8月に発売された書籍ですが、たまたま本屋で見かけて、その内容が素晴らしかったのでご紹介したいと思います。

星景写真(星空風景)のバイブル

構成は大きく3つ。星空・機材・撮影の基本知識をまず解説し、続いて30ほどの撮影シーン毎に作例とテーマ、それを実現するテクニックの詳細。最後に画像処理(補正)について。画像処理に偏重せず「何をどう撮りたいのか」「そのためにどうすればいいのか」の読み解きが中心になっています。

この本一冊を通読すれば、「星空の写真の撮影」という広い分野を一通り見通すことができるでしょう(*)。

(*)本文中の見出しが目次に反映されていなかったり、若干構成が柔らかすぎる気はしますが・・・目次から読むのではなくてパラパラと見て気になったところを読み進めるようなネット風の読まれ方を想定したのでしょうか。

幅広い知識と機材、テクニックを網羅

この本の特徴は、「写真趣味」と「天文趣味」の橋渡しの役割を果たしていること。天文マニアには当たり前の「季節による天の川の見え方の違い」ですが、ビジュアルにも工夫して四季の見え方が解説されています。

画像処理については、天体写真独特の強調テクニックには走らず、極めて基本的でオーソドックスな解説になっています。魚眼画像から360°パノラマ画像に変換する方法の解説があって、ここだけ妙にマニアック^^;

星空の「本当の色」って何?的な悩みを抱えがちな初心者向けには、「カラーバランス」についての言及が欲しかったところ。

読み応えのある「シーン別撮影テクニック」

この本の一番の読みどころは「シーン別撮影テクニック」。一つの作例を撮影データとともに提示し、作品のテーマとそれを実現するテクニックが解説されています。その中には著者の写真観と星空に対する感受性が滲み出ています。

(残念ながら「なか見検索」には画像がありません。なんででしょうねえ・・・)

解説されている「月に照らされた地上と星空」「雲を入れて情感を豊かに表現する」というシーンは風景写真的には当たり前の発想ですが、「電柱を入れて生活感のある印象に」「星空写真に人物を入れて撮る」といったテーマ設定は、天文マニアやネイチャーフォトからは一線を画す発想。

「この先」にある様々なジャンルにも言及

天文マニアのディープな世界への動線も随所にちりばめられています。惑星用のCMOSカメラの紹介があったり、望遠レンズの解説の中にいきなり「アストログラフRASA F2.2」が出てきたり^^

天文系以外にも「幅広ストラップの弊害」や図解入りの「プロストラップ巻きの方法」、自動記録可能な「ポケット気象計」など、「きっと知らないマニアな知識」も満載。

また、撮影のマナーについても1Pを割いて解説があります。他人の車のヘッドライトを消せと迫るのは違法行為であるという認識や、「個人の土地に勝手に入るな」という昔から当たり前のはずなのに守られていない行為についても、本書では明記されています。

ライトアップはどうなの?

前景がライトアップされた作例が多数掲載されています。これについては「伝統的星景写真ファン」からかなり強い異論が出ているのをSNSで眼にしました(*)。「ライトアップをする際はまわりに撮影者がいないかどうかを確かめてから撮影しよう」という記述はありますが(確かめるだけでいいのか?)、もう一歩踏み込んで「撮影現場にいるのは、ライトアップをしたい撮影者ばかりではない。ライトアップは自然のありのままの姿を壊してしまう。ライトアップをする場合は、周囲に他の撮影者がいないことを確認し、撮影者がいる場合は一声掛ける、控えめな光量を心がける、延々と照らし続けないなどの配慮をされたい」などと表現して欲しかったと思います。

(*)編集子の立場は「ライトアップ星景を禁止することは不可能だし、作品としてそれを一般的に否定する理由はどこにもない」でも、「ライトアップを迷惑と感じる撮影者は多く、むやみに行うべきではない」です。

細かい要望など

星空の暗さに具体的(暗夜は昼間の400万分の1)に言及されているのが素晴らしい。ポラリエは著者の改造品の縦型。

P14)ポラリエがいきなり縦向きで通常でない設置になっているのですが・・これどうやって固定しているんでしょう?入門者向けの本なら、ノーマルな使い方にしておきたかったところ。読み進めるとなぜ縦置きにしているのかもちゃんと書いてあるのですが。

P41)三脚で使用する「クイックシュー」の解説がありますが、ここは最近主流になりつつある「アルカスイス互換」についての言及がぜひ欲しかったところ。

P111)飛行機の中からの星空撮影の方法と作例が記載されています。こういうニッチっぽいシチューエーションもしっかり網羅しているのは素晴らしい。沼澤さんにはぜひ忍者レフを試していただきたいと思います(知らないはずはない気もするので何か理由があるのならそれも知りたいところです)。

P56)「星空写真は開放絞りで撮る」四隅ばかり気にするガチ天体写真マニアに一撃を放っているのは痛快です。絞りによる収差の違いの例もしっかり記述されていて「必要な時は解放でいいんだよ、バカの一つ覚えのようにF2.8まで絞る必要はないんだよ、目的に応じて使い分けるんだよ」というメッセージには激しく同意します。でも「最新レンズは高画質、絞って使う必要はない」はちょっと言い過ぎではないでしょうか?F2.8くらいでは回折は問題にならないし、解放が最高性能になるレンズは極めて限定されると思います。

「星空風景」という呼称

本書では「星景写真」という用語は使われておらず「星空写真」ないしは「星空風景」という用語で統一されています。「ポタ赤vsコン赤」と同様、何を何と呼ぼうと勝手と言えば勝手なのですが、「星空風景という呼称は星景写真という呼称とだいたい同じ」という言及があってもいい気がしました(*)。

(*)いらぬ火種をまかない配慮なのかもしれません^^;;

まとめ

この本は星空の撮影に興味を持った多くの一般写真愛好家にとって「まずこの一冊」として激しく推奨できる素晴らしいできばえになっています。星空の写真の「今現在」の重要なトピックはほぼ全てが盛り込まれています。写真そのものを始めたばかりの初心者には読みこなすのが難しいところもありますが、心配はいりません。わからないことがあったら、そこで自分で調べればよいのです。

ネット全盛の現在、書籍離れが進んでいますが、このような良書は時代を超えて残るはずだし、こういう書籍がもっともっと多く広い分野で出版されるように、天文メディアや業界の先端にいる人たちは努力を継続するべきだと痛感しました。著者である沼澤茂美さんと出版元であるインプレス社に敬意を表したいと思います。


・画像はAmazon.co.jpの「なか見検索」の画像を転載しています。

 

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/A1JLx77qXHL_s-760x1024.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/A1JLx77qXHL_s-150x150.jpg編集部ブックレビュー新着8月に発売された書籍ですが、たまたま本屋で見かけて、その内容が素晴らしかったのでご紹介したいと思います。 星景写真(星空風景)のバイブル 構成は大きく3つ。星空・機材・撮影の基本知識をまず解説し、続いて30ほどの撮影シーン毎に作例とテーマ、それを実現するテクニックの詳細。最後に画像処理(補正)について。画像処理に偏重せず「何をどう撮りたいのか」「そのためにどうすればいいのか」の読み解きが中心になっています。 この本一冊を通読すれば、「星空の写真の撮影」という広い分野を一通り見通すことができるでしょう(*)。 (*)本文中の見出しが目次に反映されていなかったり、若干構成が柔らかすぎる気はしますが・・・目次から読むのではなくてパラパラと見て気になったところを読み進めるようなネット風の読まれ方を想定したのでしょうか。 幅広い知識と機材、テクニックを網羅 この本の特徴は、「写真趣味」と「天文趣味」の橋渡しの役割を果たしていること。天文マニアには当たり前の「季節による天の川の見え方の違い」ですが、ビジュアルにも工夫して四季の見え方が解説されています。 画像処理については、天体写真独特の強調テクニックには走らず、極めて基本的でオーソドックスな解説になっています。魚眼画像から360°パノラマ画像に変換する方法の解説があって、ここだけ妙にマニアック^^; 星空の「本当の色」って何?的な悩みを抱えがちな初心者向けには、「カラーバランス」についての言及が欲しかったところ。 読み応えのある「シーン別撮影テクニック」 この本の一番の読みどころは「シーン別撮影テクニック」。一つの作例を撮影データとともに提示し、作品のテーマとそれを実現するテクニックが解説されています。その中には著者の写真観と星空に対する感受性が滲み出ています。 (残念ながら「なか見検索」には画像がありません。なんででしょうねえ・・・) 解説されている「月に照らされた地上と星空」「雲を入れて情感を豊かに表現する」というシーンは風景写真的には当たり前の発想ですが、「電柱を入れて生活感のある印象に」「星空写真に人物を入れて撮る」といったテーマ設定は、天文マニアやネイチャーフォトからは一線を画す発想。 「この先」にある様々なジャンルにも言及 天文マニアのディープな世界への動線も随所にちりばめられています。惑星用のCMOSカメラの紹介があったり、望遠レンズの解説の中にいきなり「アストログラフRASA F2.2」が出てきたり^^ 天文系以外にも「幅広ストラップの弊害」や図解入りの「プロストラップ巻きの方法」、自動記録可能な「ポケット気象計」など、「きっと知らないマニアな知識」も満載。 また、撮影のマナーについても1Pを割いて解説があります。他人の車のヘッドライトを消せと迫るのは違法行為であるという認識や、「個人の土地に勝手に入るな」という昔から当たり前のはずなのに守られていない行為についても、本書では明記されています。 ライトアップはどうなの? 前景がライトアップされた作例が多数掲載されています。これについては「伝統的星景写真ファン」からかなり強い異論が出ているのをSNSで眼にしました(*)。「ライトアップをする際はまわりに撮影者がいないかどうかを確かめてから撮影しよう」という記述はありますが(確かめるだけでいいのか?)、もう一歩踏み込んで「撮影現場にいるのは、ライトアップをしたい撮影者ばかりではない。ライトアップは自然のありのままの姿を壊してしまう。ライトアップをする場合は、周囲に他の撮影者がいないことを確認し、撮影者がいる場合は一声掛ける、控えめな光量を心がける、延々と照らし続けないなどの配慮をされたい」などと表現して欲しかったと思います。 (*)編集子の立場は「ライトアップ星景を禁止することは不可能だし、作品としてそれを一般的に否定する理由はどこにもない」でも、「ライトアップを迷惑と感じる撮影者は多く、むやみに行うべきではない」です。 細かい要望など P14)ポラリエがいきなり縦向きで通常でない設置になっているのですが・・これどうやって固定しているんでしょう?入門者向けの本なら、ノーマルな使い方にしておきたかったところ。読み進めるとなぜ縦置きにしているのかもちゃんと書いてあるのですが。 P41)三脚で使用する「クイックシュー」の解説がありますが、ここは最近主流になりつつある「アルカスイス互換」についての言及がぜひ欲しかったところ。 P111)飛行機の中からの星空撮影の方法と作例が記載されています。こういうニッチっぽいシチューエーションもしっかり網羅しているのは素晴らしい。沼澤さんにはぜひ忍者レフを試していただきたいと思います(知らないはずはない気もするので何か理由があるのならそれも知りたいところです)。 P56)「星空写真は開放絞りで撮る」四隅ばかり気にするガチ天体写真マニアに一撃を放っているのは痛快です。絞りによる収差の違いの例もしっかり記述されていて「必要な時は解放でいいんだよ、バカの一つ覚えのようにF2.8まで絞る必要はないんだよ、目的に応じて使い分けるんだよ」というメッセージには激しく同意します。でも「最新レンズは高画質、絞って使う必要はない」はちょっと言い過ぎではないでしょうか?F2.8くらいでは回折は問題にならないし、解放が最高性能になるレンズは極めて限定されると思います。 「星空風景」という呼称 本書では「星景写真」という用語は使われておらず「星空写真」ないしは「星空風景」という用語で統一されています。「ポタ赤vsコン赤」と同様、何を何と呼ぼうと勝手と言えば勝手なのですが、「星空風景という呼称は星景写真という呼称とだいたい同じ」という言及があってもいい気がしました(*)。 (*)いらぬ火種をまかない配慮なのかもしれません^^;; まとめ この本は星空の撮影に興味を持った多くの一般写真愛好家にとって「まずこの一冊」として激しく推奨できる素晴らしいできばえになっています。星空の写真の「今現在」の重要なトピックはほぼ全てが盛り込まれています。写真そのものを始めたばかりの初心者には読みこなすのが難しいところもありますが、心配はいりません。わからないことがあったら、そこで自分で調べればよいのです。 ネット全盛の現在、書籍離れが進んでいますが、このような良書は時代を超えて残るはずだし、こういう書籍がもっともっと多く広い分野で出版されるように、天文メディアや業界の先端にいる人たちは努力を継続するべきだと痛感しました。著者である沼澤茂美さんと出版元であるインプレス社に敬意を表したいと思います。 ・画像はAmazon.co.jpの「なか見検索」の画像を転載しています。  編集部発信のオリジナルコンテンツ