2018/7/23 14:44追記)訂正あり。レデューサ使用時の周辺光量は96%ではなく86%の誤りでした。訂正し深くお詫びいたします。

ビクセンHPで、小型フローライト鏡筒「FL55SS」の情報が更新されています。この鏡筒はCP+2018でも出展されていた2枚玉のフローライト鏡筒で、高性能のフラットナー・レデューサも同時に発売されます。

ビクセンHP・FL55SS
https://www.vixen-m.co.jp/item/26201_4.html

現時点ではまだ発売日はHP上では明らかになっていませんが、本日HPの製品情報が更新されたようなので、間もなくリリースがあるかもしれません。



追記)本日13時にニュースリリースが出ています。発売日は7月27日(金)です。

ビクセンHP・新型鏡筒『FL55SS鏡筒』を2018年7月27日(金)に発売
https://www.vixen.co.jp/post/180723a-2/

FL55SSはどんな製品か

かねてからアナウンスされていた製品なので、スペックとしてのサプライズは今のところないのですが、口径55mm・焦点距離300mm、レデューサを付けて237mm F4.3となるミニ望遠鏡です。対物レンズはフローライトを使用した2枚玉構成。希望小売価格は税抜108,000円です。

リリース文には「ハイレゾHRシリーズアイピースとの組合せにより、小口径・短焦点ながら高い眼視性能を発揮します。」とありますが、これは事実としても「口径55mm」による光学性能の限界は大きいので、実際にはレデューサ・フラットナーを使用して写真用として使用されるケースが大半でしょう。

後述するようにレデューサ・フラットナーを含めると19.4万(税抜)と結構な価格になるのですが、高性能のカメラ用望遠レンズと比較すればさほど違いはありません。「これから天体写真をはじめてみたい」というユーザーにとっては、パーツ構成が複雑な天体望遠鏡システムはわかりにくい製品でもあります。その意味では、潔くレデューサ・フラットナーを込みにした製品としてしまって「入門者からベテランまで使える高性能写真鏡筒」として売り出した方がわかりやすいのかもしれません。

「237mm」という焦点距離は、タカハシのFS-60CB+レデューサの255mm、BORG55FLの200mmの間のレンジになります。焦点距離が長すぎないこのクラスはポータブル赤道儀での運用も可能です。この製品が天体写真のエントリ層をぜひ開拓してほしいものです。

レデューサとフラットナー

専用設計のレデューサとフラットナーが同時発売されます。CP+2018でスポット図が公開されていましたが、その通りであればフルサイズ周辺までかなりの高性能で、ひょっとするとクラスNo1の可能性もあります。

レデューサーHDキット for FL55SS
https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/
フラットナーHDキット for FL55SS
https://www.vixen.co.jp/product/37252_2/

レデューサは最近のビクセンの高性能レデューサと同じく、フラットナーとレデューサがそれぞれ別になっていて組み合わせて使うタイプ。イメージサークルは44mmとフルサイズをカバー。反射率0.1%の「ASコーティング(*)」が施されています。フラットナー単体で36,000円、レデューサ込みで86,000円(いずれも税別)。

(*)フラット補正に苦しんでいる方にはわかっていただけると思うのですが、天体写真における補正光学系の「低反射率コーティング」は「光量」のためではありません。総光量の差は誤差のようなもので、一番の違いは様々な内面反射による「フラットのムラが少なくなるかどうか」にあります。

補正光学系の内面反射はフラットにリング状のムラを発生させることもあり、反射率0.1%のASコーティング搭載は大歓迎。 https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/

CP+2018では「6万円くらい」という話もあったようですが、それよりもかなり高い価格設定になってしまいました。最近のビクセン製品でよくある「高い」の大合唱が聞こえてきそうですが、そういう人たちに「宇宙物理たんbot」風にメッセージを。

皆様、周辺でも流れないレデューサはおいくらならご満足なのかしら?

まあ、安くはありません。はっきりいってメチャ高いです。でも、お金で買えるものなら流れないレデューサが欲しいと皆さん心のどこかで思っていませんか?

https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/
https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/
https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/

スポット図。ここまではCP+2018で公表済み。

https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/

実写画像も公開されました。これは素晴らしい。スポット図は伊達ではありませんでした。これならフルサイズで周辺までばっちり使えそう。



豊富な周辺光量

周辺減光に関する情報と実写画像も公開されています。

https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/

フルサイズで、フラットナーのみでレデューサ使用時でともに96%。、レデューサ使用時で86%、APS-Cなら99%、97%。これは凄い。

追記2018/7/23 14:40
初出時のレデューサ使用時の周辺光量が間違っていました。正しくは「86%」です。訂正し深くお詫び申し上げます。

これは他社製品と比較して圧倒的なアドバンテージではないでしょうか。

初心者が苦しむフラット処理が相当に楽になりそうです。実のところ、この製品は性能的に「もしかしてミニVSDじゃないの?」という声もあります。周辺まで完璧に近い星像でしかも周辺減光が極めて少ないなら、焦点距離240mmの星野撮影鏡筒としてナンバーワンクラスとなる可能性もあるかも。

細かいところをいろいろと

かなり期待を煽ってしまいましたが、冷静に細かいところも。

鏡筒には1/4インチ、3/8インチのネジが切られた台座が付いています。強度が十分であれば、カスタム品の鏡筒バンドは不要になります。ビクセン規格のスライドプレートは鏡筒と比較していかにもデカすぎ。カメラを装着すると重心がドロチューブにかなり寄ると考えられ、ある程度の長さが必要なのはわかりますが、プレートは別売にして少しでも本体価格を下げた方が良かったのではないでしょうか。

純正のプレートを使わないのなら、厚手のアルカスイスのプレートを台座に固定することになると思われますが、ピントハンドル(これまたちょっとでかくて運搬時に邪魔になりそうですが)と干渉しないかどうかやや心配。

ドロチューブの合焦機構に減速微動装置がないのは写真用途としては若干気がかり。構図合わせのためのカメラ・ドロチューブの回転は直焦ワイドアダプタで行うようですが、DXの場合固定ネジが6個もあるので縦横の切替が面倒そう。

オートガイドを行う場合にガイドカメラを取り付ける場所も悩みの種になりそう。ファインダー台座に小型のガイドカメラを付けるのが一番スマートそうですが、レデューサでの運用(237mm)ならノータッチガイドに徹するのも一つの手かもしれません。

これらを含めた細かな実写における使い勝手がどうなのかは、実際に製品を使用した詳細のレビューを待ちたいと思います。

同クラス製品との比較

初出時にレデューサ使用時の焦点距離が300mmになっていたものを312mmに訂正しています。

同レンジの他社製品との比較表。タカハシのFS-60CBは実際には鏡筒バンドとカメラ回転装置(純正品の定価ベースで29,500円)が必要になりますから実質の差は4万円強。BORGとの比較では価格的には1.5倍くらい違っていて、上位機種のBORG71FLのレデューサセットよりもさらに高くなっています。

この値段差を実写性能で覆すことができるか。それがこの製品の命運を決めることになるでしょう。

まとめ

いろいろと批判も出そうな価格設定ですが、ユーザが価値を認めて満足のいく結果を出せるかどうかが全て。「高すぎる価格設定は若年層の参入を阻害する」という批判はもちろんあるでしょうが、BORGやタカハシ、さらにはカメラレンズという強力なライバルが存在するこのセグメントに今さら「ほどほど」の製品を投入しても、ユーザーにとっても会社経営にとってもあまり意味はないのではないでしょうか。

その意味では今回のこの製品はビクセンの大きなチャレンジであると前向きにとらえたいと思います。
量販店の店頭に25万円の望遠ズームレンズと、19.4万円のFL55SSとレデューサのセットがあるとき、これから天体写真を始めてみようと思う人はどちらに手が出るのか。そのへんも含めて、FL55SSのレポートを待ちたいものですね。

 

  【これは「ミニVSD」か?】ビクセンよりFL55SSが新発売https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/84b183eb2ad5b7fcfc21b8c2812837e6-1024x451.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/84b183eb2ad5b7fcfc21b8c2812837e6-150x150.jpg編集部望遠鏡2018/7/23 14:44追記)訂正あり。レデューサ使用時の周辺光量は96%ではなく86%の誤りでした。訂正し深くお詫びいたします。 ビクセンHPで、小型フローライト鏡筒「FL55SS」の情報が更新されています。この鏡筒はCP+2018でも出展されていた2枚玉のフローライト鏡筒で、高性能のフラットナー・レデューサも同時に発売されます。 ビクセンHP・FL55SS https://www.vixen-m.co.jp/item/26201_4.html 現時点ではまだ発売日はHP上では明らかになっていませんが、本日HPの製品情報が更新されたようなので、間もなくリリースがあるかもしれません。 追記)本日13時にニュースリリースが出ています。発売日は7月27日(金)です。 ビクセンHP・新型鏡筒『FL55SS鏡筒』を2018年7月27日(金)に発売 https://www.vixen.co.jp/post/180723a-2/ FL55SSはどんな製品か かねてからアナウンスされていた製品なので、スペックとしてのサプライズは今のところないのですが、口径55mm・焦点距離300mm、レデューサを付けて237mm F4.3となるミニ望遠鏡です。対物レンズはフローライトを使用した2枚玉構成。希望小売価格は税抜108,000円です。 リリース文には「ハイレゾHRシリーズアイピースとの組合せにより、小口径・短焦点ながら高い眼視性能を発揮します。」とありますが、これは事実としても「口径55mm」による光学性能の限界は大きいので、実際にはレデューサ・フラットナーを使用して写真用として使用されるケースが大半でしょう。 後述するようにレデューサ・フラットナーを含めると19.4万(税抜)と結構な価格になるのですが、高性能のカメラ用望遠レンズと比較すればさほど違いはありません。「これから天体写真をはじめてみたい」というユーザーにとっては、パーツ構成が複雑な天体望遠鏡システムはわかりにくい製品でもあります。その意味では、潔くレデューサ・フラットナーを込みにした製品としてしまって「入門者からベテランまで使える高性能写真鏡筒」として売り出した方がわかりやすいのかもしれません。 「237mm」という焦点距離は、タカハシのFS-60CB+レデューサの255mm、BORG55FLの200mmの間のレンジになります。焦点距離が長すぎないこのクラスはポータブル赤道儀での運用も可能です。この製品が天体写真のエントリ層をぜひ開拓してほしいものです。 レデューサとフラットナー 専用設計のレデューサとフラットナーが同時発売されます。CP+2018でスポット図が公開されていましたが、その通りであればフルサイズ周辺までかなりの高性能で、ひょっとするとクラスNo1の可能性もあります。 レデューサーHDキット for FL55SS https://www.vixen.co.jp/product/37253_9/ フラットナーHDキット for FL55SS https://www.vixen.co.jp/product/37252_2/ レデューサは最近のビクセンの高性能レデューサと同じく、フラットナーとレデューサがそれぞれ別になっていて組み合わせて使うタイプ。イメージサークルは44mmとフルサイズをカバー。反射率0.1%の「ASコーティング(*)」が施されています。フラットナー単体で36,000円、レデューサ込みで86,000円(いずれも税別)。 (*)フラット補正に苦しんでいる方にはわかっていただけると思うのですが、天体写真における補正光学系の「低反射率コーティング」は「光量」のためではありません。総光量の差は誤差のようなもので、一番の違いは様々な内面反射による「フラットのムラが少なくなるかどうか」にあります。 CP+2018では「6万円くらい」という話もあったようですが、それよりもかなり高い価格設定になってしまいました。最近のビクセン製品でよくある「高い」の大合唱が聞こえてきそうですが、そういう人たちに「宇宙物理たんbot」風にメッセージを。 皆様、周辺でも流れないレデューサはおいくらならご満足なのかしら? まあ、安くはありません。はっきりいってメチャ高いです。でも、お金で買えるものなら流れないレデューサが欲しいと皆さん心のどこかで思っていませんか? スポット図。ここまではCP+2018で公表済み。 実写画像も公開されました。これは素晴らしい。スポット図は伊達ではありませんでした。これならフルサイズで周辺までばっちり使えそう。 豊富な周辺光量 周辺減光に関する情報と実写画像も公開されています。 フルサイズで、フラットナーのみでレデューサ使用時でともに96%。、レデューサ使用時で86%、APS-Cなら99%、97%。これは凄い。 追記2018/7/23 14:40 ※初出時のレデューサ使用時の周辺光量が間違っていました。正しくは「86%」です。訂正し深くお詫び申し上げます。 これは他社製品と比較して圧倒的なアドバンテージではないでしょうか。 初心者が苦しむフラット処理が相当に楽になりそうです。実のところ、この製品は性能的に「もしかしてミニVSDじゃないの?」という声もあります。周辺まで完璧に近い星像でしかも周辺減光が極めて少ないなら、焦点距離240mmの星野撮影鏡筒としてナンバーワンクラスとなる可能性もあるかも。 細かいところをいろいろと かなり期待を煽ってしまいましたが、冷静に細かいところも。 鏡筒には1/4インチ、3/8インチのネジが切られた台座が付いています。強度が十分であれば、カスタム品の鏡筒バンドは不要になります。ビクセン規格のスライドプレートは鏡筒と比較していかにもデカすぎ。カメラを装着すると重心がドロチューブにかなり寄ると考えられ、ある程度の長さが必要なのはわかりますが、プレートは別売にして少しでも本体価格を下げた方が良かったのではないでしょうか。 純正のプレートを使わないのなら、厚手のアルカスイスのプレートを台座に固定することになると思われますが、ピントハンドル(これまたちょっとでかくて運搬時に邪魔になりそうですが)と干渉しないかどうかやや心配。 ドロチューブの合焦機構に減速微動装置がないのは写真用途としては若干気がかり。構図合わせのためのカメラ・ドロチューブの回転は直焦ワイドアダプタで行うようですが、DXの場合固定ネジが6個もあるので縦横の切替が面倒そう。 オートガイドを行う場合にガイドカメラを取り付ける場所も悩みの種になりそう。ファインダー台座に小型のガイドカメラを付けるのが一番スマートそうですが、レデューサでの運用(237mm)ならノータッチガイドに徹するのも一つの手かもしれません。 これらを含めた細かな実写における使い勝手がどうなのかは、実際に製品を使用した詳細のレビューを待ちたいと思います。 同クラス製品との比較 同レンジの他社製品との比較表。タカハシのFS-60CBは実際には鏡筒バンドとカメラ回転装置(純正品の定価ベースで29,500円)が必要になりますから実質の差は4万円強。BORGとの比較では価格的には1.5倍くらい違っていて、上位機種のBORG71FLのレデューサセットよりもさらに高くなっています。 この値段差を実写性能で覆すことができるか。それがこの製品の命運を決めることになるでしょう。 まとめ いろいろと批判も出そうな価格設定ですが、ユーザが価値を認めて満足のいく結果を出せるかどうかが全て。「高すぎる価格設定は若年層の参入を阻害する」という批判はもちろんあるでしょうが、BORGやタカハシ、さらにはカメラレンズという強力なライバルが存在するこのセグメントに今さら「ほどほど」の製品を投入しても、ユーザーにとっても会社経営にとってもあまり意味はないのではないでしょうか。 その意味では今回のこの製品はビクセンの大きなチャレンジであると前向きにとらえたいと思います。 量販店の店頭に25万円の望遠ズームレンズと、19.4万円のFL55SSとレデューサのセットがあるとき、これから天体写真を始めてみようと思う人はどちらに手が出るのか。そのへんも含めて、FL55SSのレポートを待ちたいものですね。    編集部発信のオリジナルコンテンツ