この記事の概要ときどきナガノによる連載企画。「長野県は宇宙県」その魅力を訪ねてゆきます。
第2回は最新のデジタル技術で生まれ変わろうとしている東京大学木曽観測所です。

 

観測所の見学エリアから。一般にも公開されていて毎日見学することができます。

重力波とマルチメッセンジャー天文学を支える木曽観測所

今年のノーベル物理学賞を受賞した「重力波」の研究。いま一番ホットな分野です。

重力波の発生の元となる現象は、「中性子星」や「ブラックホール」といった「すごく小さくてすごく重い天体」が「すごく速い速度で動く(ぶつかる)」ことによるものと考えられています。



出典:国立天文台 重力波を発生させる大質量の連星系

そのときに放出される重力波だけでなく、光や電波など、さまざまな「電磁波」も合わせて観測することで、より深く「何が起きたのか」を知ることができます。(「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれています)

しかし、「どこから重力波がやってきたのか」は現在の観測機器では「だいたいこの方向」くらいにしかわかりません。「ハッブル宇宙望遠鏡」や「すばる望遠鏡」などの最先端の観測機器は高解像度で宇宙を見ることができる一方で、「広い視野」をくまなく見渡すことは不得意。

木曽シュミット望遠鏡が一度に観測可能な視野。オリオン座の腰回りがすっぽり入る広さです。

そこで脚光を浴びているのが、「20平方度(満月の面積の100倍)」もの広い視野を一度に観測することが可能な木曽観測所のシュミット望遠鏡なのです。

「重力波イベント」という重力波の発生が観測されたとき、すかさずこの「シュミット望遠鏡」が「だいだいの方向」の周りを、広くくまなく観測するのです。そうすることで、重力波を発する天体の詳しい位置と様子を特定することができるのです。

広い視野を実現するシュミット望遠鏡

このシュミット望遠鏡は40年以上も前、1974年に設置されました。当時は36cm角もの巨大なガラス製の「乾板」を使用し、写真を撮影して観測するためのものでした。

木曽シュミット望遠鏡の構造図。重さ70トン。圧倒される巨大さです。

光を集める「主鏡」の直径は1.5メートル。「シュミット光学系」という写真専用の特殊な設計で、この大きさは当時も現在も世界最大級(第四位)です。

木曽シュミット望遠鏡で撮影したへールホッブ彗星。巨大な乾板に描き出された彗星の微細構造は圧巻。

視野は6度角、明るさはF3.1。一般に広く使われている35mm版カメラの 300mmF2.8の望遠レンズに相当する広さと明るさです。にもかかわらず焦点距離はその10倍の3300mm。重量はなんと70トン。

カメラの望遠レンズを全て10倍にしたスケール、世界最大級の「カメラ」なのです。

Wikipedia・シュミット式望遠鏡
https://ja.wikipedia.org/wiki/シュミット式望遠鏡

 

乾板の生産中止とデジタル化、そしてTomo-e Gozen(トモエゴゼン)への道のり

しかし、このシュミット望遠鏡は1990年代になって大きな転換を迫られます。肝心の写真撮影をするためのフィルム(実際には「乾板」と呼ばれるガラス製のプレート)の生産が終了してしまったのです。

36cm角の巨大な「ガラス製のフィルム=乾板」を収納するホルダー。乾板の生産が1990年代に中止されてしまったため、この機材はもう使用されていません。

 

フィルムがなければカメラはただの「箱」。このままでは巨大な遺物に化して「悲運の望遠鏡」になってしまいかねません。

1997年に完成した第2世代の2Kセンサー。本来の視野である36cm角から圧倒的に小さくなってしまいました。

そこからシュミット望遠鏡の「デジタル化」の動きが始まります。しかし、当時の技術ではセンサーの大きさが限られてしまい、シュミット望遠鏡の本来の性能が全く生かしきれない状態が長く続きました。

様々な試みを経て、2018年の観測開始に向けて進められているのが「(巴御前:ともえごぜん)」プロジェクト。84個ものCMOSセンサーを並べ、シュミット望遠鏡の性能をフルに発揮しようというものです。

Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)のココがスゴい!

「日本史最強の女子」巴御前

超広視野CMOSカメラ「トモエゴゼン」を木曽 シュミット望遠鏡の主焦点部に搭載したとき の概観(完成予想図).84 台の CMOS センサの 個々に光学フィルタが設置される.

平家物語に登場 する巴御前(ともえごぜん)は地元の誰もが認め るヒロインなのです。

出典:天文月報2017年1月:木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行)

「トモエゴゼン」の完成予想図。使用されているセンサーはCanon製のCMOSセンサー。デジタルカメラの技術が使用されています。これをずらりと84個並べるという力技。

「トモエゴゼン」という名前の由来は、木曽の地にゆかりの深い木曽義仲の片腕として源平の世を駆け抜けた、日本史上最強の女子「巴御前」だそうです。

キーワードは「時間分解能」

「トモエゴゼン」は、 さまざまな意味で「型破り」です。
その筆頭が「時間分解能」の飛躍的向上。

これまで、暗い天体を写真撮影するには数分、数十分の長い露光時間が必要でしたが、「トモエゴゼン」では明るい光学系と超高感度・高速読み出しのセンサーの強みを生かし、最短1/2秒で撮影することができます。動画で天体を観測するのです。

この高速性を生かし、一晩で全天を2回以上なめ尽くす(掃天)することができるのです。

10秒よりも短いスパンで変動する事象を観測できるのは「トモエゴゼン」だけ。

 

前出の酒向重行先生の論文から引用します。

木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行)
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2017_110_01/110_01_42.pdf

テレビモニタに映し出さ れた動画データを観たときに強い衝撃を受けまし た.画面を埋める大量の天体(これは想像の範囲 内)に加え,その前を芸術的に横断する薄雲の構 造.そして,数多くの人工衛星とスペースデブ リ.何よりも驚いたのは十数秒に 1 個流れる微光 流星です.私は長年,広視野カメラの開発に携わ り多くのデータに触れてきましたが,夜空に躍動 感を感じたのは初めてでした.このとき,本質的 に異なる世界をのぞき見た感覚を得ました.

秒のオーダーで変化する宇宙の現象については、実はほとんど未解明なのです。全く新しい現象が発見されるのではないかという大きな期待が膨らみます。

実はこの「本質的に異なる世界をのぞき見た感覚」は「電視」で感じる感覚と同じ。デジタル技術の進歩がもたらす宇宙の体験は、エンターテイメントとしてだけでなく、学術的にも意義があるものだとの確信を新たにしました。

上の動画は、この日の晩に御嶽山の近くでソニーのデジタルカメラα7Sと普通のカメラレンズで撮影した天体の動画です。
流れる雲、飛行機、そしてリアルタイムで見る星空をごらんください。

そしてこんな動画を、はるかに巨大なシュミット望遠鏡と84個のCMOSセンサーで撮影できるのが「トモエゴゼン」なのです。

様々な「型破り」

やや専門的になりますが、「トモエゴゼン」の「型破りなポイント」についてもまとめておきましょう。

木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行)

私た ちは近年の天文観測装置の大規模化に危機を感 じ,その突破口になりうる技術や概念を取り入れ ながらトモエゴゼンを開発しています.仕様と工 程の思い切った簡略化です.

CMOSセンサーであること

天体観測ではこれまで高い感度(量子効率)を得られるCCDセンサーを液体窒素などで冷却して使用するのが普通でしたが、「トモエゴゼン」では常温のCMOSセンサーを使用しています。

「トモエゴゼン」で使用されるキヤノン製CMOSセンサー。http://www.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/RESEARCH/symp2015/sako_2015.pdfより引用

CMOSセンサーは「読み出し速度が速い」「読み出しノイズが少ない」「低消費電力」などのメリットがあり、「トモエゴゼン」の大きな特長にもなっています。また、常温で運用できることは機器のコンパクト化・簡素化に大きく貢献しています。



動画撮影

「トモエゴゼン」では、望遠鏡の向き先を絶えず移動しながら、移動中も含めて観測結果をひたすら動画として取得し続けます。これによる生データの量はなんと一晩で30TB(テラバイト)

これほどの大きなデータを全て保存するのはコストがかかりすぎます。そこで、観測したデータをそのそばから解析し、「保存する価値のある」データだけを残し、いらないと判断したデータは消してしまうのだそう。そのために機械学習などのさまざまな手法が検討されているそうです。

http://www.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/RESEARCH/symp2015/sako_2015.pdfより引用

また、観測で見つかった「なんらかの現象」はリアルタイムに全世界の天文台ネットワークで共有され、必要に応じて追観測がされるとのこと。木曽観測所は宇宙を常に監視しつづける「見張り番」のような役割であるとも言えるでしょう。

木曽観測所へのアクセス

木曽観測所HP
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/ACCESS/access_p.html

車ならR19から20分ほど。木曽福島からも上松からも入れます。観測所に向かう道の入り口にはゲートと道標があるので見落とすことはないでしょう。ナビにも登録されていました。

1月〜3月は一般公開されていません。公開時間は12時から17時まで(11,12月は16時まで)。毎年8月には特別公開があり、講演会などが実施されます。
詳細は事前にHPで確認されることをオススメします。

おわりに・アマチュア天文ファンの心を揺さぶる「光学望遠鏡」

木曽観測所の訪問を思い立ったのは、子供の頃に見た「天文年鑑」の表紙の記憶からでした。ちょうど木曽観測所が開所したころです。

メルカリ出品情報より

それから40年。最新の光学観測施設は人工衛星やハワイなどのより空気の影響の少ない場所にに移行してきており、「今のうちに」木曽観測所を見に行こうと思ったのです。

ごめんなさい。浅はかでした。木曽観測所は新しい発想で再び天文学の檜舞台にまさに上がるときだったのです。

ドームの中も見せていただくことができました。この巨大な望遠鏡がアマチュアの望遠鏡と同じくらいの速度でギュンギュン動くさまは圧巻です。左は案内いただいた副所長の青木勉先生。

「CMOSカメラと光学望遠鏡で星の光を捉える」ことは、スケールの違いはあるものの本質的にやっていることはアマチュア天文愛好家のそれとあまり変わりありません。

短秒露光でノータッチガイド、冷却CCDからCMOSセンサーへ、静止画から動画へ。ほとんど全ての技術がアマチュア脳でもなんとか理解できるという世界には、大いに心をときめかされました。

2018年の「トモエゴゼン」の本格稼働とその成果が待ち遠しいですね!

フォトギャラリー

木曽観測所の110cmシュミット望遠鏡を納めるドーム全景。
「すべて山の中」の木曽ですが、この地は見晴らしが広く開けた場所にありました。

ドームのステンレス板。なんとも味わい深い色が出ていました。

ドームを支える建物は石作り。エアコンは日立の白くまくん。

入り口の案内板。
シュミット望遠鏡で撮影されたIC2177シーガル星雲の写真を使ったカレンダーが。

ドーム内部の展示室。木曽観測所のあゆみを記した年表。
この年表にこの後どんな成果が付け加えられていくのかが楽しみです。

右上のアンドロメダ星雲の写真は、木曽観測所で撮影したデータをご存じ「よっちゃん」さんが画像処理されたもの。

展示室。右に並んだ写真群は、コニカさんが特別に製造したカラーフィルム(*)で撮影されたものだそうです。

(*)初出時に「乾板」としていましたが、フィルムの誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。青木先生、ありがとうございました。

同じ敷地内にある30cm望遠鏡を収めるドーム。
シュミット望遠鏡のドームを観た後では、妙に小さく感じます^^

30cm ドームの隣、機器が撤去されてしまったスライディングルーフ。なんだか寂しげ。

ドームの中を案内していただいた副所長の青木勉先生。ありがとうございました。
「トモエゴゼン」を語る時、キラキラした眼をされていました。

観測所の少し手前にある名古屋大学の「太陽風」を観測するアンテナ。

木曽観測所の南数キロ、才児牧場にあった京大の上松観測所の近く。数年前に閉所になったそうですが、どこにあったのかは確認できませんでした。望遠鏡は西はりま天文台に移設されているそうです。

2018/7/5追記)
西はりま天文台に移設された1m赤外線望遠鏡。赤外線の反射率を高めるため、主鏡には金メッキが施されていました。 https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/11/IMG_2523_m-1-1024x683.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/11/IMG_2523_m-1-150x150.jpg編集部施設・企業ときどきナガノ  この記事の概要ときどきナガノによる連載企画。「長野県は宇宙県」その魅力を訪ねてゆきます。 第2回は最新のデジタル技術で生まれ変わろうとしている東京大学木曽観測所です。   重力波とマルチメッセンジャー天文学を支える木曽観測所 今年のノーベル物理学賞を受賞した「重力波」の研究。いま一番ホットな分野です。 重力波の発生の元となる現象は、「中性子星」や「ブラックホール」といった「すごく小さくてすごく重い天体」が「すごく速い速度で動く(ぶつかる)」ことによるものと考えられています。 そのときに放出される重力波だけでなく、光や電波など、さまざまな「電磁波」も合わせて観測することで、より深く「何が起きたのか」を知ることができます。(「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれています) しかし、「どこから重力波がやってきたのか」は現在の観測機器では「だいたいこの方向」くらいにしかわかりません。「ハッブル宇宙望遠鏡」や「すばる望遠鏡」などの最先端の観測機器は高解像度で宇宙を見ることができる一方で、「広い視野」をくまなく見渡すことは不得意。 そこで脚光を浴びているのが、「20平方度(満月の面積の100倍)」もの広い視野を一度に観測することが可能な木曽観測所のシュミット望遠鏡なのです。 「重力波イベント」という重力波の発生が観測されたとき、すかさずこの「シュミット望遠鏡」が「だいだいの方向」の周りを、広くくまなく観測するのです。そうすることで、重力波を発する天体の詳しい位置と様子を特定することができるのです。 広い視野を実現するシュミット望遠鏡 このシュミット望遠鏡は40年以上も前、1974年に設置されました。当時は36cm角もの巨大なガラス製の「乾板」を使用し、写真を撮影して観測するためのものでした。 光を集める「主鏡」の直径は1.5メートル。「シュミット光学系」という写真専用の特殊な設計で、この大きさは当時も現在も世界最大級(第四位)です。 視野は6度角、明るさはF3.1。一般に広く使われている35mm版カメラの 300mmF2.8の望遠レンズに相当する広さと明るさです。にもかかわらず焦点距離はその10倍の3300mm。重量はなんと70トン。 カメラの望遠レンズを全て10倍にしたスケール、世界最大級の「カメラ」なのです。 Wikipedia・シュミット式望遠鏡 https://ja.wikipedia.org/wiki/シュミット式望遠鏡   乾板の生産中止とデジタル化、そしてTomo-e Gozen(トモエゴゼン)への道のり しかし、このシュミット望遠鏡は1990年代になって大きな転換を迫られます。肝心の写真撮影をするためのフィルム(実際には「乾板」と呼ばれるガラス製のプレート)の生産が終了してしまったのです。   フィルムがなければカメラはただの「箱」。このままでは巨大な遺物に化して「悲運の望遠鏡」になってしまいかねません。 そこからシュミット望遠鏡の「デジタル化」の動きが始まります。しかし、当時の技術ではセンサーの大きさが限られてしまい、シュミット望遠鏡の本来の性能が全く生かしきれない状態が長く続きました。 様々な試みを経て、2018年の観測開始に向けて進められているのが「(巴御前:ともえごぜん)」プロジェクト。84個ものCMOSセンサーを並べ、シュミット望遠鏡の性能をフルに発揮しようというものです。 Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)のココがスゴい! 「日本史最強の女子」巴御前 平家物語に登場 する巴御前(ともえごぜん)は地元の誰もが認め るヒロインなのです。 出典:天文月報2017年1月:木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行) 「トモエゴゼン」の完成予想図。使用されているセンサーはCanon製のCMOSセンサー。デジタルカメラの技術が使用されています。これをずらりと84個並べるという力技。 「トモエゴゼン」という名前の由来は、木曽の地にゆかりの深い木曽義仲の片腕として源平の世を駆け抜けた、日本史上最強の女子「巴御前」だそうです。 キーワードは「時間分解能」 「トモエゴゼン」は、 さまざまな意味で「型破り」です。 その筆頭が「時間分解能」の飛躍的向上。 これまで、暗い天体を写真撮影するには数分、数十分の長い露光時間が必要でしたが、「トモエゴゼン」では明るい光学系と超高感度・高速読み出しのセンサーの強みを生かし、最短1/2秒で撮影することができます。動画で天体を観測するのです。 この高速性を生かし、一晩で全天を2回以上なめ尽くす(掃天)することができるのです。 木曽 超広視野高速CMOSカメラTomoe Gozenの開発の進捗報告http://www.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/RESEARCH/symp2015/sako_2015.pdf   前出の酒向重行先生の論文から引用します。 木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行) http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2017_110_01/110_01_42.pdf テレビモニタに映し出さ れた動画データを観たときに強い衝撃を受けまし た.画面を埋める大量の天体(これは想像の範囲 内)に加え,その前を芸術的に横断する薄雲の構 造.そして,数多くの人工衛星とスペースデブ リ.何よりも驚いたのは十数秒に 1 個流れる微光 流星です.私は長年,広視野カメラの開発に携わ り多くのデータに触れてきましたが,夜空に躍動 感を感じたのは初めてでした.このとき,本質的 に異なる世界をのぞき見た感覚を得ました. 秒のオーダーで変化する宇宙の現象については、実はほとんど未解明なのです。全く新しい現象が発見されるのではないかという大きな期待が膨らみます。 実はこの「本質的に異なる世界をのぞき見た感覚」は「電視」で感じる感覚と同じ。デジタル技術の進歩がもたらす宇宙の体験は、エンターテイメントとしてだけでなく、学術的にも意義があるものだとの確信を新たにしました。 https://youtu.be/7EBtQegPRBU 上の動画は、この日の晩に御嶽山の近くでソニーのデジタルカメラα7Sと普通のカメラレンズで撮影した天体の動画です。 流れる雲、飛行機、そしてリアルタイムで見る星空をごらんください。 そしてこんな動画を、はるかに巨大なシュミット望遠鏡と84個のCMOSセンサーで撮影できるのが「トモエゴゼン」なのです。 様々な「型破り」 やや専門的になりますが、「トモエゴゼン」の「型破りなポイント」についてもまとめておきましょう。 木曽超広視野 CMOS カメラ 「トモエゴゼン」 による重力波可視光対応天体の探査(酒向重行) 私た ちは近年の天文観測装置の大規模化に危機を感 じ,その突破口になりうる技術や概念を取り入れ ながらトモエゴゼンを開発しています.仕様と工 程の思い切った簡略化です. CMOSセンサーであること 天体観測ではこれまで高い感度(量子効率)を得られるCCDセンサーを液体窒素などで冷却して使用するのが普通でしたが、「トモエゴゼン」では常温のCMOSセンサーを使用しています。 CMOSセンサーは「読み出し速度が速い」「読み出しノイズが少ない」「低消費電力」などのメリットがあり、「トモエゴゼン」の大きな特長にもなっています。また、常温で運用できることは機器のコンパクト化・簡素化に大きく貢献しています。 動画撮影 「トモエゴゼン」では、望遠鏡の向き先を絶えず移動しながら、移動中も含めて観測結果をひたすら動画として取得し続けます。これによる生データの量はなんと一晩で30TB(テラバイト)。 これほどの大きなデータを全て保存するのはコストがかかりすぎます。そこで、観測したデータをそのそばから解析し、「保存する価値のある」データだけを残し、いらないと判断したデータは消してしまうのだそう。そのために機械学習などのさまざまな手法が検討されているそうです。 また、観測で見つかった「なんらかの現象」はリアルタイムに全世界の天文台ネットワークで共有され、必要に応じて追観測がされるとのこと。木曽観測所は宇宙を常に監視しつづける「見張り番」のような役割であるとも言えるでしょう。 木曽観測所へのアクセス 木曽観測所HP http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/ACCESS/access_p.html 車ならR19から20分ほど。木曽福島からも上松からも入れます。観測所に向かう道の入り口にはゲートと道標があるので見落とすことはないでしょう。ナビにも登録されていました。 1月〜3月は一般公開されていません。公開時間は12時から17時まで(11,12月は16時まで)。毎年8月には特別公開があり、講演会などが実施されます。 詳細は事前にHPで確認されることをオススメします。 おわりに・アマチュア天文ファンの心を揺さぶる「光学望遠鏡」 木曽観測所の訪問を思い立ったのは、子供の頃に見た「天文年鑑」の表紙の記憶からでした。ちょうど木曽観測所が開所したころです。 それから40年。最新の光学観測施設は人工衛星やハワイなどのより空気の影響の少ない場所にに移行してきており、「今のうちに」木曽観測所を見に行こうと思ったのです。 ごめんなさい。浅はかでした。木曽観測所は新しい発想で再び天文学の檜舞台にまさに上がるときだったのです。 「CMOSカメラと光学望遠鏡で星の光を捉える」ことは、スケールの違いはあるものの本質的にやっていることはアマチュア天文愛好家のそれとあまり変わりありません。 短秒露光でノータッチガイド、冷却CCDからCMOSセンサーへ、静止画から動画へ。ほとんど全ての技術がアマチュア脳でもなんとか理解できるという世界には、大いに心をときめかされました。 2018年の「トモエゴゼン」の本格稼働とその成果が待ち遠しいですね! フォトギャラリー 木曽観測所の110cmシュミット望遠鏡を納めるドーム全景。 「すべて山の中」の木曽ですが、この地は見晴らしが広く開けた場所にありました。 ドームのステンレス板。なんとも味わい深い色が出ていました。 ドームを支える建物は石作り。エアコンは日立の白くまくん。 入り口の案内板。 シュミット望遠鏡で撮影されたIC2177シーガル星雲の写真を使ったカレンダーが。 ドーム内部の展示室。木曽観測所のあゆみを記した年表。 この年表にこの後どんな成果が付け加えられていくのかが楽しみです。 右上のアンドロメダ星雲の写真は、木曽観測所で撮影したデータをご存じ「よっちゃん」さんが画像処理されたもの。 展示室。右に並んだ写真群は、コニカさんが特別に製造したカラーフィルム(*)で撮影されたものだそうです。 (*)初出時に「乾板」としていましたが、フィルムの誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。青木先生、ありがとうございました。 同じ敷地内にある30cm望遠鏡を収めるドーム。 シュミット望遠鏡のドームを観た後では、妙に小さく感じます^^ 30cm ドームの隣、機器が撤去されてしまったスライディングルーフ。なんだか寂しげ。 ドームの中を案内していただいた副所長の青木勉先生。ありがとうございました。 「トモエゴゼン」を語る時、キラキラした眼をされていました。 観測所の少し手前にある名古屋大学の「太陽風」を観測するアンテナ。 木曽観測所の南数キロ、才児牧場にあった京大の上松観測所の近く。数年前に閉所になったそうですが、どこにあったのかは確認できませんでした。望遠鏡は西はりま天文台に移設されているそうです。 2018/7/5追記) 西はりま天文台に移設された1m赤外線望遠鏡。赤外線の反射率を高めるため、主鏡には金メッキが施されていました。編集部発信のオリジナルコンテンツ