小型軽量でありながら重量級機材が搭載可能、しかもバランスウェイトが不要。そんな夢のような「波動歯車装置(ハーモニックギア)」(*)を採用した赤道儀「CRUXシリーズ」が日本では天文ハウスTOMITA様から発売されています。

(*)ハーモニックドライブ®は、ハーモニック・ドライブ・システムズ社の登録商標です。本記事執筆時点ではCRUXシリーズはハーモニック・ドライブ・システムズ社製のハーモニックドライブ®を使用していましたので、当該名称を使用していましたが、現在では一部他社製のパーツを使用しています。このため、記事中の表記を「ハーモニックギア」と変更しました。(2020/3/31)

編集部では今回天文ハウスTOMITA様のご厚意で「CRUX170HD」を借用し使用することができました。以下、レビュー報告をお届けします。



【お知らせ】

☆☆☆☆CRUX赤道儀使ってみませんか?☆☆☆☆
https://y-tomita.blog.so-net.ne.jp/2018-07-05

天文ハウスTOMITA様では、2018年8月24日〜26日の「胎内星祭り」でCRUXの無料レンタルを受付中です。詳しくは上のリンクからどうぞ!

CRUXの概要

CRUX170HDで使用されているハーモニックドライブ®(赤経側)。ハーモニック・ドライブ・システムズ社製の「CSF-17-100-2LW」が使用されています。赤緯側は一つ小型の「CSF-14-100-2LW」。装着されているアリガタは別売です。

ハーモニックギアを採用

CRUXマウント(以下CRUXと表記します)の最大の特徴は、ウォームギアを使用して駆動する従来の赤道儀と違って「ハーモニックギア」を使用していることにあります。

ハーモニックギアは、独創的な機構を持った「減速ギア」で、ウォーム式のようにギアとホイルが「点」で接するのではなく2つのリングが「面」で接する構造になっています。このため、機械的な遊び=バックラッシュがほぼ皆無、摩擦によるロスが少なく小さなモーターで大きな駆動力が得られる、ウォームホイル・ギアと同様に大きな減速比が得られる、などの特徴があり、産業用ロボットなどで多く使用されています。

詳細は以下の天リフ過去記事をご参照ください。

ハーモニックドライブと赤道儀

シンプルな構造

CRUXの基本構造はとても単純。「ハーモニックギア」そのものが極軸であり赤緯軸になっていて、ウォームギアはもちろん、クランプもなければかみ合わせの調整機構もありません。「ハーモニックギア」というパーツだけで、回転軸とそのハウジング+ウオームホイル&ギアの役割を実現しているのです。

駆動にはステッピングモーターが使用され、そのままハーモニックギアに直結されています(*)。つまり駆動部分は量産部品を組み合わせただけ。基本的に調整の余地がほとんどない構造です。

(*)ステッピングモーター側の「ギアヘッド(減速ギア)」は介在していますが、従来の赤道儀によくある平ギアやベルトのようなウオームに接続するための減速機構は存在しません。

このことは完成した製品の品質のばらつきが発生しにくく、職人技で調整しなくても安定した高い品質が実現できることを意味します。

小型軽量でありながら圧倒的な堅牢さ

天文ハウスTOMITA・CRUXのHPより。 http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/products.html

CRUXマウントの堅牢性はそのままハーモニックギアという駆動機構の堅牢性でもあります。実際にCRUXを触ってみるとわかるのですが、まさにビクともしません。ガタは皆無で、一体成型された金属の塊のようです。

この剛性により「重くする」ことに頼らずに高い安定性が実現されています。今回使用した「CRUX170HD」の本体重量はわずか約4.7kg。筆者が現在メインで使っているSXP赤道儀はウェイトなしでも11kg。にもかかわらず、同じくらいの重量の機材を搭載することが可能になっています(*)。

(*)バランスウェイトを使用しない場合搭載重量10kgでSXP(最大搭載重量16kg)よりも小さいですが、ウェイトを使用すると18kgまで搭載可能でSXPを上回ります。

ただ、赤道儀の公称搭載重量はあまりあてにならないことは良く知られています。実際のところどうなのか。本当にこんな軽量な赤道儀で重い機材を高い精度でガイドできるかが一番気になるところでしょう。

詳細は以降の項で書きますが、本体重量わずか約4.7kgのCRUX170HDで、合計約10kgのFSQ106ED鏡筒システムを余裕でガイドすることができました。CRUXの公称搭載重量は誇大ではないと感じました。

バランスウェイトが不要

ベランダ撮影でもウェイトレス^^ ウェイトがないと組み立ても持ち出しも収納も楽。お気軽撮影がさらにお気軽に。

「時代はウェイトレス」CRUXのキャッチコピーですが、これもハーモニックギアを使用した赤道儀の画期的なところです。そもそもなぜバランスウェイトが必要だったかの議論は省略しますが(*)、実際に使ってみるとウェイトなしで使用できるのは実に軽快です。持ち運びが楽。組立が楽。ケーブルが干渉することも少ない。「絶対に必要だと思っていた重くてゴツいものが不要になる」という恩恵は使ってみて初めて実感できるものでした。

(*)①「クランプ」操作により粗動を行う赤道儀→クランプOFF時にカックンしないため。②摩擦の大きなウォームホイル・ギアによる駆動の場合→トルク不足による脱調を防ぐため。③機械部分のわずかな遊びをキャンセルするために「少しだけ東側荷重」の状態に調整するため の3つくらいが理由として考えられます。

高いオートガイド追従性と高速な自動導入

バックラッシュがほぼ皆無で摩擦による駆動ロスの少ないハーモニックギアは、レスポンス良くモーターの駆動力を望遠鏡に伝えることができます。その結果、オートガイドの信号を素早く反映させることができ高い追尾精度が得られるわけです。

ベランダでファーストライトした際のガイドグラフ。RMSは0.94秒角、最大誤差は約±2秒角。

また、自動導入が一般化した今では「ゆっくりと正確」に駆動するだけではなく「高速に正確に」駆動できる必要もあります。この2つを高いレベルで両立する上では、ハーモニックギアはウォーム式と比べて有利といえます(*)。

(*)ウォームギア+ホイル駆動の場合、ギアの摩擦がネックになり導入速度を上げすぎると「脱調(空回り)」を起こす場合がありますが、ハーモニックギアは摩擦による駆動ロスが小さいため、最高で1000倍速程度までなら十分実用になるようです。

ハーモニックギア赤道儀を実現した技術

PECとオートガイドをともにOFFにしたときのガイドグラフ(右)。振り切れていますが、最大20秒角ほどの周期誤差がありました。

元々ハーモニックギアは産業用ロボットのような高速動作が主な用途であり、「極めてゆっくりと、しかも正確に駆動する」という赤道儀のような用途はあまり想定されていませんでした。実際、ハーモニックギアには20秒角程度の周期的な誤差が存在します。現行の赤道儀ではビクセンAXD2のように公称誤差±2.8秒角を謳う製品もありますから、このままでは決して高精度とはいえません。

CRUXでは、この弱点を「PEC」という機能を実装することで解決しています。オートガイド状態で学習機能をONにすることで周期誤差を自動的に学習し記憶することができます(*)。

(*)ビクセンAXD/AXD2/AXJ赤道儀では工場出荷状態でPECデータがビルトインされています。同じビクセンSXP赤道儀では、手動でガイド補正をすることでそのデータを学習させることが可能です。

価格

多くのメリットのあるハーモニックギアですが、もちろん欠点もあります。最大の課題は非常に高価であること。「ハーモニックドライブ」という製品は実は「日本ハーモニックドライブ社」の登録商標。事実上の一社寡占で慢性的な品不足状態にあり、単価が高止まりしています。このせいもあってCRUX170HDの場合、販売価格は税抜70万円。まあ安くはないですね。ビクセンSXPやタカハシのEM200よりも高価で、ビクセンAXJと同じくらいです。

しかし、公称の最大搭載重量ベースで比較すれば、価格差はかなり縮まります。この価格をどう評価するのかは、他の製品と比較して圧倒的に小型軽量であるというCRUXの特徴をどう評価するか次第といえましょう。

CRUXを使用してみた

FSQ106EDを搭載して試写中。搭載物の総重量は約10kg(実測)、ほぼ搭載上限MAXです。

実際にCRUX170HDを使用してみました。

システム構成

鏡筒はFSQ106ED。補正レンズ無しの焦点距離530mmです。ガイド鏡はGT-40、ガイドカメラはASI294MC(*)。PHD2を使用してオートガイドしています。三脚は標準推奨のK-ASTECのカーボン三脚PTP-C22です。

三脚と架台を合わせた重量はたったの6.7kg。この構成でホントにもろもろ込みで約10キロのFSQ106EDが使えるのか?

実写作例

FSQ106ED F5 530mm EOS6D(SEO-SP4) ISO3200 RGB 60sec*45,ISO400 15sec*20 Hα 5min*10 (Rに比較明) OIII 5min*7(Bに比較明) DSS Drizzle,RGBはFlatAidProで飽和復元合成

実写作例です。RGBにナローバンドのAOをブレンドしたものです。露出時間は最大5分。何の問題もありませんでした。むしろ余裕です。

5分露出、30秒露出の各コマの拡大画像。歩留まりはほぼ100%です。何の不安もなく・大して何も考えることなく無事ガイドが成功しました。

追尾精度の考察

今回は短い期間での使用でしたが、ガイドグラフは上のように非常に安定したものとなりました。最大でも±2秒角に収まっています。4.7kgの赤道儀に10kgの機材を搭載した結果と考えると、これは素晴らしい結果です。

このグラフはPEC学習をONにした状態でしたが、今回使用した環境ではオートガイド時のPECのON/OFFで顕著な差を確認することができませんでした。ハーモニックギアはオートガイドの追従性が高いため、PEC学習を行わない場合でも十分な精度が得られる理屈ですが、より安定したガイドを行う意味でPEC学習は推奨です(*)。

(*)より正確な検証によると、PECを使用しピリオディックエラーを「先回り補正」することで、オートガイド時でもガイドエラーがより少なくなることが報告されているようです。

左側と右側の大きなぶれが風による影響。

外的要因によって、この精度が出ないケースもあります。上のガイドグラフは別の日ですが、この日は断続的に強めの風(風速3m〜5m程度)が吹くことがあったため、±6秒角程度の揺れが発生しています。ただし、風によるガイドエラーがすぐに収束していることは注目に値します(*)。

(*)一般的に、突発的なゆれが発生した際にオートガイドが安定するまでに時間を要する場合があります。

PEC学習の方法

作例では、撮影の前にPEC学習を行っています。PEC学習の方法は簡単です。オートガイドしている状態で、コントローラのメニューから「PEC学習開始」を選んで放置するだけ。25分ほどで学習が終わり、自動的にPECモードに移行します。

CRUXを使用する上での注意

軽量でありながら高い精度をもつCRUXですが、使用する上では長焦点のガイド撮影における一般的な注意に加えて、これまでの赤道儀と異なる注意が必要です。以下にそれらをまとめました。

搭載最大重量

ウェイトのあるなしにかかわらず、従来の赤道儀以上に搭載最大重量を超えないことに注意が必要です。ハーモニックギアの高い保持力により、CRUXではクランプなしでもオフバランス(バランスがとれていない状態)の運用が可能ですが、搭載最大重量を超えると保持力が搭載物に負けてじわじわと動き出します。

特に注意が必要なのは、電源OFF状態では保持力が低下し赤道儀が動き出しやすくなります(*)。架台を設置したら、鏡筒を装着する前に電源をONにし、鏡筒を外してから電源をOFFにすること。この手順は必ず守る必要があります。

(*)「電源OFF時に動き出さない」条件で最大搭載重量が設定されているようです。

また、運用中の不測の電源断(コードが外れる、電池切れ、など)によっても鏡筒が動き出す可能性があります。使用する機材が搭載重量を超えていないか、あらかじめ機材を装着して検証しておくことを推奨します。

天文ハウスTOMITA・CRUXのHPより。 http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/products.html

また、搭載重量に不安がある場合は、数キロ程度であってもウェイトを足すことをおすすめします。バランスを取るほどの重いウェイトは必要ありません。「足し」程度に追加するだけで「勝手に動き出す」リスクは大幅に減ります。

なお、ウェイトシャフトは18mm径。タカハシ製ウェイトと互換になっています。

 

 

クランプレス

CRUXはクランプレスです。クランプがないので、電源を入れない限り動かすことができません。しかし、電源OFF状態で力一杯軸を回せば動かすこともできますが、これは禁止です。これをやると、コントローラに記憶している赤道儀の状態、PEC学習のデータが狂ってしまいます。

逆に、無理に各軸を動かしさえしなければ、赤道儀の状態は保持され続けます。理想的には極軸さえ合わせれば、電源ON時には以前の状態に復帰しすぐ使えるのです(*)。



(*)正確な自動導入と追尾を行うためにはアライメントを行うことを推奨します。

「無理に動かしさえしなければ」という条件がつきますが「クランプレス」は「エンコーダー付き」と実質的に同じ意味を持つことになるのです。

電源OFF前には「PARK」する

まず結論だけを言うと、いきなり電源断をしてはいけません。ハーモニックギアはステッピングモーターでデジタルに駆動されているのですが、細かくいうと「アナログ」に動作している部分(マイクロステップ)があります。いきなり電源断すると、この「アナログ」な状態が保持されず、PECのより正確な動作(*)が失われる可能性があります。

(*)CRUXのコントローラーでは、マイクロステップ駆動の周期的な揺れもPECに学習されているのですが、これを正確に適用するためにはマイクロステップの状態も次回に再現しなければなりません。このため、電源を切る前の「Parking」操作の際に、マイクロステップの状態を原点に戻すという機能が実装されています。

このため、電源をいきなり切るのではなく「PARK」という操作を行って赤道儀の状態を保存してから、電源断する必要があります。

オフバランス運用のリスク

ウェイトなしの場合、一番重心が三脚中心からずれるのは天頂を向いたとき。この例では筒側の三脚2本の先を結んだ線よりも重心が内側にありますが、親子亀にする場合は注意が必要です。

「ウェイトレス」で運用する以上、赤道儀は常にオフバランス状態(バランスが崩れた状態)で、重心が三脚の直下にないことになります。望遠鏡の角度と三脚・ピラーの開脚度によっては転倒のリスクがあります

姿勢変化や強風で倒れてしまわないように「一番バランスが崩れた状態でどの程度転倒のリスクがあるか」を事前に確認しておくことを推奨します。

「オートガイドしないリスク」は従来の赤道儀と同じ

PEC機能があるからといって、ノータッチでの長時間ガイドが保証されるわけではありません。特に、オフバランスで運用する関係上、望遠鏡の姿勢変化に伴う重心移動は通常の赤道儀よりも大きなものになります。長焦点で長時間露出するような場合は従来の赤道儀同様、オートガイドが必要なものと考えるべきでしょう。

使い勝手と各部の詳細

CRUXの製品の外観の詳細は、CRUXのホームページにかなり詳しく掲載されています。ぜひそちらも参照いただきたいのですが、本記事では補足的な内容として実使用時のコメントを含めご紹介していきます。

極軸回り

CRUXには極軸望遠鏡は内蔵されていません。極軸先端にはPoleMaster用のネジが切ってあって、それで合わせる想定になっています。ちなみに筆者はPoleMasterは今回初体験でした。若干戸惑いつつも?それなりにすんなり使えましたので、このクラスの赤道儀を手に入れようとする方にとっては何の問題もないでしょう。ただし、Windowsの動作するパソコンかタブレットが必須になります。

TCS(コントローラ)

小さな液晶画面を持ったハンドサイズのコントローラです。ビクセンのスターブックテンのように星図が出るわけではありませんが、とりあえず自動導入には十分な機能を備えています。

操作は昔のiPodのような円形のパッドで行うのですが、この操作には好みもありますが若干慣れが必要。より直感的に自動導入したければ、BlueToothで接続してステラナビのようなPCソフトで行う方が楽でしょう。

三脚

極軸支持体の底部(左)。右は、PTP-C22三脚の三脚アダプタを取り付けたところ。

CRUX170HDの場合、推奨の三脚はK-ASTECのPTP-C22です。CRUX本体とは3/8インチ太ネジ接続。複数点止めでなくて大丈夫かと思いましたが、FSQ106EDを搭載しても強度的な不安は全くありませんでした。

PTP-C22の場合、開脚度が大きく設置面積が広いため、よほど長い親子亀をしない限りは転倒の心配は少ないでしょう(三脚を最大に伸ばした場合。縮めて使うのは若干危険です)。

PTP-C22の石突きは交換式になっていますが、実戦運用するときはスパイク型一択です。ゴム型にすると、ゴムの弾性が振動の元になり安定しません。

極軸支持体

上下、左右の微動が付いています。動作はスムーズで特に問題はないのですが、搭載機材が軽量な場合は上下の微動はクランプ(極軸支持体の右側)を緩める必要があります。

一般的なカーボン三脚と同様に、CRUXは「剛性はあるが重量が軽い」ため、搭載機材が軽すぎると逆に不安定になります。軽量機材を搭載するときは、三脚にストーンバッグを付けるなどして自重を増やすことをオススメします。

架頭部

M8、35mm間隔のタカハシ規格のネジが4本です。大きなアリガタを装着すると専用ケースに収納できないので毎回脱着することになりますが、この操作も「電源ON」で行うことを推奨します。電源OFFだとネジを強く締める・緩めるときに、赤緯軸・赤経軸を回してしまう可能性があるからです。

赤緯軸

赤緯軸の先端にはウェイト用のM18のネジ穴と、DECのケーブルコネクタが付いています。気持ちとしてはここにも機材を搭載したくなりますが、赤緯側の微動はこの軸には作用しないため、基本的に機材を装着するものではないことに注意が必要です。(そもそもコネクタが出っ張っているので、機材を安定して装着するスペースはありません)

収納ケース

プラ製の堅牢なケースが付属します。市販の赤道儀はまともな専用ケースが付属する製品が少なく、購入後にあれこれ工夫が必要な場合が多いのですが、このケースはイケています。最初に見るとその小ささと軽さに驚くはず。また、ウェイトがいらないことがどれほど幸せなのかも実感することでしょう。

どんな用途に向いているか

CRUXの最大のメリットは機材の軽量化。CRUXにリプレースすることで、遠征に持ち運ぶ機材の重量を大幅に減らすことが可能になります。

今回試用したCRUX170HDの場合、SXPに搭載していたバランスウェイト分くらいの重量しかありません。3回ほど遠征に行っただけですが、正直いってCRUX欲しい・・と切実に思いました・・・

年齢、コメントは編集部が作成したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

上の画像は思い切りベタに、軽量化のメリットを表したイメージ画像です。赤道儀の重量が半分以下になると、どんな世界が実現するのか。このことをどう評価し活用するかが、CRUXの全てではないでしょうか。

他に考えられる用途に海外遠征があります。飛行機の重量制限の範囲でできるだけ多くの機材を、長焦点を持ち込みたい。そんなニーズにもCRUXはマッチしているのではないでしょうか。

CRUXのバリエーション

CRUXには搭載重量別に4つのバリエーションがあります。詳細は各機種の項のリンク先をご参照ください。

※パーツ構成やカメラの重量によって搭載重量は変動します。ご自分の機材の重量をよくご確認ください。

CRUX170HD
http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux200hda.html

今回試用したCRUX。重量4.7kg、ウェイトなしで10kg、3キロのウェイトで18kgまで搭載可能。FSQ106EDならウェイトなしでもOKです(カメラ・ガイド鏡などの重量によっては搭載重量を微妙に超えることもあります)。

CRUX200HDA
http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux200hda.html

170HDの1クラス上のバージョン。本体重量11.5kg、EM200よりも4.5kg軽く、搭載重量はウェイトなしで18kg、5kgのウェイトを付ければ35kg。これはビクセンAXDやタカハシNJP級です。CCA250やε130+180のツインの搭載が可能です。

CRUX320HD
http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux320.html

CRUXの最上位バージョン。本体重量20kg。搭載重量はウェイトなしで20kg、5lgのウェイトを付ければ45kg。EM500級の搭載重量にもかかわらず、本体重量はその半分以下。

CRUX-mini
http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/cruxmini.html

CRUXの最軽量バージョン。本体重量約2.5kg、搭載重量はウェイトなしで3.5kg。海外遠征向け。

CRUXを検討中の方に

CRUXはいわゆる「初物」の製品です。世の中全体の評価はまだしっかり固まった状態ではありません。そんな中で重要なのは、すでに実際に使用しているユーザの声。

Facebookグループ・CRUXコミュニティ
https://www.facebook.com/groups/165687264123804/

このFacebookグループには、日本国内のCRUXユーザー、開発者のIn-Joon Hwang氏、販売代理店である天文ハウスTOMITA様も参加されています。不安な点があれば、ここで質問してみるとよいでしょう。

天文ハウスTOMITA・CRUXホームページ
http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/index.html

CRUXの国内代理店の天文ハウスTOMITAさんのページ。製品の詳細仕様などが詳しく書かれています。購入を検討する前に、まず一読されることをオススメします。

まとめ

いかがでしたか?
軽量でありながら高い剛性・搭載荷重・オートガイド追従性を実現したCRUXは、今後の赤道儀の新しい可能性を拓いていくものだと感じました。

実は「ハーモニックドライブ」が実用化されたのは50年も前。なぜ今、ようやくハーモニックギアを搭載した赤道儀が一般に向けて販売されるようになったのでしょうか。従来の赤道儀とガチ勝負するとどうなのか。そのことを語るには筆者にはやや荷が重く今回のレビューでは触れていません。

ハーモニックギアは赤道儀においてはまだまだ新しい技術です。今回試用した範囲では十分製品としてこなれてきているとは実感できましたが、今後ユーザーが増え様々な使い方が実践される中で改良されてくる部分も出てくることでしょう。

その意味では全面的に「ハーモニックは凄い」とマンセー(万歳)するものではありません。この製品を使いこなすには、これまでの赤道儀にはなかった注意が必要ですし、臨機応変に対応するスキルも必要になることもあるでしょう。重量さえいとわなければ、やはり現状の最高精度の赤道儀はNJPなのかもしれません。

ただ、ハーモニックギアを使用した赤道儀を活用することで、圧倒的な機材の軽量化が実現できることはまぎれもない事実です。これについては、革命に近いと断言できます。重い機材を毎回運ぶ体力に限界を感じていたり、海外遠征で機材重量が限られるような場合には唯一に近い選択肢になるに違いありません。

最後に、このような斬新なコンセプトを製品として実現された開発者のIn-Joon Hwang氏、製品の評価と国内での販売に尽力されている天文ハウスTOMITA様、K-ASTEC様、CRUXを実際に使用し様々な有益なフィードバックを返されている現行ユーザーの皆様に敬意を表します。


・本記事は天文ハウスTOMITA様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。

・記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。

・製品の購入およびお問い合わせは天文ハウスTOMITA様宛にお願いいたします。

・本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。

・特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。

・記事中の製品仕様および価格は執筆時(2018年8月)のものです。

・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。 https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1024x683.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-150x150.jpg編集部レビューマウントマウント小型軽量でありながら重量級機材が搭載可能、しかもバランスウェイトが不要。そんな夢のような「波動歯車装置(ハーモニックギア)」(*)を採用した赤道儀「CRUXシリーズ」が日本では天文ハウスTOMITA様から発売されています。 (*)ハーモニックドライブ®は、ハーモニック・ドライブ・システムズ社の登録商標です。本記事執筆時点ではCRUXシリーズはハーモニック・ドライブ・システムズ社製のハーモニックドライブ®を使用していましたので、当該名称を使用していましたが、現在では一部他社製のパーツを使用しています。このため、記事中の表記を「ハーモニックギア」と変更しました。(2020/3/31) 編集部では今回天文ハウスTOMITA様のご厚意で「CRUX170HD」を借用し使用することができました。以下、レビュー報告をお届けします。 【お知らせ】 ☆☆☆☆CRUX赤道儀使ってみませんか?☆☆☆☆ https://y-tomita.blog.so-net.ne.jp/2018-07-05 天文ハウスTOMITA様では、2018年8月24日〜26日の「胎内星祭り」でCRUXの無料レンタルを受付中です。詳しくは上のリンクからどうぞ! CRUXの概要 ハーモニックギアを採用 CRUXマウント(以下CRUXと表記します)の最大の特徴は、ウォームギアを使用して駆動する従来の赤道儀と違って「ハーモニックギア」を使用していることにあります。 ハーモニックギアは、独創的な機構を持った「減速ギア」で、ウォーム式のようにギアとホイルが「点」で接するのではなく2つのリングが「面」で接する構造になっています。このため、機械的な遊び=バックラッシュがほぼ皆無、摩擦によるロスが少なく小さなモーターで大きな駆動力が得られる、ウォームホイル・ギアと同様に大きな減速比が得られる、などの特徴があり、産業用ロボットなどで多く使用されています。 詳細は以下の天リフ過去記事をご参照ください。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2017/04/14/219/ シンプルな構造 CRUXの基本構造はとても単純。「ハーモニックギア」そのものが極軸であり赤緯軸になっていて、ウォームギアはもちろん、クランプもなければかみ合わせの調整機構もありません。「ハーモニックギア」というパーツだけで、回転軸とそのハウジング+ウオームホイル&ギアの役割を実現しているのです。 駆動にはステッピングモーターが使用され、そのままハーモニックギアに直結されています(*)。つまり駆動部分は量産部品を組み合わせただけ。基本的に調整の余地がほとんどない構造です。 (*)ステッピングモーター側の「ギアヘッド(減速ギア)」は介在していますが、従来の赤道儀によくある平ギアやベルトのようなウオームに接続するための減速機構は存在しません。 このことは完成した製品の品質のばらつきが発生しにくく、職人技で調整しなくても安定した高い品質が実現できることを意味します。 小型軽量でありながら圧倒的な堅牢さ CRUXマウントの堅牢性はそのままハーモニックギアという駆動機構の堅牢性でもあります。実際にCRUXを触ってみるとわかるのですが、まさにビクともしません。ガタは皆無で、一体成型された金属の塊のようです。 この剛性により「重くする」ことに頼らずに高い安定性が実現されています。今回使用した「CRUX170HD」の本体重量はわずか約4.7kg。筆者が現在メインで使っているSXP赤道儀はウェイトなしでも11kg。にもかかわらず、同じくらいの重量の機材を搭載することが可能になっています(*)。 (*)バランスウェイトを使用しない場合搭載重量10kgでSXP(最大搭載重量16kg)よりも小さいですが、ウェイトを使用すると18kgまで搭載可能でSXPを上回ります。 ただ、赤道儀の公称搭載重量はあまりあてにならないことは良く知られています。実際のところどうなのか。本当にこんな軽量な赤道儀で重い機材を高い精度でガイドできるかが一番気になるところでしょう。 詳細は以降の項で書きますが、本体重量わずか約4.7kgのCRUX170HDで、合計約10kgのFSQ106ED鏡筒システムを余裕でガイドすることができました。CRUXの公称搭載重量は誇大ではないと感じました。 バランスウェイトが不要 「時代はウェイトレス」CRUXのキャッチコピーですが、これもハーモニックギアを使用した赤道儀の画期的なところです。そもそもなぜバランスウェイトが必要だったかの議論は省略しますが(*)、実際に使ってみるとウェイトなしで使用できるのは実に軽快です。持ち運びが楽。組立が楽。ケーブルが干渉することも少ない。「絶対に必要だと思っていた重くてゴツいものが不要になる」という恩恵は使ってみて初めて実感できるものでした。 (*)①「クランプ」操作により粗動を行う赤道儀→クランプOFF時にカックンしないため。②摩擦の大きなウォームホイル・ギアによる駆動の場合→トルク不足による脱調を防ぐため。③機械部分のわずかな遊びをキャンセルするために「少しだけ東側荷重」の状態に調整するため の3つくらいが理由として考えられます。 高いオートガイド追従性と高速な自動導入 バックラッシュがほぼ皆無で摩擦による駆動ロスの少ないハーモニックギアは、レスポンス良くモーターの駆動力を望遠鏡に伝えることができます。その結果、オートガイドの信号を素早く反映させることができ高い追尾精度が得られるわけです。 また、自動導入が一般化した今では「ゆっくりと正確」に駆動するだけではなく「高速に正確に」駆動できる必要もあります。この2つを高いレベルで両立する上では、ハーモニックギアはウォーム式と比べて有利といえます(*)。 (*)ウォームギア+ホイル駆動の場合、ギアの摩擦がネックになり導入速度を上げすぎると「脱調(空回り)」を起こす場合がありますが、ハーモニックギアは摩擦による駆動ロスが小さいため、最高で1000倍速程度までなら十分実用になるようです。 ハーモニックギア赤道儀を実現した技術 元々ハーモニックギアは産業用ロボットのような高速動作が主な用途であり、「極めてゆっくりと、しかも正確に駆動する」という赤道儀のような用途はあまり想定されていませんでした。実際、ハーモニックギアには20秒角程度の周期的な誤差が存在します。現行の赤道儀ではビクセンAXD2のように公称誤差±2.8秒角を謳う製品もありますから、このままでは決して高精度とはいえません。 CRUXでは、この弱点を「PEC」という機能を実装することで解決しています。オートガイド状態で学習機能をONにすることで周期誤差を自動的に学習し記憶することができます(*)。 (*)ビクセンAXD/AXD2/AXJ赤道儀では工場出荷状態でPECデータがビルトインされています。同じビクセンSXP赤道儀では、手動でガイド補正をすることでそのデータを学習させることが可能です。 価格 多くのメリットのあるハーモニックギアですが、もちろん欠点もあります。最大の課題は非常に高価であること。「ハーモニックドライブ」という製品は実は「日本ハーモニックドライブ社」の登録商標。事実上の一社寡占で慢性的な品不足状態にあり、単価が高止まりしています。このせいもあってCRUX170HDの場合、販売価格は税抜70万円。まあ安くはないですね。ビクセンSXPやタカハシのEM200よりも高価で、ビクセンAXJと同じくらいです。 しかし、公称の最大搭載重量ベースで比較すれば、価格差はかなり縮まります。この価格をどう評価するのかは、他の製品と比較して圧倒的に小型軽量であるというCRUXの特徴をどう評価するか次第といえましょう。 CRUXを使用してみた 実際にCRUX170HDを使用してみました。 システム構成 鏡筒はFSQ106ED。補正レンズ無しの焦点距離530mmです。ガイド鏡はGT-40、ガイドカメラはASI294MC(*)。PHD2を使用してオートガイドしています。三脚は標準推奨のK-ASTECのカーボン三脚PTP-C22です。 三脚と架台を合わせた重量はたったの6.7kg。この構成でホントにもろもろ込みで約10キロのFSQ106EDが使えるのか? 実写作例 実写作例です。RGBにナローバンドのAOをブレンドしたものです。露出時間は最大5分。何の問題もありませんでした。むしろ余裕です。 5分露出、30秒露出の各コマの拡大画像。歩留まりはほぼ100%です。何の不安もなく・大して何も考えることなく無事ガイドが成功しました。 追尾精度の考察 今回は短い期間での使用でしたが、ガイドグラフは上のように非常に安定したものとなりました。最大でも±2秒角に収まっています。4.7kgの赤道儀に10kgの機材を搭載した結果と考えると、これは素晴らしい結果です。 このグラフはPEC学習をONにした状態でしたが、今回使用した環境ではオートガイド時のPECのON/OFFで顕著な差を確認することができませんでした。ハーモニックギアはオートガイドの追従性が高いため、PEC学習を行わない場合でも十分な精度が得られる理屈ですが、より安定したガイドを行う意味でPEC学習は推奨です(*)。 (*)より正確な検証によると、PECを使用しピリオディックエラーを「先回り補正」することで、オートガイド時でもガイドエラーがより少なくなることが報告されているようです。 外的要因によって、この精度が出ないケースもあります。上のガイドグラフは別の日ですが、この日は断続的に強めの風(風速3m〜5m程度)が吹くことがあったため、±6秒角程度の揺れが発生しています。ただし、風によるガイドエラーがすぐに収束していることは注目に値します(*)。 (*)一般的に、突発的なゆれが発生した際にオートガイドが安定するまでに時間を要する場合があります。 PEC学習の方法 作例では、撮影の前にPEC学習を行っています。PEC学習の方法は簡単です。オートガイドしている状態で、コントローラのメニューから「PEC学習開始」を選んで放置するだけ。25分ほどで学習が終わり、自動的にPECモードに移行します。 CRUXを使用する上での注意 軽量でありながら高い精度をもつCRUXですが、使用する上では長焦点のガイド撮影における一般的な注意に加えて、これまでの赤道儀と異なる注意が必要です。以下にそれらをまとめました。 搭載最大重量 ウェイトのあるなしにかかわらず、従来の赤道儀以上に搭載最大重量を超えないことに注意が必要です。ハーモニックギアの高い保持力により、CRUXではクランプなしでもオフバランス(バランスがとれていない状態)の運用が可能ですが、搭載最大重量を超えると保持力が搭載物に負けてじわじわと動き出します。 特に注意が必要なのは、電源OFF状態では保持力が低下し赤道儀が動き出しやすくなります(*)。架台を設置したら、鏡筒を装着する前に電源をONにし、鏡筒を外してから電源をOFFにすること。この手順は必ず守る必要があります。 (*)「電源OFF時に動き出さない」条件で最大搭載重量が設定されているようです。 また、運用中の不測の電源断(コードが外れる、電池切れ、など)によっても鏡筒が動き出す可能性があります。使用する機材が搭載重量を超えていないか、あらかじめ機材を装着して検証しておくことを推奨します。 また、搭載重量に不安がある場合は、数キロ程度であってもウェイトを足すことをおすすめします。バランスを取るほどの重いウェイトは必要ありません。「足し」程度に追加するだけで「勝手に動き出す」リスクは大幅に減ります。 なお、ウェイトシャフトは18mm径。タカハシ製ウェイトと互換になっています。     クランプレス CRUXはクランプレスです。クランプがないので、電源を入れない限り動かすことができません。しかし、電源OFF状態で力一杯軸を回せば動かすこともできますが、これは禁止です。これをやると、コントローラに記憶している赤道儀の状態、PEC学習のデータが狂ってしまいます。 逆に、無理に各軸を動かしさえしなければ、赤道儀の状態は保持され続けます。理想的には極軸さえ合わせれば、電源ON時には以前の状態に復帰しすぐ使えるのです(*)。 (*)正確な自動導入と追尾を行うためにはアライメントを行うことを推奨します。 「無理に動かしさえしなければ」という条件がつきますが「クランプレス」は「エンコーダー付き」と実質的に同じ意味を持つことになるのです。 電源OFF前には「PARK」する まず結論だけを言うと、いきなり電源断をしてはいけません。ハーモニックギアはステッピングモーターでデジタルに駆動されているのですが、細かくいうと「アナログ」に動作している部分(マイクロステップ)があります。いきなり電源断すると、この「アナログ」な状態が保持されず、PECのより正確な動作(*)が失われる可能性があります。 (*)CRUXのコントローラーでは、マイクロステップ駆動の周期的な揺れもPECに学習されているのですが、これを正確に適用するためにはマイクロステップの状態も次回に再現しなければなりません。このため、電源を切る前の「Parking」操作の際に、マイクロステップの状態を原点に戻すという機能が実装されています。 このため、電源をいきなり切るのではなく「PARK」という操作を行って赤道儀の状態を保存してから、電源断する必要があります。 オフバランス運用のリスク 「ウェイトレス」で運用する以上、赤道儀は常にオフバランス状態(バランスが崩れた状態)で、重心が三脚の直下にないことになります。望遠鏡の角度と三脚・ピラーの開脚度によっては転倒のリスクがあります。 姿勢変化や強風で倒れてしまわないように「一番バランスが崩れた状態でどの程度転倒のリスクがあるか」を事前に確認しておくことを推奨します。 「オートガイドしないリスク」は従来の赤道儀と同じ PEC機能があるからといって、ノータッチでの長時間ガイドが保証されるわけではありません。特に、オフバランスで運用する関係上、望遠鏡の姿勢変化に伴う重心移動は通常の赤道儀よりも大きなものになります。長焦点で長時間露出するような場合は従来の赤道儀同様、オートガイドが必要なものと考えるべきでしょう。 使い勝手と各部の詳細 CRUXの製品の外観の詳細は、CRUXのホームページにかなり詳しく掲載されています。ぜひそちらも参照いただきたいのですが、本記事では補足的な内容として実使用時のコメントを含めご紹介していきます。 極軸回り CRUXには極軸望遠鏡は内蔵されていません。極軸先端にはPoleMaster用のネジが切ってあって、それで合わせる想定になっています。ちなみに筆者はPoleMasterは今回初体験でした。若干戸惑いつつも?それなりにすんなり使えましたので、このクラスの赤道儀を手に入れようとする方にとっては何の問題もないでしょう。ただし、Windowsの動作するパソコンかタブレットが必須になります。 TCS(コントローラ) 小さな液晶画面を持ったハンドサイズのコントローラです。ビクセンのスターブックテンのように星図が出るわけではありませんが、とりあえず自動導入には十分な機能を備えています。 操作は昔のiPodのような円形のパッドで行うのですが、この操作には好みもありますが若干慣れが必要。より直感的に自動導入したければ、BlueToothで接続してステラナビのようなPCソフトで行う方が楽でしょう。 三脚 CRUX170HDの場合、推奨の三脚はK-ASTECのPTP-C22です。CRUX本体とは3/8インチ太ネジ接続。複数点止めでなくて大丈夫かと思いましたが、FSQ106EDを搭載しても強度的な不安は全くありませんでした。 PTP-C22の場合、開脚度が大きく設置面積が広いため、よほど長い親子亀をしない限りは転倒の心配は少ないでしょう(三脚を最大に伸ばした場合。縮めて使うのは若干危険です)。 PTP-C22の石突きは交換式になっていますが、実戦運用するときはスパイク型一択です。ゴム型にすると、ゴムの弾性が振動の元になり安定しません。 極軸支持体 上下、左右の微動が付いています。動作はスムーズで特に問題はないのですが、搭載機材が軽量な場合は上下の微動はクランプ(極軸支持体の右側)を緩める必要があります。 一般的なカーボン三脚と同様に、CRUXは「剛性はあるが重量が軽い」ため、搭載機材が軽すぎると逆に不安定になります。軽量機材を搭載するときは、三脚にストーンバッグを付けるなどして自重を増やすことをオススメします。 架頭部 M8、35mm間隔のタカハシ規格のネジが4本です。大きなアリガタを装着すると専用ケースに収納できないので毎回脱着することになりますが、この操作も「電源ON」で行うことを推奨します。電源OFFだとネジを強く締める・緩めるときに、赤緯軸・赤経軸を回してしまう可能性があるからです。 赤緯軸 赤緯軸の先端にはウェイト用のM18のネジ穴と、DECのケーブルコネクタが付いています。気持ちとしてはここにも機材を搭載したくなりますが、赤緯側の微動はこの軸には作用しないため、基本的に機材を装着するものではないことに注意が必要です。(そもそもコネクタが出っ張っているので、機材を安定して装着するスペースはありません) 収納ケース プラ製の堅牢なケースが付属します。市販の赤道儀はまともな専用ケースが付属する製品が少なく、購入後にあれこれ工夫が必要な場合が多いのですが、このケースはイケています。最初に見るとその小ささと軽さに驚くはず。また、ウェイトがいらないことがどれほど幸せなのかも実感することでしょう。 どんな用途に向いているか CRUXの最大のメリットは機材の軽量化。CRUXにリプレースすることで、遠征に持ち運ぶ機材の重量を大幅に減らすことが可能になります。 今回試用したCRUX170HDの場合、SXPに搭載していたバランスウェイト分くらいの重量しかありません。3回ほど遠征に行っただけですが、正直いってCRUX欲しい・・と切実に思いました・・・ 上の画像は思い切りベタに、軽量化のメリットを表したイメージ画像です。赤道儀の重量が半分以下になると、どんな世界が実現するのか。このことをどう評価し活用するかが、CRUXの全てではないでしょうか。 他に考えられる用途に海外遠征があります。飛行機の重量制限の範囲でできるだけ多くの機材を、長焦点を持ち込みたい。そんなニーズにもCRUXはマッチしているのではないでしょうか。 CRUXのバリエーション CRUXには搭載重量別に4つのバリエーションがあります。詳細は各機種の項のリンク先をご参照ください。 ※パーツ構成やカメラの重量によって搭載重量は変動します。ご自分の機材の重量をよくご確認ください。 CRUX170HD http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux200hda.html 今回試用したCRUX。重量4.7kg、ウェイトなしで10kg、3キロのウェイトで18kgまで搭載可能。FSQ106EDならウェイトなしでもOKです(カメラ・ガイド鏡などの重量によっては搭載重量を微妙に超えることもあります)。 CRUX200HDA http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux200hda.html 170HDの1クラス上のバージョン。本体重量11.5kg、EM200よりも4.5kg軽く、搭載重量はウェイトなしで18kg、5kgのウェイトを付ければ35kg。これはビクセンAXDやタカハシNJP級です。CCA250やε130+180のツインの搭載が可能です。 CRUX320HD http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/crux320.html CRUXの最上位バージョン。本体重量20kg。搭載重量はウェイトなしで20kg、5lgのウェイトを付ければ45kg。EM500級の搭載重量にもかかわらず、本体重量はその半分以下。 CRUX-mini http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/cruxmini.html CRUXの最軽量バージョン。本体重量約2.5kg、搭載重量はウェイトなしで3.5kg。海外遠征向け。 CRUXを検討中の方に CRUXはいわゆる「初物」の製品です。世の中全体の評価はまだしっかり固まった状態ではありません。そんな中で重要なのは、すでに実際に使用しているユーザの声。 Facebookグループ・CRUXコミュニティ https://www.facebook.com/groups/165687264123804/ このFacebookグループには、日本国内のCRUXユーザー、開発者のIn-Joon Hwang氏、販売代理店である天文ハウスTOMITA様も参加されています。不安な点があれば、ここで質問してみるとよいでしょう。 天文ハウスTOMITA・CRUXホームページ http://www.y-tomita.co.jp/hobym_obs/index.html CRUXの国内代理店の天文ハウスTOMITAさんのページ。製品の詳細仕様などが詳しく書かれています。購入を検討する前に、まず一読されることをオススメします。 まとめ いかがでしたか? 軽量でありながら高い剛性・搭載荷重・オートガイド追従性を実現したCRUXは、今後の赤道儀の新しい可能性を拓いていくものだと感じました。 実は「ハーモニックドライブ」が実用化されたのは50年も前。なぜ今、ようやくハーモニックギアを搭載した赤道儀が一般に向けて販売されるようになったのでしょうか。従来の赤道儀とガチ勝負するとどうなのか。そのことを語るには筆者にはやや荷が重く今回のレビューでは触れていません。 ハーモニックギアは赤道儀においてはまだまだ新しい技術です。今回試用した範囲では十分製品としてこなれてきているとは実感できましたが、今後ユーザーが増え様々な使い方が実践される中で改良されてくる部分も出てくることでしょう。 その意味では全面的に「ハーモニックは凄い」とマンセー(万歳)するものではありません。この製品を使いこなすには、これまでの赤道儀にはなかった注意が必要ですし、臨機応変に対応するスキルも必要になることもあるでしょう。重量さえいとわなければ、やはり現状の最高精度の赤道儀はNJPなのかもしれません。 ただ、ハーモニックギアを使用した赤道儀を活用することで、圧倒的な機材の軽量化が実現できることはまぎれもない事実です。これについては、革命に近いと断言できます。重い機材を毎回運ぶ体力に限界を感じていたり、海外遠征で機材重量が限られるような場合には唯一に近い選択肢になるに違いありません。 最後に、このような斬新なコンセプトを製品として実現された開発者のIn-Joon Hwang氏、製品の評価と国内での販売に尽力されている天文ハウスTOMITA様、K-ASTEC様、CRUXを実際に使用し様々な有益なフィードバックを返されている現行ユーザーの皆様に敬意を表します。 ・本記事は天文ハウスTOMITA様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 ・記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 ・製品の購入およびお問い合わせは天文ハウスTOMITA様宛にお願いいたします。 ・本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 ・特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 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