ブログ「木人の天体写真日記」に、ガイドカメラに赤外線のみを通す「IRパスフィルター」を装着することでシンチレーションによる星のゆらぎを軽減する手法が紹介されています。

木人の天体写真日記・ひょっとして大発明? スーパーオートガイダー 3
http://bokujin555.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-ed12.html
さて、以前から考えていた 「完全赤外光によるオートガイド」は可能なのだろうか?
という問題。さっそく検証してみた。



オートガイドにおけるシンチレーションの悪影響

(C)木人の天体写真日記 http://bokujin555.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-ed12.html

まず、シンチレーションによる星の揺らぎが、なぜオートガイドに悪影響をもたらすかを簡単に整理しておきましょう。

上のグラフは、オートガイドのガイド信号を止めて、赤道儀は単純に恒星時追尾をするだけの状態の際のPHD2のガイドグラフ。赤経側(青)はピリオディックエラーでおおきな波を打っていますが、細かな揺れが不規則に繰り返しています。基本的にこの揺らぎがシンチレーションによるもの(*)。

(*)風などによる微振動は含まれる可能性はあります。

シンチレーションのゆらぎそのものによって撮像画像に影響を与える(星像がぼける)のは回避できないのですが、問題はこのシンチレーションのゆらぎをオートガイダーが「補正しようとしてしまう」ことです。

非常に高速なレスポンスでオートガイダーと赤道儀が補正信号に追従してくれればいいのですが、赤道儀と駆動システムはそんなに速く反応できません。むしろ、無駄な補正信号を赤道儀に送り続け、かえってガイド精度を悪くしてしまうことになります。

赤外光のみでガイドすることで、ガイドカメラのシンチレーションによる影響を低減できれば、より正確な追尾が可能になるのではないか、というのがこの手法のコンセプトです。

赤外線だとなぜシンチレーションが減るのか

惑星や月面の撮影の際に、赤外線のみで撮像しシンチレーションの影響を回避する方法が、最近天体写真家の中で試行されています。では、なぜ赤外線だとシンチレーションが減るのでしょうか。

シンチレーションの原因は大気の屈折。大気中の温度差や風によって、天体からの光が不規則に屈折することが原因です。この屈折率は、基本的には波長が長い方が小さくなります。編集子の理解はここまでで(*)、これ以上のことは定量的にも定性的にもわかっていません^^;; ただ、赤外光では可視光よりもゆらぎが少ないことは事実のようです。

(*) 上のツイートでもっともらしく850/550などという数字を出しましたが、よく考えると根拠レスでした、すみません。。



効果はどのくらい?デメリットは?

(C)木人の天体写真日記 http://bokujin555.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-ed12.html

元記事に掲載されているIRパスフィルター装着後のPHD2のガイドグラフ。一見してこまかなブレが少なくなっています。赤経方向のピリオディックエラーも少なく見えるのですが、その理由はわかりません^^;; 詳しい条件も不明なのですが(*)、この2つのグラフを見る限り十分効果があるように見えます。

(*)ガイドカメラの露出秒数が3倍の3秒になっているのも気になるのですが・・

デメリットとしては、可視光をカットしてしまうため、ガイドカメラが受ける光量が減ります。ただし、CMOSカメラはカラーもモノクロも赤外域の感度が高いため、それなりにガイド星は見つかるようです。カメラとの相性もあるので(*)、そこは各自で工夫が必要かもしれません。

(*)850nmの「IRパスフィルター」はかなり赤外寄りで、カメラによっては相当暗くなる可能性があります。編集部の改造α7Sの場合、R62で露出倍数2倍、IR86だと露出倍16倍くらいでした。

追記)11/7

「露出時間3倍にしてるんだから、そりゃ平均化されてガイドグラフは平坦になるでしょ」との指摘をいただきました。やはり同一条件で比較して検証しなければなりませんね。編集部でも改めて検証する予定です。

「IRパスフィルター」の入手方法

ブログ主様の使用されたフィルターはZWO社の製品で3000円程度のようです。

Electric Sheep IR 850nmパスフィルター 1.25インチ
http://www.electricsheep.co.jp/astroshop/?itemcode=zwoirp01

「IRパスフィルター」はいわゆる「シャープカットフィルター」の一種で(干渉フィルターではない)、比較的安価にアセテートタイプのものを購入可能です。富士フイルムからは40nm刻みで各種が販売されています。アマゾンなどで在庫があればすぐ買えますが、品切れもよくあるので詳細はご確認下さい。

富士フイルム・IRフィルター
https://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/sheetfilter/ir.html

まとめ

編集部にも、赤外撮影用に入手した富士のIRフィルター(IR72とIR86)の余りがあるので、いずれASI120MM Miniに装着して試してみようと思います。冬場などシーイングのよくないときや、ハンチング(ガイド信号に過剰反応して補正過多と逆補正を繰り返す)が大きい赤道儀の場合に効果を期待しています。結果が得られれば、レポートしたいと思います。

https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/phd3-1024x575.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/11/phd3-150x150.jpg編集部天体写真ブログ「木人の天体写真日記」に、ガイドカメラに赤外線のみを通す「IRパスフィルター」を装着することでシンチレーションによる星のゆらぎを軽減する手法が紹介されています。 木人の天体写真日記・ひょっとして大発明? スーパーオートガイダー 3 http://bokujin555.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-ed12.html さて、以前から考えていた 「完全赤外光によるオートガイド」は可能なのだろうか? という問題。さっそく検証してみた。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1059616770112204801 オートガイドにおけるシンチレーションの悪影響 まず、シンチレーションによる星の揺らぎが、なぜオートガイドに悪影響をもたらすかを簡単に整理しておきましょう。 上のグラフは、オートガイドのガイド信号を止めて、赤道儀は単純に恒星時追尾をするだけの状態の際のPHD2のガイドグラフ。赤経側(青)はピリオディックエラーでおおきな波を打っていますが、細かな揺れが不規則に繰り返しています。基本的にこの揺らぎがシンチレーションによるもの(*)。 (*)風などによる微振動は含まれる可能性はあります。 シンチレーションのゆらぎそのものによって撮像画像に影響を与える(星像がぼける)のは回避できないのですが、問題はこのシンチレーションのゆらぎをオートガイダーが「補正しようとしてしまう」ことです。 非常に高速なレスポンスでオートガイダーと赤道儀が補正信号に追従してくれればいいのですが、赤道儀と駆動システムはそんなに速く反応できません。むしろ、無駄な補正信号を赤道儀に送り続け、かえってガイド精度を悪くしてしまうことになります。 赤外光のみでガイドすることで、ガイドカメラのシンチレーションによる影響を低減できれば、より正確な追尾が可能になるのではないか、というのがこの手法のコンセプトです。 赤外線だとなぜシンチレーションが減るのか 惑星や月面の撮影の際に、赤外線のみで撮像しシンチレーションの影響を回避する方法が、最近天体写真家の中で試行されています。では、なぜ赤外線だとシンチレーションが減るのでしょうか。 シンチレーションの原因は大気の屈折。大気中の温度差や風によって、天体からの光が不規則に屈折することが原因です。この屈折率は、基本的には波長が長い方が小さくなります。編集子の理解はここまでで(*)、これ以上のことは定量的にも定性的にもわかっていません^^;; ただ、赤外光では可視光よりもゆらぎが少ないことは事実のようです。 (*) 上のツイートでもっともらしく850/550などという数字を出しましたが、よく考えると根拠レスでした、すみません。。 効果はどのくらい?デメリットは? 元記事に掲載されているIRパスフィルター装着後のPHD2のガイドグラフ。一見してこまかなブレが少なくなっています。赤経方向のピリオディックエラーも少なく見えるのですが、その理由はわかりません^^;; 詳しい条件も不明なのですが(*)、この2つのグラフを見る限り十分効果があるように見えます。 (*)ガイドカメラの露出秒数が3倍の3秒になっているのも気になるのですが・・ デメリットとしては、可視光をカットしてしまうため、ガイドカメラが受ける光量が減ります。ただし、CMOSカメラはカラーもモノクロも赤外域の感度が高いため、それなりにガイド星は見つかるようです。カメラとの相性もあるので(*)、そこは各自で工夫が必要かもしれません。 (*)850nmの「IRパスフィルター」はかなり赤外寄りで、カメラによっては相当暗くなる可能性があります。編集部の改造α7Sの場合、R62で露出倍数2倍、IR86だと露出倍16倍くらいでした。 追記)11/7 「露出時間3倍にしてるんだから、そりゃ平均化されてガイドグラフは平坦になるでしょ」との指摘をいただきました。やはり同一条件で比較して検証しなければなりませんね。編集部でも改めて検証する予定です。 https://twitter.com/hiropon_hp2/status/1059979601500233728 「IRパスフィルター」の入手方法 ブログ主様の使用されたフィルターはZWO社の製品で3000円程度のようです。 Electric Sheep IR 850nmパスフィルター 1.25インチ http://www.electricsheep.co.jp/astroshop/?itemcode=zwoirp01 「IRパスフィルター」はいわゆる「シャープカットフィルター」の一種で(干渉フィルターではない)、比較的安価にアセテートタイプのものを購入可能です。富士フイルムからは40nm刻みで各種が販売されています。アマゾンなどで在庫があればすぐ買えますが、品切れもよくあるので詳細はご確認下さい。 富士フイルム・IRフィルター https://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/sheetfilter/ir.html まとめ 編集部にも、赤外撮影用に入手した富士のIRフィルター(IR72とIR86)の余りがあるので、いずれASI120MM Miniに装着して試してみようと思います。冬場などシーイングのよくないときや、ハンチング(ガイド信号に過剰反応して補正過多と逆補正を繰り返す)が大きい赤道儀の場合に効果を期待しています。結果が得られれば、レポートしたいと思います。編集部発信のオリジナルコンテンツ