エアリーディスク」の直径は1.0秒角です。よほどシーイングの良い時でない限り、±0.5秒角の精度で追尾できれば星像が流れることはないでしょう。 自動導入だけを考えれば、AXJエンコーダよりもはるかに粗いエンコーダでも十分実用になるはず(*)。分解能0.1秒角というエンコーダを搭載した狙いは、ガイド精度の向上のためでしょう(**)。 (*)ぐぐってみると、分解能0.1°(6分角)のロータリーエンコーダーはモノタロウで1万円程度で販売されています。AXJエンコーダはこのクラスとは全くレベルの違う分解能です。 (**)ピリオディックモーションには関係ないはずの赤緯側のエンコーダの分解能もなんと0.2秒角。これは極軸が正確でない場合の赤緯側の動作も、エンコーダを使用して制御しているのでしょうか?(詳細は不明です)。 いろいろと想像だけは膨らみますが、赤道儀は最終的に正確に追尾できてなんぼ。さまざまな電子的・機械的・環境的要因が絡み合う赤道儀の追尾は、それほど単純なものではありません。AXJエンコーダの総合的な評価は、今後のユーザーレポートを待ちたいと思います。 下克上?AXD2との比較 スペック通りの性能をAXJエンコーダが叩き出すとすると、AXDとの棲み分けが微妙になってきます。AXJの公称ピリオディックエラーは±2.8秒角以下。これだけを見るとAXJエンコーダで大差で逆転することになります。お値段はAXJ+エンコーダで89万円。98万円のAXD2より少し安い。「下克上」といってもよい状況。 一方で「搭載可能重量」はAXDが30kg、AXJが22kg。スペック的にはこの差は歴然ですが、総合的にどちらが良いのか?ユーザの用途次第ですが悩ましい選択ですね。 他機種への展開は?? スペック通りの性能を発揮するなら超画期的なAXJエンコーダですが、ビクセンの他機種に展開される可能性はどうでしょうか。現行のAXD2赤道儀の場合、機械構造上搭載する余地がなく搭載の予定はないことがすでにアナウンスされていますので、あるとすればAXD2の「後継機種」からでしょう。また、19万円という価格からみて、SXP2に搭載というのも価格的にバランスが悪そうです。 「クランプフリーにしても自動導入が動作する」というメリットだけにフォーカスすると、むしろ搭載する意味があるのはAP赤道儀です。ポルタIIやAP赤道儀など、「直感的なフリーストップ」が大好きなビクセン製品ですが、フリーストップはエンコーダなしでは自動導入と両立しません。AP赤道儀にこそ、エンコーダの搭載を検討してほしいものです(*)。 (*)Sky-Watcherの4万円の自動導入経緯台AZ-GTiは、フリーストップを謳っている訳ではありませんが、エンコーダが搭載されています。分解能的にはAXJエンコーダとは桁違いに粗いものと推測しますが、分解能を欲張らず自動導入補助に徹すれば、安価に製品化が可能であることを示しています。 まとめ まとめといいながら、私見を書きます^^ 「フリーストップで鏡筒を振り回して、自動導入や電子的なナビゲーションを併用しつつ、あれこれ導入して星空を楽しむ」という使い方が、「現時点の」AXJ赤道儀になじむかどうかは正直わかりません^^;; しかし、公称通りの追尾精度が実現すれば、オートガイドなしの赤道儀任せで済む焦点距離が1ランク長くなる可能性があります。20cmF10反射で2分ノーガイド、25cmF4反射で5分ノーガイド、500mmF5屈折で10分ノーガイド。このあたりが余裕でクリアできるのであれば、AXJ赤道儀は「手間を掛けずに天体写真を楽しむ」決定版になる可能性があると感じます。 高いか安いか、製品が売れるかどうかは市場が決めること。今後のAXJエンコーダのユーザーの評価に注目したいと思います。 なお、AXJエンコーダを使用するためにはスターブックテンのアップデートが必要だそうです。ご注意下さい! https://twitter.com/KYOEI_TOKYO/status/1068342853586186240  編集部発信のオリジナルコンテンツ