昨日(2017/10/3)ノーベル物理学賞の受賞者が発表されました。大方の予想どおり、重力波関連です。

受賞者はレイナー・ワイス(Rainer Weiss)さん、バリー・バリッシュ(Barry C. Barish)さん、キップ・ソーン(Kip S. Thorne)さんの3名。受賞の理由は重力波の直接検出(2016年)。ノーベル物理学賞がこれほど短いスパンで贈られるのは極めて異例のことだそうです。

国立天文台HP 2017年ノーベル物理学賞が重力波検出の功績に授与
https://www.nao.ac.jp/news/topics/2017/20171003-nobelprize.html


ブラックホール合体で放出された重力波のイメージ。

3人の受賞者の基礎的貢献はもちろんですが、今回の受賞は、この成果を得るために3世代にわたる世界中の科学者が尽くしてきた努力がたたえられたものと言えます。検出からこれほど早くノーベル賞が授与されるのはたいへんまれなことです。今回の選出によって、ノーベル賞委員会は、この発見が天文学や基礎物理学に与えた影響の大きさについても評価したのです。



2017年ノーベル物理学賞の発表を受けての梶田所長のコメント
http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/KAGRA_Nobel/

(前略)
21世紀はまぎれもなく重力波天文学の創成と発展の世紀となります。今後も多波長にわたる電磁波、ニュートリノなどによる天文学と連携したマルチメッセンジャー天文学が展開されていくはずです。
(中略)
さて、我々はKAGRAの建設を加速し、一刻も早く高い感度を実現してLIGO-Virgoが構築した重力波国際観測ネットワークに参加し、重力波天文学という新たな学問分野に貢献していくつもりです。LIGO-Virgoに加えてKAGRAが加わることで、重力波源の全天カバーや、方向などの決定精度の更なる向上、重力波の偏波などからの一般相対性理論の検証などを行って行きます。

宇宙には、まだまだ重力波を観測手段として研究すべき天体現象がたくさんあり、その観測を通して新たな謎も見つかるはずです。それを国際重力波観測ネットワークの共同作業として解き明かしていきたいと考えています。

今回受賞したLIGOとVirgoは2年前に稼働を開始したアメリカと欧州の観測施設です。これに日本のKAGRAが加われば3地点で重力波を観測できるようになり、「重力波が直接検出された」という段階からさらに進んで「重力波で見た宇宙の姿」を観測し、宇宙の新たな謎を解き明かしたり、新たな謎を見つけることで、さらに研究が大きく進んでいくことが期待されます。



しかし、手放しで喜んでいる状況では全くありません。
梶田所長は別のインタビューで以下のように述べられています。

日刊工業新聞
どうなる日本の科学・ノーベル賞受賞者に聞く(1)東大宇宙線研究所所長・梶田隆章氏
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00445036

―物理学賞が決まったその日から、基礎研究や若手支援の重要性を説いてきました。

「この2年間、機会を頂くたびに日本の科学技術が危機的な状況にあることを説明してきた。特に若手研究者の待遇は厳しい。ただメッセージがどれだけ伝わっているのかはわからない。これまでの政策や大学改革は本質的に正しかったのだろうか。少なくとも科学技術立国には向かっていない。日本はどんな国を目指すのか。もし科学技術でないなら、何かを示してほしい」

 

編集子もつい最近某放送局の番組で「科学振興のために子供たちに科学に興味をもたせるような、なんとかかんとか」というのを目にしましたが、問題はそこではありません。

科学に興味を持って育ち、理工系の大学に進んで研究者を志し、博士号を取得した研究者に待っているのはどんな環境なのか。科学者として一人前に育ったとしても、喰って行けなければ仕方がないのです。

今ノーベル賞の受賞発表で一喜一憂したりイベントのように煽るのは、日本の過去の「貯金」にすがっているだけに過ぎません。第一線の研究者の声を真摯にうけとめてほしいものです。 編集部サイエンス昨日(2017/10/3)ノーベル物理学賞の受賞者が発表されました。大方の予想どおり、重力波関連です。 受賞者はレイナー・ワイス(Rainer Weiss)さん、バリー・バリッシュ(Barry C. Barish)さん、キップ・ソーン(Kip S. Thorne)さんの3名。受賞の理由は重力波の直接検出(2016年)。ノーベル物理学賞がこれほど短いスパンで贈られるのは極めて異例のことだそうです。 国立天文台HP 2017年ノーベル物理学賞が重力波検出の功績に授与 https://www.nao.ac.jp/news/topics/2017/20171003-nobelprize.html ブラックホール合体で放出された重力波のイメージ。 3人の受賞者の基礎的貢献はもちろんですが、今回の受賞は、この成果を得るために3世代にわたる世界中の科学者が尽くしてきた努力がたたえられたものと言えます。検出からこれほど早くノーベル賞が授与されるのはたいへんまれなことです。今回の選出によって、ノーベル賞委員会は、この発見が天文学や基礎物理学に与えた影響の大きさについても評価したのです。 2017年ノーベル物理学賞の発表を受けての梶田所長のコメント http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/KAGRA_Nobel/ (前略) 21世紀はまぎれもなく重力波天文学の創成と発展の世紀となります。今後も多波長にわたる電磁波、ニュートリノなどによる天文学と連携したマルチメッセンジャー天文学が展開されていくはずです。 (中略) さて、我々はKAGRAの建設を加速し、一刻も早く高い感度を実現してLIGO-Virgoが構築した重力波国際観測ネットワークに参加し、重力波天文学という新たな学問分野に貢献していくつもりです。LIGO-Virgoに加えてKAGRAが加わることで、重力波源の全天カバーや、方向などの決定精度の更なる向上、重力波の偏波などからの一般相対性理論の検証などを行って行きます。 宇宙には、まだまだ重力波を観測手段として研究すべき天体現象がたくさんあり、その観測を通して新たな謎も見つかるはずです。それを国際重力波観測ネットワークの共同作業として解き明かしていきたいと考えています。 今回受賞したLIGOとVirgoは2年前に稼働を開始したアメリカと欧州の観測施設です。これに日本のKAGRAが加われば3地点で重力波を観測できるようになり、「重力波が直接検出された」という段階からさらに進んで「重力波で見た宇宙の姿」を観測し、宇宙の新たな謎を解き明かしたり、新たな謎を見つけることで、さらに研究が大きく進んでいくことが期待されます。 しかし、手放しで喜んでいる状況では全くありません。 梶田所長は別のインタビューで以下のように述べられています。 日刊工業新聞 どうなる日本の科学・ノーベル賞受賞者に聞く(1)東大宇宙線研究所所長・梶田隆章氏 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00445036 ―物理学賞が決まったその日から、基礎研究や若手支援の重要性を説いてきました。 「この2年間、機会を頂くたびに日本の科学技術が危機的な状況にあることを説明してきた。特に若手研究者の待遇は厳しい。ただメッセージがどれだけ伝わっているのかはわからない。これまでの政策や大学改革は本質的に正しかったのだろうか。少なくとも科学技術立国には向かっていない。日本はどんな国を目指すのか。もし科学技術でないなら、何かを示してほしい」   編集子もつい最近某放送局の番組で「科学振興のために子供たちに科学に興味をもたせるような、なんとかかんとか」というのを目にしましたが、問題はそこではありません。 科学に興味を持って育ち、理工系の大学に進んで研究者を志し、博士号を取得した研究者に待っているのはどんな環境なのか。科学者として一人前に育ったとしても、喰って行けなければ仕方がないのです。 今ノーベル賞の受賞発表で一喜一憂したりイベントのように煽るのは、日本の過去の「貯金」にすがっているだけに過ぎません。第一線の研究者の声を真摯にうけとめてほしいものです。編集部発信のオリジナルコンテンツ