ご注意)本記事へのコメントは当面承認しません。

詳しくは別記事に書きますが、この記事へのコメントは9/5 11:40以降、承認せず新規分は非公開とします。あしからずご了承下さい。

別記事はこちら。



ネットは諸刃の刃・「一家に一台、天体望遠鏡」その後

国立天文台の縣秀彦さん、国立天文台名誉教授の海部宣男さんが中心となったクラウドファインディングプロジェクト「最古の学問「天文学」を世界中の子どもたちに!」がスタートしています。

Academist・最古の学問「天文学」を世界中の子どもたちに!
https://academist-cf.com/projects/76

目標金額は180万円、7/29時点で残り37日、達成率59%。順調に支援者を伸ばしており、おそらく目標金額は達成できるのではないでしょうか。「宇宙への関心を育てたい」というプロジェクトの趣旨には大いに賛同しますし、実際多くの方から賛同のコメントと支援が集まっています。

しかし、天リフではあえてこのプロジェクトに対する疑問を提起したいと思います。

なぜ今、低価格の望遠鏡を「開発」するための資金集めなのだろうか?

プロジェクトの趣旨説明では、以下のように書かれています。

新望遠鏡キットの製作のため必要となる製造初期費用(金型の製作)の一部をご支援いただきたいと考え、クラウドファンディングに挑戦します。2008年以降、日本国内や海外にて行われた「君もガリレオ!」ワークショップで用いられたのは、口径4cmの天体望遠鏡キット2種類でした。新天体望遠鏡キットでは、より性能のよい口径5cmのものを製作します。

つまり、「一家に一台を実現するに足る新しい天体望遠鏡の開発が必要で、そのための金型の製作費用の一部に充当する資金を調達する」のがこのプロジェクトの具体的なアクションプランです。

同じ「宇宙への関心を育てたい」という思いを持つもの同士の足を引っ張る積もりは毛頭ありませんし、天下の縣先生、海部先生に喧嘩を売るつもりもないのですが、一言、言わせてください。

いまさら180万そこらの資金を調達するだけで「一家に一台の天体望遠鏡」が実現するのなら、もっと早く何らかの形で予算を取得できなかったのでしょうか?

「プロジェクトの趣旨に適合するような低価格の天体望遠鏡」を実現するためのキーファクターは何なのでしょうか?洒落たデザインの製品を実現することでOKなのでしょうか?

天文・宇宙は、子どもたちの関心・意欲が高い理科分野のひとつです。現在、比較的安価に購入可能な天体望遠鏡キットは複数あり、また日本では、小学校、中学校の理科のカリキュラムに天体観測が組み込まれています。しかし、学校でまとめてあるいは児童・生徒が個々に購入して利用する場合、性能や価格面等で十分とは言えず、授業の中で土星の環や金星の満ち欠けを観測できる生徒は稀です。

実際、低価格で良く見えて教育的効果を期待できる製品は既に世の中に以下のようなものが存在します。しかし、プロジェクトの現状評価では「学校でまとめてあるいは児童・生徒が個々に購入して利用する場合、性能や価格面等で十分とは言えず、」と書かれています。

はたしてそうなのでしょうか?

年間10万台規模で量産できるのであれば、価格はすぐにでも半分にできるでしょう。また「授業の中で土星の環や金星の満ち欠けを観測できる生徒は稀です。」というのは機材の性能の問題ではなく、教育現場で「夜」の活動が成約されることの問題です。若干のすり替え感はいなめません。

オルビイス・コルキットスピカ
http://www.orbys.co.jp/kolkit-jp/index.html

口径4cmの望遠鏡工作キット。税別2,800円。

オルビイス・KT-5cm
http://www.orbys.co.jp/kolkit-jp/kt5cm6cm.html

口径5cmの望遠鏡工作キット。税別3,600円。

 



スターゲイズ・QV50A120KIT
https://www.stargaze.co.jp/order3/QV50BK/SelfBuild.html

口径5cmの望遠鏡工作キット。写真は塩ビ管付きの「Aセット」、税別4,000円。

口径5cmの完成品天体望遠鏡。価格は約1万円。性能面では十分です。

https://academist-cf.com/projects/76

プロジェクトに寄せられたコメントの中で、唯一「全面賛同」でないコメントを引用します。

「子供たちが少ない予算で宇宙に触れられること」を目標に、既にこれまで多くの人が根気よくビジネスとの両立に取り組んでこられています。それらは皆小規模の会社で「星空を愛している」という強い情熱に支えられて努力し、継続してきています。そして回答には一言、「それも大切なこと」と書かれています。

「一家に一台、天体望遠鏡」の実現に必要なこと

もしかしたらこのプロジェクトには既に相当な金額の予算が付いているか、かなりの確度で見込まれていて、その広報宣伝の一環としてこのクラウドファインディングが戦略的に立ち上げられたのかもしれません。仮にそうであれば、1万円の寄付で望遠鏡1台ですから、コスパはともかく賛同者にとっての収支に問題はないのかもしれませんが、支援者の純粋な気持ちとしてはどうなのかなと思います。

それとも、今回のプロジェクトが成功することを一つの実績として、その価値を国に認めさせて予算を獲得することを目標にしているのかもしれません。ただ、いずれにしてもそういう「善意の焼き畑農業」が継続的に続くのか個人的には疑問です。(これは編集子が単にひねくれているだけかもしれませんし、世にあるクラウドファウンデイングの問題なのかもしれませんが)

いずれにしても「一家に一台、天体望遠鏡」という崇高な理念は、現実にはまだ実現されていませんし、現在の小規模な事業者にとっては遙か遠くの目標です。これまでと同じことをやっているだけでは実現しないでしょう。その実現のために天文学者が立ち上がった、という動きは賞賛されこそすれ、誰も否定できないでしょう。(だからこそ、クラウドファウンディングで賛同者が集まるのだともいえます)

しかし、天体望遠鏡が完成した後、誰が実際に「一家に一台」の世界の実現に尽力するのか。そのためには教育機関側の受け入れ体制の整備など、具体的に何が必要なのか。それは「星空を愛しているという強い情熱」だけで実現可能なのか。少なくとも年間60億程度(*)は見込まれるビジネスを実際に誰がどんな形で運営するのか。

(*)2015年時点での0歳人口は約100万人。今後も減少するとはいえ、1学年100万人と仮定します。望遠鏡が3000円として、年間30億円です。また、この教材を教育現場で運営するために必要な費用を同じ額だけかかると仮定。

正直、それが一番大事なことではないでしょうか。「安くて良い製品がない」ことの半分は事実誤認であり、そもそも解決すべき最大の課題はプロダクトの問題ではありません。支援者に「アカデミック・モデル」のような銘の打たれた望遠鏡が配布されるだけで終わりにならないことを強く願うものです。

寄せられたご意見

追記2018/9/1)

このような明らかな事実誤認が大手マスコミで拡散?されるのはマイナスですね。「これまでの望遠鏡が良くなかったので新しく作ります」という建て付けは一般には受けるかもしれませんが、何も問題を解決しません。

追記2018/9/1終)

SNSなどで本稿に寄せられたご意見を以下にピックアップしておきます。


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「一家に一台、天体望遠鏡」クラウドファウンディングへの疑問https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/8874a2adebe75f4bb6c9a25ee2a66d3e-1024x901.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/8874a2adebe75f4bb6c9a25ee2a66d3e-150x150.jpg編集部天文コラムご注意)本記事へのコメントは当面承認しません。 詳しくは別記事に書きますが、この記事へのコメントは9/5 11:40以降、承認せず新規分は非公開とします。あしからずご了承下さい。 別記事はこちら。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/09/05/6277/ 国立天文台の縣秀彦さん、国立天文台名誉教授の海部宣男さんが中心となったクラウドファインディングプロジェクト「最古の学問「天文学」を世界中の子どもたちに!」がスタートしています。 Academist・最古の学問「天文学」を世界中の子どもたちに! https://academist-cf.com/projects/76 目標金額は180万円、7/29時点で残り37日、達成率59%。順調に支援者を伸ばしており、おそらく目標金額は達成できるのではないでしょうか。「宇宙への関心を育てたい」というプロジェクトの趣旨には大いに賛同しますし、実際多くの方から賛同のコメントと支援が集まっています。 しかし、天リフではあえてこのプロジェクトに対する疑問を提起したいと思います。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1022603869493186565 なぜ今、低価格の望遠鏡を「開発」するための資金集めなのだろうか? プロジェクトの趣旨説明では、以下のように書かれています。 新望遠鏡キットの製作のため必要となる製造初期費用(金型の製作)の一部をご支援いただきたいと考え、クラウドファンディングに挑戦します。2008年以降、日本国内や海外にて行われた「君もガリレオ!」ワークショップで用いられたのは、口径4cmの天体望遠鏡キット2種類でした。新天体望遠鏡キットでは、より性能のよい口径5cmのものを製作します。 つまり、「一家に一台を実現するに足る新しい天体望遠鏡の開発が必要で、そのための金型の製作費用の一部に充当する資金を調達する」のがこのプロジェクトの具体的なアクションプランです。 同じ「宇宙への関心を育てたい」という思いを持つもの同士の足を引っ張る積もりは毛頭ありませんし、天下の縣先生、海部先生に喧嘩を売るつもりもないのですが、一言、言わせてください。 いまさら180万そこらの資金を調達するだけで「一家に一台の天体望遠鏡」が実現するのなら、もっと早く何らかの形で予算を取得できなかったのでしょうか? 「プロジェクトの趣旨に適合するような低価格の天体望遠鏡」を実現するためのキーファクターは何なのでしょうか?洒落たデザインの製品を実現することでOKなのでしょうか? 天文・宇宙は、子どもたちの関心・意欲が高い理科分野のひとつです。現在、比較的安価に購入可能な天体望遠鏡キットは複数あり、また日本では、小学校、中学校の理科のカリキュラムに天体観測が組み込まれています。しかし、学校でまとめてあるいは児童・生徒が個々に購入して利用する場合、性能や価格面等で十分とは言えず、授業の中で土星の環や金星の満ち欠けを観測できる生徒は稀です。 実際、低価格で良く見えて教育的効果を期待できる製品は既に世の中に以下のようなものが存在します。しかし、プロジェクトの現状評価では「学校でまとめてあるいは児童・生徒が個々に購入して利用する場合、性能や価格面等で十分とは言えず、」と書かれています。 はたしてそうなのでしょうか? 年間10万台規模で量産できるのであれば、価格はすぐにでも半分にできるでしょう。また「授業の中で土星の環や金星の満ち欠けを観測できる生徒は稀です。」というのは機材の性能の問題ではなく、教育現場で「夜」の活動が成約されることの問題です。若干のすり替え感はいなめません。 オルビイス・コルキットスピカ http://www.orbys.co.jp/kolkit-jp/index.html 口径4cmの望遠鏡工作キット。税別2,800円。 オルビイス・KT-5cm http://www.orbys.co.jp/kolkit-jp/kt5cm6cm.html 口径5cmの望遠鏡工作キット。税別3,600円。   スターゲイズ・QV50A120KIT https://www.stargaze.co.jp/order3/QV50BK/SelfBuild.html 口径5cmの望遠鏡工作キット。写真は塩ビ管付きの「Aセット」、税別4,000円。 口径5cmの完成品天体望遠鏡。価格は約1万円。性能面では十分です。 プロジェクトに寄せられたコメントの中で、唯一「全面賛同」でないコメントを引用します。 「子供たちが少ない予算で宇宙に触れられること」を目標に、既にこれまで多くの人が根気よくビジネスとの両立に取り組んでこられています。それらは皆小規模の会社で「星空を愛している」という強い情熱に支えられて努力し、継続してきています。そして回答には一言、「それも大切なこと」と書かれています。 「一家に一台、天体望遠鏡」の実現に必要なこと もしかしたらこのプロジェクトには既に相当な金額の予算が付いているか、かなりの確度で見込まれていて、その広報宣伝の一環としてこのクラウドファインディングが戦略的に立ち上げられたのかもしれません。仮にそうであれば、1万円の寄付で望遠鏡1台ですから、コスパはともかく賛同者にとっての収支に問題はないのかもしれませんが、支援者の純粋な気持ちとしてはどうなのかなと思います。 それとも、今回のプロジェクトが成功することを一つの実績として、その価値を国に認めさせて予算を獲得することを目標にしているのかもしれません。ただ、いずれにしてもそういう「善意の焼き畑農業」が継続的に続くのか個人的には疑問です。(これは編集子が単にひねくれているだけかもしれませんし、世にあるクラウドファウンデイングの問題なのかもしれませんが) いずれにしても「一家に一台、天体望遠鏡」という崇高な理念は、現実にはまだ実現されていませんし、現在の小規模な事業者にとっては遙か遠くの目標です。これまでと同じことをやっているだけでは実現しないでしょう。その実現のために天文学者が立ち上がった、という動きは賞賛されこそすれ、誰も否定できないでしょう。(だからこそ、クラウドファウンディングで賛同者が集まるのだともいえます) しかし、天体望遠鏡が完成した後、誰が実際に「一家に一台」の世界の実現に尽力するのか。そのためには教育機関側の受け入れ体制の整備など、具体的に何が必要なのか。それは「星空を愛しているという強い情熱」だけで実現可能なのか。少なくとも年間60億程度(*)は見込まれるビジネスを実際に誰がどんな形で運営するのか。 (*)2015年時点での0歳人口は約100万人。今後も減少するとはいえ、1学年100万人と仮定します。望遠鏡が3000円として、年間30億円です。また、この教材を教育現場で運営するために必要な費用を同じ額だけかかると仮定。 正直、それが一番大事なことではないでしょうか。「安くて良い製品がない」ことの半分は事実誤認であり、そもそも解決すべき最大の課題はプロダクトの問題ではありません。支援者に「アカデミック・モデル」のような銘の打たれた望遠鏡が配布されるだけで終わりにならないことを強く願うものです。 寄せられたご意見 追記2018/9/1) https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1035660262827642880 このような明らかな事実誤認が大手マスコミで拡散?されるのはマイナスですね。「これまでの望遠鏡が良くなかったので新しく作ります」という建て付けは一般には受けるかもしれませんが、何も問題を解決しません。 追記2018/9/1終) SNSなどで本稿に寄せられたご意見を以下にピックアップしておきます。 Facebookへの投稿シェアです。 クリックするとコメントが表示されます。 https://twitter.com/1031kentakai/status/1023506104997752833 https://twitter.com/JunkimIcy/status/1023508378243424256 https://twitter.com/M_A_F_/status/1023509494284734465編集部発信のオリジナルコンテンツ