高橋製作所より「FC/FSマルチフラットナー1.04×」の発売がアナウンスされています。発売日は8月10日、価格は税抜21,000円です(機種毎に3000円の「マルチCAリング」が別途必要です)。

FC/FSマルチフラットナー1.04× 発売のご案内
http://www.takahashijapan.com/ct-news/news_topics/news_180803_fcfs_mf104x.html

FC/FSマルチフラットナー1.04×はレンズ2枚構成で、レンズ相互の屈折率に差を付けることで高次の像面湾曲を旧型の1/3まで減少させることができました。また、中心像の赤と青のハローも減少させていて、よりシャープな星像が得られるフラットナーに進化しました。

フラットナーとは何か

「フラットナー」は、ごく屈折パワーの弱い光学系によって像面湾曲や非点収差などの天体望遠鏡の周辺像の悪化を改善するための光学系です。レデューサの場合は像を縮小するので高性能を発揮するには多くのレンズ枚数を必要としますが、フラットナーは比較的少ない構成枚数で実現可能です。実際に今回の製品の場合わずか「1群2枚」。

にもかかららず、上記の画像のようにスポット図は優秀です。スポット図だけがよい写真を得る要素ではありませんが(周辺減光の多寡、設計通りの品質を実現する製造・検品、接眼部の精度など多岐に渡ります)、従来品より1ランク上の性能を実現したように見えます。

今回の製品が画期的である理由

多機種対応

世の中に「汎用」を称するフラットナーやレデューサは多数存在しますが、それらは今一つ「冴えない」ものが多いのが実情です。フランジバックの調整機構(*)があるものはまだマシですが、それでもこの値を実際に調整するのは簡単なことではありません。

(*)2枚玉の屈折望遠鏡の残存収差はほぼF値で決まる一定の特性を示すため、厳密にはFが異なる鏡筒には異なった補正レンズが必要ですが、フランジバックの調整である程度の範囲の汎用性を持たせています。

高橋のこの製品では、機種毎に異なる光路長の「マルチCAリング」を用意することで異なる機種であっても高い性能を実現しています。実際に汎用フラットナーでフランジバックをあれこれ調整して試写した経験(*)からいうと、メーカーサイドで最適化が済まされている(*2)ことは大変ありがたいことです。



(*)エンドユーザーそれぞれに最適化を強いるのは、正直いって間違っています。

(*2)ただし、改造機の場合IRカットフィルターを外していることによりフランジバックがミリ単位で異なる可能性があり、より追い込みたければある程度の調整は必要かもしれません。

21,000円(税抜)という価格

安くても性能が良いものを提供する方法がある」ことを示した意味で画期的です。

わずか1群2枚の補正レンズですから、製造コストは高くないのでしょう。また、後述するように多くの同社製天体望遠鏡に対応した汎用設計であることも低価格化に寄与しているのでしょう。この価格で、同社製のほとんどの屈折望遠鏡がより高性能な写真鏡筒として使えることは、画期的なことです。

また、FC-50、FC-60、FC-65などの生産終了モデルにも対応する(予定)ことは高橋の「良心」と言えるでしょう。

デジタル時代では「明るさ」は必須の要素ではない

これまでフラットナーが、高性能化に注力されてこなかったのはもちろん理由があります。ニーズが少ないからです。この理由の半分は、フィルム時代に刷り込まれた「明るさは正義」の認識ではないでしょうか。

F8よりもF5.6。F5.6よりもF4。F4よりF2.8・・・ユーザーからするとやはり「明るい鏡筒が欲しい」のでしょう。特にフィルム時代は「暗いと写らない」のですから。

しかし、デジタルではもはやそうではありません。カメラの高感度化がほぼ一段落した現在では、明るさだけを追求するのではなく、撮りたい対象に合わせた焦点距離の選択、手持ちの鏡筒に合わせた対象の選択をうまくやれば、「暗い鏡筒」でもじゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。

まとめ

明るい対象を大きく撮りたいときにレデューサではなくフラットナーを使ってみることや、入門者が低価格の鏡筒にまず低価格なフラットナー仕様で天体写真デビューするようなケースは今後増えてくるものと予測します。

このような楽しみ方の多様性をもたらす製品が発売されたことを大いに歓迎したいと思います。

  タカハシより新型の低価格・高性能フラットナーが発売https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/4724db2836662196dc4572be210470c6-e1533438916127.pnghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/4724db2836662196dc4572be210470c6-150x150.png編集部望遠鏡高橋製作所より「FC/FSマルチフラットナー1.04×」の発売がアナウンスされています。発売日は8月10日、価格は税抜21,000円です(機種毎に3000円の「マルチCAリング」が別途必要です)。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1025676586702524416 FC/FSマルチフラットナー1.04× 発売のご案内 http://www.takahashijapan.com/ct-news/news_topics/news_180803_fcfs_mf104x.html FC/FSマルチフラットナー1.04×はレンズ2枚構成で、レンズ相互の屈折率に差を付けることで高次の像面湾曲を旧型の1/3まで減少させることができました。また、中心像の赤と青のハローも減少させていて、よりシャープな星像が得られるフラットナーに進化しました。 フラットナーとは何か 「フラットナー」は、ごく屈折パワーの弱い光学系によって像面湾曲や非点収差などの天体望遠鏡の周辺像の悪化を改善するための光学系です。レデューサの場合は像を縮小するので高性能を発揮するには多くのレンズ枚数を必要としますが、フラットナーは比較的少ない構成枚数で実現可能です。実際に今回の製品の場合わずか「1群2枚」。 にもかかららず、上記の画像のようにスポット図は優秀です。スポット図だけがよい写真を得る要素ではありませんが(周辺減光の多寡、設計通りの品質を実現する製造・検品、接眼部の精度など多岐に渡ります)、従来品より1ランク上の性能を実現したように見えます。 今回の製品が画期的である理由 多機種対応 世の中に「汎用」を称するフラットナーやレデューサは多数存在しますが、それらは今一つ「冴えない」ものが多いのが実情です。フランジバックの調整機構(*)があるものはまだマシですが、それでもこの値を実際に調整するのは簡単なことではありません。 (*)2枚玉の屈折望遠鏡の残存収差はほぼF値で決まる一定の特性を示すため、厳密にはFが異なる鏡筒には異なった補正レンズが必要ですが、フランジバックの調整である程度の範囲の汎用性を持たせています。 高橋のこの製品では、機種毎に異なる光路長の「マルチCAリング」を用意することで異なる機種であっても高い性能を実現しています。実際に汎用フラットナーでフランジバックをあれこれ調整して試写した経験(*)からいうと、メーカーサイドで最適化が済まされている(*2)ことは大変ありがたいことです。 (*)エンドユーザーそれぞれに最適化を強いるのは、正直いって間違っています。 (*2)ただし、改造機の場合IRカットフィルターを外していることによりフランジバックがミリ単位で異なる可能性があり、より追い込みたければある程度の調整は必要かもしれません。 21,000円(税抜)という価格 「安くても性能が良いものを提供する方法がある」ことを示した意味で画期的です。 わずか1群2枚の補正レンズですから、製造コストは高くないのでしょう。また、後述するように多くの同社製天体望遠鏡に対応した汎用設計であることも低価格化に寄与しているのでしょう。この価格で、同社製のほとんどの屈折望遠鏡がより高性能な写真鏡筒として使えることは、画期的なことです。 また、FC-50、FC-60、FC-65などの生産終了モデルにも対応する(予定)ことは高橋の「良心」と言えるでしょう。 デジタル時代では「明るさ」は必須の要素ではない これまでフラットナーが、高性能化に注力されてこなかったのはもちろん理由があります。ニーズが少ないからです。この理由の半分は、フィルム時代に刷り込まれた「明るさは正義」の認識ではないでしょうか。 F8よりもF5.6。F5.6よりもF4。F4よりF2.8・・・ユーザーからするとやはり「明るい鏡筒が欲しい」のでしょう。特にフィルム時代は「暗いと写らない」のですから。 しかし、デジタルではもはやそうではありません。カメラの高感度化がほぼ一段落した現在では、明るさだけを追求するのではなく、撮りたい対象に合わせた焦点距離の選択、手持ちの鏡筒に合わせた対象の選択をうまくやれば、「暗い鏡筒」でもじゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。 まとめ 明るい対象を大きく撮りたいときにレデューサではなくフラットナーを使ってみることや、入門者が低価格の鏡筒にまず低価格なフラットナー仕様で天体写真デビューするようなケースは今後増えてくるものと予測します。 このような楽しみ方の多様性をもたらす製品が発売されたことを大いに歓迎したいと思います。  編集部発信のオリジナルコンテンツ